「劇中で架空のバンドをやってくれ」って言ったら本当にバンド始めちゃって
──劇中でどの楽曲を使うかを絞るのは大変でしたか?
選曲はオクイさんにお任せしたので、俺はほとんど何もしてないよ。ま、原案の中で「この世の果てまで」と「王様になれ」を使うことは考えてたか。でも、そのくらいだね。
──GLAYのTERUさんとJIROさんによる「スケアクロウ」、ストレイテナーのホリエアツシさんによる「ストレンジ カメレオン」のカバーについては?
「スケアクロウ」は俺がお願いしたね。TERUくんに歌ってもらいたくてさ。絶対に似合うのがわかってたから。JIROくんと2人で演奏してくれれば、もはやGLAYの曲になるくらい(笑)。「一番似合うのこの曲だろ!」って思ったので。アニバーサリーにとてもふさわしい曲だし、オクイさんも賛成してくれて、TERUくんも「好きな曲です。やります!」みたいな感じだったかな。ホリエくんの選曲はオクイさんのリクエスト。俺はホリエくんに任せようとしてて、ホリエくんは「Funny Bunny」と「ハイブリッド レインボウ」を弾き語りのときの持ち歌リストに入れてくれてるから、そのどっちかだと思ってたら、オクイさんが「その2曲は別で使う予定がある」と。で、「ストレンジ カメレオン」を歌ってほしいということになったんだ。ホリエくんも快く受け入れてくれた。
──こういうカバーでトリビュート感が楽しめるのも絶妙ですよね。
そうだね。ライブシーンは基本的に俺の発案なんだけど、うまくハマってよかった。THE KEBABSは実は結成する前の段階で、「映画用にバンドを組んでくれないか?」って田淵(智也)と(佐々木)亮介にお願いしてたんだ。そのときは「DELICIOUS LABEL(山中が主宰するレーベル)の所属バンド」という設定でね。つまり、もともとは「映画の中に出てくる架空のバンドをやってくれ」だったのよ。そしたら、あいつら本当に現実でバンド始めちゃったもんで、俺のレーベルにいる設定は結局やめることにしたっていう。
──(笑)。
リアルにTHE KEBABSを組んでしまったので、もうTHE KEBABSで出てもらうことにして。「できれば、劇中で演奏するための新曲を書いてくれないか」とお願いしたら、田淵が「あっ、やりますよー!」と言ってくれた感じだね。
──「Sleepy Head」「ハイブリッド レインボウ」「王様になれ」は“30th version”として新録されています。
過去の音源はだいたい録り直したいんだよね。今のほうが自分の気に入った音で録れるから。「Sleepy Head」はミックスがとても難しい曲なんだ。ベースはギターと同じくらいのディストーションサウンドだし、真鍋(吉明 / G)くんと俺がどっちも違うフレーズを弾いてたりするので。非常にクセが強いアレンジを、しっかりいい形で録り直せたのはうれしかったな。「ハイブリッド レインボウ」はこれまでアンタッチャブルで手を入れないままだったものの、元の音源はBPMが最近のライブでやってるのと違いすぎて遅いでしょ? ライブで「ハイブリッド レインボウ」を観てくれた人がオリジナルを聴いてもピンと来ないと思うから、30周年に録り直すのがいいタイミングなのかなって。「王様になれ」はアウトロの部分を付け足した感じだね。
──ライブ会場・通販限定シングル「どこにもない世界」が映画で使われているのも、ピロウズらしいですね。
「どこにもない世界」も俺の原案の時点で入ってはいたね。けど、オクイさんがもっといいシーンに変えてくれたんだ。ネタバレになっちゃうので、詳しくは言えないけど。
俺たちは30年間、ロックバンドとして普通のことをやってきた
──ドキュメンタリーではないオリジナルストーリーでの映画作りというのは、実際にやってみていかがでしたか?
今まで経験したことのない感動があったね。達成感もあった。自分の人生において映画を作るなんて想像もしてなかったからさ。MVの延長線上のような、20分とかの内輪向けの映像作品を作ってみたいなって考えたことは昔あったけど、スタッフのおかげでこれはちゃんとした邦画じゃないか。こんなに素晴らしい劇場公開作になったのは、ものすごくびっくりしてる。製作スタッフは30人くらいかな。寝る間も惜しんでやってくれて、ロケ現場が寒かったりとか、大変な苦労をさせてしまったと思う。ごめんなさい。そして、本当にありがとうございますっていう気持ちだね。
──さわおさんのお気に入りのシーンは?
ひなっちとシンペイ(ストレイテナーの日向秀和とナカヤマシンペイ)のシーンと、「ハイブリッド レインボウ」が流れるところ、あとはオクイさんが考えてくれた最後の部分。本当に絶妙な仕上がりの映画になったよね。繊細さがしっかりとあって、笑えるようなユーモアもあって、さすがオクイさんだなと思いました。
──ファンタジーとリアルがバランスよく融合してて、トリビュートやドキュメントの要素も含めた、こういうマッチングの仕方は、ピロウズじゃないとあり得ないと思います。30年間の活動で貫いてきた信念や哲学が軸にあってこその映画になってたので。
ありがとう。「やってやったな」という思いはあるよ。「面白いだろ?」「こんな方法もあるんだぞ」と胸を張って言えるようなね。でも、ピロウズが30年やってきたことは決して難しいことではなかったかな。本人たちは至って普通で、周りが「ブレていく人が多いな」「いろいろ変わっちゃったな」って感じでさ。相対的に見たら、自分らはブレずにやってこられたことになるんだろうけど、普通だよ(笑)。俺たちはロックバンドとして普通のことをやってきた。
──30周年のアニバーサリーライブ、横浜アリーナ公演に向けてはもう準備万端ですか?
映画のことで何かと飛び回ってたのもあって、まだ1回もリハはやれてないんだよ(※取材は8月下旬)。だけど、真鍋くんも(佐藤)シンイチロウ(Dr)くんも気合い入ってると思う。「楽しみだねー!」みたいな感じは一切ない。「音楽的に自分たちが30年間やってきたことを証明するステージだ」っていう気持ちかな。楽しむような余裕なんかはなく、緊張したままステージに上がって、緊張したままステージを降りたい。それは2人にも伝わってるから。いいライブをしたいね。
公演情報
- the pillows 30th Anniversary Thank you, my highlight vol.05 "LOSTMAN GO TO YOKOHAMA ARENA"
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- 2019年10月17日(木)神奈川県 横浜アリーナ