the pillowsの結成30周年を記念した映画「王様になれ」が、東京・シネマート新宿ほか全国で公開されている。
この映画は、山中さわお(Vo, G)が原案・音楽を担当。俳優で舞台演出家としても活躍するオクイシュージが映画初監督を務めた。バンドの軌跡を追ったいわゆるドキュメンタリーではなく、完全オリジナルストーリーの劇映画なのがポイントで、the pillowsのメンバーはもちろん、彼らを慕うミュージシャンたちも本人役で出演。“ピロウズあるある”が詰まった粋な設定、名曲の数々とシンクロした物語、山中が手がけた劇伴など見どころ盛りだくさんの本作は、ピロウズファンのみならず誰もが胸を熱くせずにはいられない普遍的な青春映画にもなっている。
岡山天音が演じるカメラマン志望の青年が苦しみながらも人生を切り拓いていく姿からは、自分たちの思うやり方を貫いてきたthe pillowsの信念が見えてくるし、物語を通して、彼らがどういう面で稀有なバンドなのかも色濃く伝わる。そんな不思議な化学反応が生まれた映画「王様になれ」および同作のサントラについて、山中に話を聞いた。
取材・文 / 田山雄士 撮影 / 斎藤大嗣
オクイさんに断られてたら、この企画はなくなってたと思う
──結成30周年にふさわしい、他に類を見ない映画が完成しましたね。
本当にね。素晴らしい映画を作ってもらったと思う。プロモーションもアルバムリリースのときよりやってるかもしれない(笑)。
──まずは、映画「王様になれ」のプロジェクトの始まりについて教えてください。
アニバーサリーが近付くと、マネージャーから「何かやりませんか?」という話になるんだよね。毎回「どうしようかな」と考えるんだけども、なんせ30周年だからさ。いろんなことをやってきちゃったわけじゃない? なので、できれば今までにやってないことをやりたい気持ちがあった。そして、どうせなら周りのバンドがやってないことのほうが面白い。「何が残されてるだろう」と考えに考えて出てきたのが、俳優さんがお芝居をするオリジナルストーリーの映画を作る、なおかつミュージシャンが本人役で出演するというアイデアだったんだ。それを2017年の暮れに思い付いて。
──そのあとはどう進んでいったんですか?
映画の監督・脚本を務めていただいたオクイシュージさんに「会ってくれませんか?」と連絡して、三軒茶屋の小さな居酒屋でそのアイデアを説明したんだけど、即答でOKがもらえたわけじゃなかったね。メインが演劇の人なので、舞台の脚本や演出はプロフェッショナルだけれども、映画はまったく別ものだし作ったことがないから、「ちょっと困ったな」というリアクションだった。でも「なんとか引き受けてください!」とお願いしたら、2、3日経って「腹をくくった。やるよ」って言ってもらえて。
──さわおさんとオクイさんの関係は?
オクイさんとは20年くらい仲よくしてもらってて。俺のほうがオクイさんのファンで、舞台を観に行ったり、たまに飲みに行ったりする間柄って感じかな。映画を作ることを思い付いたはいいが、まず何をすればいいのかさっぱりで、第一歩がわからないわけ。なので、実現させるにはオクイさんが必要不可欠だったんだよ。もしもオクイさんに断られてたら、この企画はなくなってたと思う。ほかに候補がいないもん。もちろん、イチから探せば、予算を踏まえて手を挙げてくれる人はいたかもしれないけど、知り合いじゃない人に頼むのもおかしいし、そういう考え方ではなかったんだよね。ちゃんとピロウズのアニバーサリーを大切にしてくれる人で、こっちも絶対的な信頼をしてる人にお願いしたかったから、オクイさん一択だった。
──信頼があったんですね。
何より、オクイさんの作る芝居が好きだからね。脚本を書いてる舞台をこれまでにたくさん観に行ってて、俺が観たのはコントが多いけど、めちゃめちゃ面白くて(笑)。やはり好きなミュージシャンとかと同じように、単純に好きな脚本家ってこと。好きなので、信頼してるという。
「人生で1話だけ書く物語」って感じ
──映画の原案はさわおさんが細かいところまで考えたうえで、オクイさんに話を持ちかけたんですか?
うん。いちおう形として、ちゃんと脚本を書いたよ。自分なりにオープニングからエンディングまで。ラーメン屋でバイトしてるカメラマン志望の祐介が、ピロウズを知るきっかけとかね。完成した映画を観たうえでざっくり言うと、7割くらいは俺が考えたもので、3割くらいがオクイさんになるのかな、文字量的には。だけど、俺の原案は薄味でそれだけじゃ楽しめない。オクイさんのしっかりした味付けがあって、おいしく食べられるものとして成立した感じだね。ユカリのバックボーンや物語の結末もオクイさんが新たに考えてくれたし。あとね、ピロウズを褒めるような言い回しに関しては原案にはなくて、オクイさんが作ってくれたんだ。逆に、自虐っぽいセリフ、怒りのこもった発言は全部俺が作ってる。そういうのはオクイさんがブッ込めないと思ったから(笑)。
──絶妙なバランスなんですね。
なのかな。映画のストーリーを考えるのもあまり苦労しなかったよ。そもそもそんなにパターンを思い付けないというか、「人生で1話だけ書く物語」って感じだもんね。自分の経験のことばかりだから。悩んでる祐介も、若いときの自分の姿だし。
──どんなことを思い出しながら書きましたか?
書いたときは「あの頃、俺どうだったっけ?」なんて考えた印象はなくて、ただストーリーを黙々と作ってたんだけど、こうやって取材でいろいろ話すうちに、「自分の若い頃のことを書いてたんだな」と気付いた感じなんだよね。思い返してみると「祐介というキャラクターを作って、彼がピロウズと出会う」「そこにはドラマが展開しなければならない」ってことを考えたときに、「まだエゴのコントロールができてない、そして、何者にもなれてないジレンマを抱えてる若者」の姿が出てきたんだ。ただ、これはほとんどの人が経験したことがある時間のはずだから、ピロウズを知らない人も楽しめる映画なんじゃないかな。
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