ナタリー PowerPush - OverTheDogs
本当は怖いオバ犬
1人で考えてると不安になることがいっぱいあると思う
──先程アルバムには音が当たってる箇所がある、不協和音も意図的に仕込んでいると言ってましたよね。これは1曲目の「ミスレル」のピアノとか?
うん。あの曲と「凡考性命紊」はまさにバチ当たりですね。
──3曲目の「どこぞの果て」にもそういうところあります?
あの曲は、音が当たってるのはないかな。けど、ちょっと変なところで歌だけマイナーにしたりはしてます。
──これってどういう意識のもとに作ったんですか? 「音が当たる」というのを説明するなら、それはどういう感覚なんでしょうか?
この音を鳴らしたときにこの音が来ると不協和音に聴こえるっていうのがあるんです。例えば自分のメロディに対してピアノの音が当たる、とか。でも、やっぱりピアノの星(英二郎)くんはそういう音を乗っけるのを避けちゃうんです。単純に気持ち悪い音だから。でも、僕は音楽的な理屈をわからないし、気持ち悪いからこそいいって言い切ってしまえるから、そこを大事にしたんですよね。だから「凡考性命紊」の不協和音のピアノも実は僕がガーンって弾いていて。
──そうなんだ。
ここの音は気持ち悪くて気持ちいいみたいなところを探していったりする作業をしてましたね。
──そういうのは、楽器をちゃんと弾ける人、それから音楽理論をちゃんと知ってる人だと避けてしまうポイントなんですね。
大抵避けますね。そういうのって「教師になったからこの言葉は言えない」とかと一緒なんですよね。知識とか常識が身に付いてきてしまうので、できなくなる。でも、自分は曲を作ってる人間だからこそ、そこは常識じゃなくていい。気持ち悪いとか怖いって思わせたほうが勝ちだと。星くんの気持ち悪さはわかるんだけど、「大丈夫!」って言って。
──実際、聴いてても、不協和音のあるところで「え?」って惹かれました。
しめしめって感じですね。
──ちなみに、「ミスレル」はどういうことを歌おうと思って書いた曲ですか?
いつも1人であれこれ考えていると、不安になることっていっぱいあると思うんです。でも、誰か味方がいて大丈夫って言ってくれた瞬間に浄化されることってすごく多くて。それはメンバーしかり家族しかりいろいろあるんですけど。例えば受験に失敗して落ち込んでいるときに、母親が「大丈夫だよ」って言うだけで、すごい力をもらえるんじゃないかって。僕はそういう言葉に助けられたりとかすることが多いから、逆に誰かがミスったり落ち込んでいるときも「大丈夫だよ」って笑って言えたらいいなと思って、すごい前向きに書いた感じです。
──なるほど。そういう歌詞の曲に不協和音が入っているというのも、考えると奥が深いですね。
そう、やっぱり一瞬でも不安がないと。1から10まで笑いとか、1から10まで悲しみとかっていうのは逆に届かない気がするんですね。僕はポップな音楽が作りたいと思ってるんですけど、1から10までそればっかり意識してしまったらちょっと違うんじゃないかなとか、言葉は届かないんじゃないかなとかっていう気がする。つまんなくなる気がするので。
つじつまが合わなくていいし、理不尽であっていいし、不条理であっていい
──「凡考性命紊」に関してはどうでしょう? 「頭の中で誰かが言う まともな人などいやしない」という歌詞にしても、パンキッシュな曲調にしても、アルバムでは最もアグレッシブな曲になっていますが、これはどうやって作ったんですか?
この曲は、どういう人がまともな人なのかわからないし、そもそも自分がまともなのか、目の前の相手がまともなのか、ひたすら悩んでいるような歌で。そういう歌詞なので、レコーディングとはいえ、きちんと弾くのは違うと思ったんです。うちのギターが最初に1回弾いたんですけど、やっぱりちゃんとしてるんですよね。だから「ちゃんとしてないほうが良くない?」っていう話をして、そっから僕がガーッとアルコールを摂取して「じゃ、弾きます」って録った(笑)。「こっちだな」って思いました。
──不安定さとか、勢いとか、はみ出してしまうものを曲が求めていたという?
そうですね。自分が思う正しいやり方、人から見たらまともじゃないかもしれないけど僕の中で一番まともなやり方をしてみたという感じですね。もちろん音楽を真面目にやりたいとは思っているけど、でも真面目という言葉にもいろいろな形があると思っていて。僕の中で一番真面目なやり方で録ったなとは思います。
──この曲の歌詞はアルバムの中でも、まさに「ゾクッとするポイント」だと思います。しかも、「結局みんなまともじゃない」って言って終わってる。解決してない、という。
でも、僕の中ではこれが浄化なんですよね。みんなまともじゃなかったっていう結論が、僕にとっての解決になっている。こういう曲があってバンドがほとんどいないドJ-POPアーティスト中心のレコード会社所属(ドリーミュージック)ですっていうのも面白いなと思って(笑)。
──ははは!(笑)
例えば先輩アーティストのFUNKY MONKEY BABYSがFUNKY MONKEY BABYSみたいなことをやるのは全然いいんですけれど、それと同じことをウチらがやろうとしても格好悪いだけじゃないですか。僕にとってはこういうことをやっているのが、すごくポップだと思うんですよ。
──この「凡考性命紊」はいつ頃の気持ちで書いた曲ですか?
これ意外と新しいんですよね。なんなんですかねこの曲(笑)。僕どうやって書いたんだろ?
──(笑)。「サイレント」は学生時代の自分が思ったことだということですけれど、あの曲の自分も「凡考性命紊」の自分もリアルですか?
そうですね。もう、全部リアル。だから、さっきも言ったように、つじつまが合わなくていいし、理不尽であっていいし、不条理であっていいものだと思っていて。ひとつの信念を歌うんじゃなくて、その時々に思ったこととか疑問に思ったことを歌にするのが僕のやり方なんですよね。
──「宙、2秒」も印象的な曲ですよね。「こんな歌作る僕は中二病」という言葉が飛び込んでくる。「えっ!? こんなこと歌っちゃうんだ」ってびっくりしました。
昔の自分は、中二病とか、インストール、メール、ガチ、超とか、そういう普遍的ではない言葉を使うのがすごく嫌だったんです。でも、自分を客観視して見られるようになってから、遊べるようになったんですね。不協和音にしてもそうだけど、やっちゃいけないことも面白ければやっていいと思うようになってから書けた曲です。「中二病」っていう歌詞はメンバーにも驚かれましたね。僕はこの歌詞が自分そのものだという感覚がありましたけど。
──「中二病」と「宙に2秒浮く」というのが引っかけられているわけですけど、思い付いたときはどんな感じでした?
バカだなと思いました(笑)。くだらないなと思いながらも、でもくだらない感じも自分だし。すげえ正直だと思います。
収録曲
- プレゼントの降る街
- マインストール
収録曲
- ミスレル
- チョコレート
- どこぞの果て
- プレゼントの降る街
- 宙、2秒
- 凡考性命紊
- サイレント
- 夜光列車
- マインストール
- ついで
- 愛(album version)
- カレーでおはよう
LIVE INFORMATION
OverTheDogsで“わんわんわんの日”
2012年11月1日(木)
東京都 渋谷CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
<出演者>
OverTheDogs / ナノウ / The SALOVERS
OverTheDogs(おーばーざどっぐす)
恒吉豊(Vo, G)、樋口三四郎(G, Cho)、星英二郎(Key, Cho)、佐藤ダイキ(B)からなる「オバ犬」の愛称で知られるロックバンド。2002年に東京・福生で結成。インディーズでシングル「おとぎ話」、アルバム「A STAR LIGHT IN MY LIFE」をリリースしたのち、FOGHORNに移籍。2011年10月にリリースされたメジャー1stアルバム「トケメグル」は、プロデューサーとして参加した亀田誠治、佐久間正英、いしわたり淳治の手により、バンドの持つポップネスがさらに磨かれた作品となった。2012年は3月にミニアルバム「トイウ、モノガ、アルナラ」、10月にメジャー1stシングル「プレゼントの降る街」、11月にフルアルバム「プレゼント」をリリース。