Ovallが12月4日に新作アルバム「Ovall」をリリースした。
メンバー3人それぞれが、ソロ活動のほか、サポートミュージシャンやプロデューサーとしてバンドの外でも活躍するOvallの新作は、「ただ“良い音とは何か”を徹底的に追究した」という全9曲に。音楽ナタリーでは、このセルフタイトルを冠した新作について、3人に話を聞いた。
取材・文 / 西澤裕郎 撮影 / 斎藤大嗣
新しいスタジオで低音をしっかり
──本作の紹介文には「ただ『良い音とは何か』を徹底的に追究し完成した究極の9曲」と書かれていますが、人によっていい音の基準は違うと思うんです。録音機材やスピーカー、イヤフォンなどの違いであったり、ハイレゾ音源であったりと要素もさまざまで。音楽を作る環境も聴く環境も変わってきている中で、Ovallはどういうところにいい音を定めて、作品を作っていったんでしょう。
Shingo Suzuki(B) おっしゃる通りで、10年前に比べると単純に録音環境がよくなってきているし、録り音もちょっとずつよくなってきているんです。録り音の解像度とか緻密さも前より上がっていて。そんな中、せっかくバンドでやっているので、サンプリングや打ち込みとは違ったものをたくさん作りたいなと思って。mabanuaが新しいスタジオを完成させたので、そこでミックスも……。
関口シンゴ(G) まるで自分のスタジオのように(笑)。
mabanua(Dr) (笑)。6月くらいに完成したんですけど、「Transcend feat. Armi」と「Slow Motion Town」の2曲は新しいスタジオでミックスしています。新しいスタジオは低音をしっかり確認できる環境にしたんです。周波数でいうと35~50Hzくらい。マンションの6畳ワンルームとかで出すと一発で苦情が来るような大きな音でミックスしたので、低音に関してはけっこう出ているんじゃないかなと思います。
──ミックスも皆さんでやっているんですか?
Suzuki 今回は録りからorigami PRODUCTIONSのエンジニアがやってくれました。Ovallの作品にガッツリ関わってくれた藤城(真人)くんというエンジニアがいるんですけど、ここまで関わってもらったのは初めてですね。
mabanua Ovallに初めて第四者を入れてみた感じです。ちょうど僕の仕事がいろいろ重なってしまって、これではリリースが来年になってしまうというということで「藤城くん、助けて」ってお願いしました。
Suzuki 先行でリリースした「Transcend feat. Armi」のミックスも藤城くんがやってくれていて、その信頼があったというのもあるよね。
mabanua 「Transcend feat. Armi」は、歌詞が聴こえるか聴こえないか、ちょっとしたメロディの処理が一番シビアな楽曲なんですよ。それを藤城くんにやってもらったらすごくよくて。「じゃあ、ミックスもまたお願いします」ということで何曲かやってもらったんです。うちの社長やスタッフからも「もうちょっと人に任せることを覚えた方がいいです」ってずっと言われていて、おっしゃる通りだなって(笑)。
関口 山ちゃん(mabanua)が、いろいろな作品でミックスまでやっているから。僕は自分の作品ぐらいしかやらないんですけど、3人ともミックスまでできちゃうから、自分たちの求めるクオリティを頼める、藤城くんみたいに信頼できる人を見つけていくことが必要なんだろうね。
mabanua まあ、よくも悪くもだよね。3人ともソロアルバムを作っていて、エンジニアリングもできて、自分の美学みたいなものが明確にある。だいたいバンドって誰か1人が先陣を切って作詞作曲をして、ほかのメンバーがそれに付いていくという構図が多いと思うんですけど、僕らは個性、個性、個性みたいなバンドなんですよ。それが成り立つのは奇跡に近いものがあって。今回、ようやくお互いがお互いを消し合うことなく、円滑に個性3つが固まったなという感じがしたんですよね。その思いもあって、タイトルは「Ovall」でいいんじゃないかと僕なりに思ったんです。
──言ってみれば、これまでの作品はどこかちょっと打ち消し合ってしまうようなところもあったのでしょうか?
mabanua 「ちょっとそのアイデアは違うと思う」という指摘をし合ったかもしれないです。バンドとしては当たり前かもしれないけど(笑)。
関口 作っている段階で話し合うという感じですかね。
Suzuki 殴り合いのケンカとかはなかったです(笑)。
「ああ、Ovallなんだな」
──三者三様の美学があり、全員が作曲からエンジニアリングまでできる中で、どういうプロセスでOvallの曲が生まれているのか、すごく気になります。
Suzuki 今だと、各々がデモを持ってくるスタイルが一番多いですね。3人集まって、せーので作るのは、たまにあるくらい。それもそれで面白いけど。
mabanua 「3人でセッションをしている中で曲ができるんです」と答えられたらすごく美しいんですけど、僕個人的にはけっこう大変というか。労力をかけたわりには全然いいものができなかったみたいなことがざらにあって。それなのに、「いい曲ができたね」って言わないといけないような空気も生まれてしまう。スタジオに入ってゼロから作るって、なかなかリスキーなんです。逆にデモを持ち寄って作ると、作り手の提案が明確じゃないですか。そこにほかの2人の音を乗せるのは、クリエイティブという意味では、一番円滑かつ色が出るんじゃないかなと。不思議なのは今回ミックスするときに、方向性を大きく変えるような処理やエディットがなかったんです。録音中も「そうじゃないんじゃないか」ってことがなくて。例えば、セッキー(関口)がギターを弾いて悩んでいるのを2人が静観していて、セッキーなりに答えを見つけて「これでいいかな?」と言ったのに対して、僕らは「いいね」と言って終わるという感じだった。何も衝突がなかったよね。
Suzuki あと、逆にバンドだなと感じたこともあって。「Slow Motion Town」は、もともと僕が作ってお蔵入りにしていたデモをもとに作ったんですよ。Ovall風に作った曲だったんですけど、聴いてみると中途半端だし、まあいいやと思っていた。そんな中、曲数が足りないということと、スタッフの強力な推薦もあって、試しにギターを入れてみたら一瞬でOvallになったんですよね。ドラムを入れたら、またこれは……というふうになって。“Ovallっぽい”だけだった曲が、2人の演奏を加えただけで堂々とOvallの曲になって。バンドの個性というか、1人でやるとOvallに絶対ならないみたいなものも3人でやるからOvallになるんだなって。淡々と演奏している2人を見て、「ああ、Ovallなんだな」って感じましたね。
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2019年12月4日更新