ナタリー PowerPush - 大友良英
狂騒のあとで
女子高生とウニがジャンプしているオープニング
──サントラは大勢のメンバーで非常に膨大な数のトラックを作っていったわけですけど、とりわけ大友さんが思う“ドラマの軸になった楽曲”はありますか?
やっぱりオープニングテーマと「潮騒のメモリー」、あとは「海」とか。
──オープニングテーマは本当に元気な楽曲でしたね。
生楽器のインストでね。毎朝流れるっていうことも考えながら作っていきました。今回のサントラには最初に録音したオープニングテーマのデモも入ってますが、あの曲はすでに最初の時点でほぼあの感じができあがっていたんです。そしてそれを基にして、あのオープニングの映像ができたんですよ。あの映像、ちょっとダサいでしょ(笑)。女子高生とウニがジャンプしているっていう……(笑)。でもまあ、作ったのがそういう曲だったというか。結果的にはそれがよかったんだと思います。
──今となってはあの映像もアキらしい感じがします(笑)。それと「海」について、大友さんはあまちゃんスペシャルビッグバンドのライブのときに「昔劇伴を担当した映画『blue』の海のシーンで付けた音楽の手法を利用した」と言っていました。僕は「blue」をたまたま昔観ていて、その海のシーンがやけに印象深いものだったので、なんだか勝手に腑に落ちるところがありました。
そうそう。「blue」も女の子2人の友情や葛藤をテーマにした話で、海の風景が根底にあるようなところも「あまちゃん」と共通していると思って。映画やドラマって、大ざっぱに分けると物語が前にぐっと進むシーンと、物語が進まない……進むのではなく「そこにただ存在する」というか、何も展開しないようなシーンがあるんですよね。物語が進まないシーンでメロディやコードが進行する音楽を入れちゃうと、なんか演出過多というか、雄弁になり過ぎてダメなんですよ。海は何も語らないけど存在してるのと同じように、音楽もただ鳴っているだけの感じが必要だなって思って。ストーリーの展開とは関係なく「何があろうと海はあるもの」というようなというような感じを意識しましたね。
──そして「潮騒のメモリー」は、天野春子、つまり小泉今日子さんの歌唱バージョンがシングル化されてヒットしました。そして大友さんと共同作曲者のSachiko Mさんが「レコ大」の作曲賞を受賞することになりました(参照:大友良英、あまちゃんOP&潮騒のメモリーでレコ大作曲賞)。
この曲は、宮藤さんのシャイな感じが出ている歌詞がいいんですよ。「千円返して」のところとか最高です。でも、最初は俺1人で「潮騒のメモリー」を作っていたんだけど、この変な歌詞に曲を付けるのに苦労して(笑)。で、なかなかできなくて悩んでいたところ、Sachiko Mさんが「こんなのどう?」って感じでさっと作って、それがすごくよくて。だからSachiko Mさんには助けられましたよ。
──Sachiko Mさんは電子音を扱うアーティストとしてのイメージが強くて、「レコ大」みたいなものとは真逆にいる音楽家だと思っていたので、“アイドルが歌う”という設定の楽曲をSachikoさんが制作したことに驚かされました。
俺もめっちゃ驚きましたよ(笑)。Sachiko Mさんが作ったデモが原型になっていろいろ肉付けしてできあがったのが、あの曲です。俺はAメロの一部をいじってBメロを作ったくらいで、もちろんアレンジやプロデュースはしましたが、メロディの骨格はSachiko Mさんのものです。余談ですけど「潮騒のメモリー」を作ろうとしてボツにしたものの中に、後に「アキのテーマ」になった曲があったりしたんですよ。
──Sachikoさんは、これまで歌謡曲テイストの楽曲を作ったことがあったんですか?
いや、ないと思うよ。だからほぼ初めての曲で「レコ大」の作曲賞(笑)。しかも「地元に帰ろう」も彼女の作ったメロディが中心になってできあがっていますから、全然マグレでもなく、本当に才能があったってことだと思う。
──大友さんもSachikoさんもああいった楽曲が書けることを全国に知らしめた形になって、これから歌モノのプロデュースのオファーがより増えそうですね。
俺に関してはこれまでも歌モノのアルバムのプロデュースをしてるし、サントラもたくさんやってますからこれが初めてではないですけどね。ただ現時点では俺にもSachiko Mさんにも、そういうオファーは1本もきてないですよ。もっとくるかと思ってましたが、「歌作ってくれ」って話はまったくないですね。
──じゃあ「こういう人をプロデュースしたい」とかはあったりしますか?
こちらからってのはないです。もちろんオファーをしてくれて、やれるなって思ったら一生懸命やりますよ。……ってか必要って思われて声かけられるからこそやるわけで、こちらからどうこうってことではないですね。こういう仕事って、誰かから頼まれる、誰かが望んでいるっていう状況ではじめてモチベーションが上がる感じがするんですよ。
──それでは、映画やドラマを観ていて“俺ならここの音楽をこうするな”って思うようなことは?
ああ、それはあるかな。映画観てても「このシーン、俺だったらこうするかな」みたいなことは思うことありますよ。でも劇伴とか歌を作るのとかは、俺の場合、誰かから頼まれてやったほうがいい結果が出るように思うんです。注文を受けて特殊なネジを作るような工場の職人さんとそこは全く一緒かな。「あまちゃん」の東京編で流れた「銀幕のスター」みたいなスコアだって、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)さんをどう見せるかってお題をもらったから書けたわけで。
そろそろ「あまちゃん」を卒業しなくては
──大友さんは、あまちゃんスペシャルビッグバンドとともにサントラをライブでも演奏して各地で好評を得ていましたね。そのあまちゃんスペシャルビッグバンドでの活動も、12月5日の東京・NHKホール公演(参照:出演者からビデオレターも!あまちゃんバンド最終公演大盛況)でひとまず終了となったわけですが、大友さんにとっての「あまちゃん」のプロジェクトはあの公演で一段落といった感じですか?
うん……まあ、「あまちゃん」って言うのは年内までかな。ライブは「第64回NHK紅白歌合戦」がラスト。それで一応終了のつもりではいるんだけど、来年NHKホール公演のDVDが出るってことになったから(笑)。
──僕も当日ライブを観せてもらいました。ゲストとしてSachikoさんが参加した「トンネル~大地」「友情と軋轢」では、大友さんが“「あまちゃん」の作曲家”というより“いつもの大友さん”といった感じだったのが印象的でした(笑)。「トンネル~大地」の「トンネル」はドラマではユイ(橋本愛)が地震のあとにトンネルから出てきたシーンに使用されていた音楽ですけど、Sachikoさんのサイン波がとても効果的だと思いました。
あの音楽に何千人もの人が拍手してくれるってのは、やっぱり不思議な状況だなって思います。本来なら耳をふさがれてもおかしくない音楽だと思っていますから(笑)。でも、そのくらい「あまちゃん」が愛されていたってことだと思うんですよね。実際Sachiko Mさんのサイン波はすごい効果的でしたよね。
──NHKホール公演は満員でしたね。チケットが取れなかったファンも多かったと聞きますが、大友さんの「あまちゃん」関連以外のライブにお客さんは殺到していませんか?
いやそれがね、全然ないんですよ。いつもは30人だったお客さんが33人になったくらいで、その増えた3人も「あ、間違えた」って感じで来なくなったり(笑)。
──あははは(笑)。「いつ『あまちゃん』のテーマやるんだろう」と思いながら「あれ? ギターのノイズが鳴っているぞ?」みたいな(笑)。
最初は俺も懸念してたんですよ。お客さんがすごい来ちゃったらどうしよう、って。でもね、関係なかったみたい。安心して今まで通りやってます。
──しかしNHKの朝ドラの音楽を制作しただけでもすごいのに、「笑っていいとも!」に出たり(参照:来週月曜「いいとも!」に大友良英、あまちゃん最終回直後)、「レコ大」の作曲賞を受賞したり……本当に激動の1年といった感じでしたね。
そうですね。本当に楽しませてもらいました。「いいとも!」ではタモリさんに会えてうれしかったなあ。俺が高校生の頃ってまだタモリさんはアングラ芸人だったんですけど、その頃からの大ファンでしたから。
──あのとき、大友さんと話しているタモリさんもすごく楽しそうだなあと思いました。サントラをいろいろ流しながら、「これがいいんだよ!」って大友さんのノイズギターを褒めていて。
「いいとも!」は自分であとで映像観たらはしゃぎすぎてて、恥ずかしいです(笑)。しかし「あまちゃん」のプロジェクトはやっていて本当に楽しいことが多かったですし、今まで体験できなかったこともたくさんさせてもらいました。でもね、この先は音楽の仕事以外に時間を使うことはあんまりないと思うな。今後何年生きられるかわからないし、残りの時間は音楽に使いたいからね。「あまちゃん」に関しては作品もたくさん残せたし、十分やりきったって思ってるんで、そろそろ卒業ってことでいいですよね(笑)。
2014年は盆踊りの年
──でも日本中が知ってるキラーチューンを手に入れたわけで。これからも「あまちゃん」関連の楽曲はお客さんは喜ぶと思います。
いや、やらないってことじゃなくて、あまちゃんスペシャルビッグバンドみたいに「あまちゃん」の名前での活動はやらないってことです。
──では今後の展望などは?
これまでやってきたことが、この1年忙しすぎて全然できなくて。それは展示だったり、ライブだったり。そういったものを改めて始めたいと思っています。
──ファンにとっては展示の再開はうれしいですね。「ensembles」などもまた始めてほしいですし、来年の「プロジェクト FUKUSHIMA!」にも期待しています。
もちろん。このインタビューが出る頃にはタイのバンコクで「ensembles」の中で作った「quartets」って展示がちょうどできあがってるはずだし、とにかく音楽の展示作品は、機会あったらどんどんやりたいなあ。「プロジェクト FUKUSHIMA!」は、今年はあまちゃんスペシャルビッグバンドのメンバーや遠藤ミチロウさん、長見順さん、珍しいキノコ舞踊団なんかと一緒に盆踊りをやったんだけど、本当に面白くて。
──盆踊りも話題になっていましたよね。
福島のほかに、名古屋でやったときも何千人もの人たちが踊ってね。昔は盆踊りが大っ嫌いだったんだけど、こんなに面白いとは思わなかったってくらい今はハマってて。もちろん生演奏で、自作曲の新曲で、新しい振り付けの盆踊りなんですよ。櫓もいくつも作るから、中心がいくつもできる変わった盆踊りだけどね。でも本気で2014年は盆踊り元年にしたいって思ってます。そう思うのも「あまちゃん」効果かもしれないなあ。アキの台詞じゃないけど、「ダサいくらいなんだよ!」効果というか。盆踊りが、なにかこの先地方と中央の問題だけじゃなく、いろいろな問題を考えて行くときの突破口になりそう……そんな予感すらしてるんです。
──面白そうですね。
でしょ。できれば盆踊りで「FUJI ROCK FESTIVAL」に出たいって思ってるんです(笑)。10年以上前に、菊地成孔のDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENのメンバーだった頃に「FUJI ROCK」に出たっきりなんで、そろそろ出たいなあ。
──それは意外ですね、もっと出ているかと思いました。
2014年は福島発の盆踊りでロックフェスに出たいってのが今後の展望ってことで(笑)。
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大友良英(おおともよしひで)
1959年、神奈川県生まれ福島県育ちの音楽家。主な演奏楽器はギター、ターンテーブル。1990年にGROUND ZEROを結成後、国内外で作品をリリースやライブを行う。GROUND ZERO解散後はフリージャズやノイズミュージックのフィールドで活動を続ける傍ら、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENなどさまざまな音楽プロジェクトへ参加する。加えてカヒミ・カリィの2010年のアルバム「It's Here!」でプロデュースを担当するなど、膨大な数の音楽作品に携わる。
劇伴制作にも定評があり、「青い凧」(1993年)や「アイデン&ティティ」(2003年)、「色即ぜねれいしょん」(2009年)といった映画、「クライマーズ・ハイ」(2005年)や「その街のこども」(2010年)、「とんび」(2012年)といったドラマのヒット作で手腕を振るう。さらに現代美術やメディアアートの分野でも評価が高く、音響機器を利用した展示作品「without records」「ensembles」などの展示を国内外で開催している。2011年には東日本大震災を受けて、自身が10代を過ごした福島県で「プロジェクト FUKUSHIMA!」を展開。野外音楽イベント「フェスティバル FUKUSHIMA!」の開催をはじめとした一連の活動が評価され、2012年度の「芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門」を受賞し話題を集めた。
2013年には、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当。ドラマのヒットとともにその劇伴にも注目が集まり、サントラや劇中歌などが次々とCD化された。また「あまちゃん」のオープニングテーマと劇中歌である「潮騒のメモリー」の2曲で「第55回 輝く!日本レコード大賞」の作曲賞を受賞。さらに劇伴を実際にライブで披露する大友良英&「あまちゃん」スペシャルビッグバンドを結成し全国ツアーも行った。
主な著書に「MUSICS」「大友良英のJAMJAM日記」「シャッター商店街と線量計 -大友良英のノイズ原論-」。