ナタリー PowerPush - 大友良英
あまちゃんバンドの進化
やはり今年は盆踊り元年
──盆踊りに関しては、大友さんは前回のインタビューでも「2014年は盆踊りの年」って言っていました。
「盆踊りでフジロックに出たい」って言ったよね(笑)。フジロックぜひぜひ出たい……フジロックの皆さん、よろしくお願いします(笑)。あと今年は、まだ発表されていないものも含めて、たくさん盆踊りをやる機会がありそうです。8月15日には「プロジェクト FUKUSHIMA!」でもやるし、あと「すみだ川アートプロジェクト」の一環で7月20日に「アンサンブルズ・パレード」っていうパレードをやるんですけど、そこでもやろうと思ってます。あとは札幌とか十和田市現代美術館とか、もしかしたら池袋とか、話が進んでいるのもいくつもあるので、楽しみにしていてください。
──本腰って感じですね。
うん。去年の「プロジェクト FUKUSHIMA!」では遠藤ミチロウさんや長見順さん、山中カメラさん、あとは初めて人前で歌った遠藤知絵ちゃんっていう地元の子も歌い手で参加してくれて。いや最高でしたね。彼らだけじゃなくて、ほかにもどんどん歌ってくれればいいなって思っているんです。面白い歌い手がどんどん出てきたらいいなって。次々と個性的な人たちが歌ってくれるような感じでやりたいというか。
──盆踊りには、どんな歌い手さんがいいんですか?
歌詞とかもガンガン書いてくれる人がいいなあ。昨年は二階堂和美さんが「プロジェクト FUKUSHIMA!」の広島版で盆踊りをやってくれたり、島根では浜田真理子さんがミチロウさんと盆踊りをやってくれたりしているんですけど、そんな感じでどんどん広がればいいなあって思ってます。
──二階堂さんの盆踊り、よさそうですね。盆踊りのプロジェクトは、音源を出す予定もあったりするんですか?
一応考えていますよ。できればあまちゃんバンドのメンバーで次に出す作品が盆踊りの作品になるといいなって。もちろん「あまちゃん」の名は外れますが、いろいろな歌手に参加してもらえたら楽しいだろうなあ。
歌謡曲って、もうなくなったと思ってた
──大友さんがやろうとしている盆踊りは、いわゆる普通の盆踊りと違うものなんですか?
伝統的なものを意識しつつ、でも、今までにない形にしていきたいって思っています。演奏方法や楽器に関しても、もっと自由に考えられればって。昭和あたりから、レコード会社が当時のポップスと盆踊りを融合させたような音源がたくさん出てきたんです。「東京音頭」とかもそんな中の1つだと思うし。で、そういったものの現代版があってもいいじゃないかって。あとは踊りに関しても、伝統的な形を保ちつつ、途中で隣の人と手をつなぐとか、従来の形にはない要素を入れたりね。
──盆踊りの新しい形を作りたいというのが、盆踊りプロジェクトのきっかけですか?
それはね、そもそも福島での活動が盆踊りを始めた生んだきっかけだから、だったら今まで通りじゃないものにならなきゃウソだと思っていて。まあ去年の「プロジェクト FUKUSHIMA!」での手応えが何より大きいですかね。あと去年やった盆踊りに「あまちゃん音頭」っていうのを入れたんですけど、子供からおばあちゃんまでを巻き込めるくらいウケた。それを見て、子供たちが口ずさめるようなものがあってもいいなって。
──子供たちが口ずさめるもの。
うん。「あまちゃん」を通して、世代を超えて好きになってもらえるものが作れたっていうのが、俺の中では本当に大きかったんです。世代超えて好きになってもらえる音楽って“歌謡曲”ってことだと思うんだけど、今の時代歌謡曲ってもうなくなったっていうか、作るのは無理だろうって思っていたんです。本当に歌謡曲はもうないと思っていた。たとえ歌謡曲みたいなものを作っても、一部の層にしか響かないとも思っていて。
──はい。
それがまあ、「あまちゃん」の音楽が目指していた以上に世代を超えて楽しんでもらえた。その背景には、単に音楽だけじゃなくいろいろな要素があったんだと思うけど、それらがいいほうに重なって、本当に多くの方に届いてくれて。それでもう無理だろうと思っていた“歌謡曲”というものが、この時代に実現できた。それが「あまちゃん」をやって一番よかったなって思えることなんです。
──前回のインタビューでも、「プロジェクト FUKUSHIMA!」の活動も一部の音楽好きやカルチャー好きには浸透したけれど、一般には伝わらなかった感覚があった。一方で「あまちゃん」はそこにハマったとおっしゃっていましたよね。
うん。だから今後はこれをつぼめてしまわないように、マニアックな世界に戻るんじゃなくて……いやマニアックな世界にも戻るんだけど(笑)、ちゃんと「あまちゃん」で実現できたことの続きをやりたいなって思っています。
歌をもう一度ちゃんと作ろうかな
──なるほど。では何か具体的に考えていることはありますか?
これは今年の話ではなくてもっと先になるかもしれませんけど、歌謡曲というか、歌をもう一度ちゃんと作ろうかなって思ってます。
──え? 前回のインタビューでは、歌を作ることに興味はないっておっしゃっていましたよね。
うんうん。乗り気じゃないって言った(笑)。まあ具体的に何かが決まっているってわけじゃないんだけど、最近中村八大さんの日記を掘り返して、彼の功績を検証している人からいろいろ話を聞く機会があって。
──ジャズピアニストで作曲家の中村八大さん。
俺も八大さんの音楽が大好きなんです。でね、八大さんって1960年代にニューヨークに2カ月くらい行っているんだって。レコード会社が「勉強してこい」ってお金を出してくれて。そこで八大さんは何をやっていたかっていうと、オーネット・コールマンと共演したりしているんだってさ。
──へえ。
しかも、ビル・エヴァンスが八大さんに注目して、「このままこっちで契約していけ」とか言われたらしくて。でも八大さんはフリージャズを観て、「これは一般の人にウケる音楽じゃない」って思って、現地で流行していたロックンロールを日本でやろうと考えたらしいんです、当時の日記を検証してみると。
──そうなんですね。
一方で日本では坂本九が流行していて、八大さんはアメリカでロックンロールをやっている歌手より坂本九のほうがいいんじゃないかって思ったんだって。それで「この人でいこう」ってなって「上を向いて歩こう」を作ったそうなんです。まあ、この話は全部受け売りだから正確じゃないところもあると思うけど。でもこの話を聞いて、なんかウキウキしたんです。
──すごい面白いです。
でしょ? そういう話を聞いて興奮しちゃってさ。俺の場合はフリージャズから出発しているし今もそれを続けているから八大さんとはまったく逆の道のりだけど、それだけに面白いなって。そういうこともあって、「あまちゃん」が終わってあまちゃんバンドのメンバーたちと次を模索していこうと思っているけど、もう一方の歌や歌謡曲のほうも、この先納得のいくものをやっていこうって思って。盆踊りも、自分の音楽の拡張も、そして歌もやれるかなって。まあ歌は1人じゃ無理だから、作詞家やメロディを書く人に協力してもらうことも出てくるかもしれないけどね。Sachiko Mさんとかにお願いしたり。
──Sachikoさんの新しいメロディ、ぜひ聴いてみたいです。
うん。3月15日から福島でやる「鶴ヶ城プロジェクションマッピングはるか 2014『庄助の春こい絵巻』」っていうプロジェクションマッピング用にSachiko Mさんに半分くらいメロディを作ってもらったんだけど、それもすごいものになりそうだよ。まあそんなふうに「あまちゃん」は卒業したけど、その卒業生たちと一緒に、種を受け継いで活動していければいいと思っています。
──じゃあ今回の「あまちゃんLIVE~あまちゃん スペシャルビッグバンド コンサート in NHKホール~」は、集大成でありスタート地点である、みたいな感じですかね。
そうそう。あまちゃんバンドの集大成なんだけど、ここがスタートなんです。だからこれからどう変化していくか楽しみなんですね。今回のライブ作品はぜひ観てほしいなあ。
──大友さんが「あまちゃん」で手にしたものを、今後いかに変化させていくのかがとても興味深いです。
それを感じるためにも、ぜひ観てもらえるとうれしいな。
あまちゃんLIVE~あまちゃん スペシャルビッグバンド コンサート in NHKホール~【ダイジェスト映像】 - 大友良英&「あまちゃん」スペシャルビッグバンド
- ライブDVD / Blu-ray / CD 「あまちゃんLIVE~あまちゃん スペシャルビッグバンド コンサート in NHKホール~」 2014年3月5日発売 / Victor Entertainment
- DVD 2枚組 / 4410円 / VIBL-693~4
- Blu-ray Disc / 5250円 / VIXL-123
- CD 2枚組 / 2940円 / VICL-75003~4
- 配信(iTunes Store)
- 配信(レコチョク)
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収録内容
第1部
- あまちゃん オープニングテーマ
- 行動のマーチ
- あまちゃんクレッツマー
- あまちゃんワルツ
- 琥珀色のブルース
- 地味で変で微妙
- 銀幕のスター
- 芸能界
- ミズタク物語
- アイドル狂想曲
第2部
- トンネル~大地
- 友情と軋轢
- 奈落のデキシー
- 上野アメ横1984
- アキのテーマ
- 地元に帰ろう
- TIME
- 希求
- 海
- 灯台
アンコール
- 潮騒のメモリー
- あまちゃん オープニングテーマ
※CDにはコンサート中のMCは収録されません。
大友良英(おおともよしひで)
1959年、神奈川県生まれ福島県育ちの音楽家。主な演奏楽器はギター、ターンテーブル。1990年にGROUND-ZEROを結成後、国内外で作品をリリースやライブを行う。GROUND ZERO解散後はフリージャズやノイズミュージックのフィールドで活動を続ける傍ら、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENなどさまざまな音楽プロジェクトへ参加する。加えてカヒミ・カリィの2010年のアルバム「It's Here!」でプロデュースを担当するなど、膨大な数の音楽作品に携わる。
劇伴制作にも定評があり、「青い凧」(1993年)や「アイデン&ティティ」(2003年)、「色即ぜねれいしょん」(2009年)といった映画、「クライマーズ・ハイ」(2005年)や「その街のこども」(2010年)、「とんび」(2012年)といったドラマのヒット作で手腕を振るう。さらに現代美術やメディアアートの分野でも評価が高く、音響機器を利用した展示作品「without records」「ensembles」などの展示を国内外で開催している。2011年には東日本大震災を受けて、自身が10代を過ごした福島県で「プロジェクト FUKUSHIMA!」を展開。野外音楽イベント「フェスティバル FUKUSHIMA!」の開催をはじめとした一連の活動が評価され、2012年度の「芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門」を受賞し話題を集めた。
2013年には、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当。ドラマのヒットとともにその劇伴にも注目が集まり、サントラや劇中歌などが次々とCD化された。また「あまちゃん」のオープニングテーマと劇中歌である「潮騒のメモリー」の2曲で「第55回 輝く!日本レコード大賞」の作曲賞をSachiko Mとともに受賞。「第64回NHK紅白歌合戦」にも出演した。さらに劇伴を実際にライブで披露する「あまちゃんスペシャルビッグバンド」を結成し全国ツアーも行い、2014年3月にはこのツアーファイナルの模様を収めたDVD、Blu-ray、CDを発売した。
主な著書は「MUSICS」「大友良英のJAMJAM日記」「シャッター商店街と線量計 -大友良英のノイズ原論-」。