ナタリー PowerPush - 大友良英
狂騒のあとで
9月に放送が終了したNHK連続テレビ小説「あまちゃん」のオリジナルサウンドトラック第3弾「あまちゃんアンコール~連続テレビ小説『あまちゃん』オリジナル・サウンドトラック 3~」がリリースされた。これを記念してナタリーでは「あまちゃん」の劇伴を担当した大友良英にインタビューを行った。
サントラや劇中歌「潮騒のメモリー」といった関連楽曲が数多く音源化されるなど、音楽的にも2013年のトピックとなった「あまちゃん」。この劇伴を担当した大友は、“「あまちゃん」音楽の作曲家”として新聞やテレビなど各方面で大きく取り上げられ、その存在が幅広く知られることになった。
これまでフリージャズやノイズミュージックを得意とするアーティストとして、そして音響機器を用いた展示作品の創作家として独自の活動を続けてきた大友は、“狂騒”といっても過言ではないこの1年をどう捉えているのだろう。
取材・文 / 加藤一陽 撮影 / 佐藤類(※ライブ写真を除く)
「あまちゃん」は音楽劇
──「あまちゃん」観てました。面白かったです。
本当に面白かったよね。
──日本中が熱狂していた感じで、流行語も生まれて。
うん。でもさ、よくよく考えてみれば「あまちゃん」ってさ、一見話自体は大した筋ではないんだよね。東京の女子高生が海女やりたいって言い出して田舎に住んで、それからアイドルやるって言って東京戻って、それでまた田舎に帰るって……すごくワガママな(笑)。しかもウニを1つ捕るのにそんなに時間がかかるのかっていうさ(笑)。
──はははは(笑)。
それでもあんなに面白いドラマに仕上がっていて。それはやっぱり宮藤(官九郎)さんの脚本がすごいのと、スタッフもみんな面白がって作ったっていうところが大きかったんだと思うな。大した筋じゃないと言ったけど、それは表面上のことで、もちろん深いところでは本当によくできているドラマだし。
──劇伴や劇中歌も面白くて、関連作品もたくさんリリースされました。しかも大友さんとSachiko Mさんは劇中歌で「第55回 輝く!日本レコード大賞」の作曲賞までとっていましたね。
サントラは今回出たのが第3弾で、「あまちゃん 歌のアルバム」も出て、「潮騒のメモリー」もシングルで出て。やっぱり宮藤さんが音楽好きだってこともあると思うんだけど、「あまちゃん」は“音楽劇”みたいな要素がすごく強かったですよね。
──なるほど、“音楽劇”と言われると確かにそうですね。
最初に「あまちゃん」の演出家の井上剛さんから「潮騒のメモリー」という曲を巡って起こるさまざまなドラマのプロットを聞いたときには、ゾクゾクするほどインパクトが強くて。「音楽が“もう1つの主役”のような役目を果たすんだな」って思った。あと、「あまちゃん」にはそのほかにもたくさん音楽が出てくるでしょ? 本当は宮藤さんは劇中曲をもっと作ろうと思ってたんじゃないかな。さすがに大ヒットしているアイドルグループの持ち歌が「暦の上ではディセンバー」しか出てこないって、実は変でしょ(笑)。
──確かに、ドラマに登場するほかのグループに関しても、潮騒のメモリーズは「潮騒のメモリー」、GMTは「地元に帰ろう」といった感じで各グループ1曲ずつしか持ち歌がなかったですよね。GMTは「暦の上ではディセンバー」も歌っていましたけど。
そうそう(笑)。ドラマの劇中歌とはいえ、作るとなるとちゃんとレコーディングしなくちゃいけないし、衣装や振り付けだって作らなくちゃいけない。そうなると1曲増えるだけでかなりの制作費がかかっちゃうんですよね。いくらNHKでもそんなにたくさんは作れないみたいで。
「プロジェクト FUKUSHIMA!」と「あまちゃん」
──さて、「あまちゃん」劇伴についての詳細はサントラ盤に付属するブックレットや大友さんのTwitterにすごく詳しく書いてあるので、ここでは大友さんに「あまちゃん」劇伴のプロジェクトについて振り返っていただきたいなと。まず「あまちゃん」の制作発表会見が行われたのが2012年の6月で、このときは宮藤さんが登壇されていました。この時点では大友さんが音楽を担当することは決まっていたんですか?
もう決まっていましたね。でも、正式にってよりは内定って感じかな。
──さらにさかのぼると、その前年……東日本大震災があった2011年には、大友さんは震災を受けて「プロジェクト FUKUSHIMA!」をスタートさせて、その一環で野外音楽イベント「フェスティバル FUKUSHIMA!」を福島で実行されたりしていて。これらの活動は福島の行政を巻き込んだ大きなものになりました。
うん。
──このとき僕らは「あまちゃん」の存在はもちろん、2013年のNHK連続テレビ小説の音楽を大友さんが担当することも知らなくて。でも、いざ「あまちゃん」が終わって振り返ってみると、大友さんの活動を震災以前から知っているファンにとっては、「プロジェクト FUKUSHIMA!」から「あまちゃん」までの大友さんの活動が地続きに見えるというか。「あまちゃん」の舞台が被災地だったというところも大きいんですけど。
そう、つながっていますね。2011年の「プロジェクト FUKUSHIMA!」の前後で、井上さんから「こんなドラマをやるんだけど、音楽は大友さんがいいと思っていて。舞台は東北で……」みたいな話があったんです。そのときは、俺が音楽をやることは決定事項ではなかったんだけどね。井上さんと俺はいろんなドラマで音楽を作ってきた仲でもあるんですけど、そのときはもう俺でいきたいって思っていたみたい。「プロジェクト FUKUSHIMA!」を開催したことが、「あまちゃん」の音楽に俺が起用された直接的な理由ってことではないですけど、「プロジェクト FUKUSHIMA!」の活動を井上さんが見ていてくれたのは事実です。
──そうだったんですね。震災後、大友さんがずっと行ってきたライブや美術館での展示の制作といったこれまでの活動以外のもの……例えば震災を巡る対談集「シャッター商店街と線量計 大友良英のノイズ原論」の上梓に代表されるような、震災に関連した活動はとても目立つものでした。そして「あまちゃん」のプロジェクトも、その延長線上にあるように映ります。もちろん震災があったから大友さんが「あまちゃん」の音楽を引き受けたというわけではないとは思いますけど。
震災後、俺自身が福島と向き合うようになって、故郷を捨てた自分への負い目みたいなものと同時に「“地方と中央”の問題をなんとかしなくては原発の問題も震災で見えてきたいろいろな問題も解決しないな」ってことを強く感じて。そんなときに湧いてきたのが「あまちゃん」の話なんですけど、ドラマの筋を聞いてみると、見事なくらい自分が考えていることとかぶっているように思えたんですね。「あまちゃん」に出てくる話がいちいち他人事じゃないっていうか……そのくらいあのドラマは俺にとっては切実な内容に思えていて。だから俺の中では「プロジェクト FUKUSHIMA!」と「あまちゃん」はハッキリとつながってるんです。
──「あまちゃん」の震災のシーンを観て、当時の自分の置かれた状況を思い出したという人も多いようです。
もともと「プロジェクト FUKUSHIMA!」は、福島で活動する中で、自分たちの手で作る“祭”みたいなものの必要性をものすごく感じていて立ち上げたものだったんですけど。でもそれだけではどうしても届かないところもあったんですね。その届かないところに「あまちゃん」がうまくハマったようにも思う。もちろんそのために「あまちゃん」をやったんじゃなく、結果的にってことだけど。
- サウンドトラック「あまちゃんアンコール ~連続テレビ小説『あまちゃん』オリジナル・サウンドトラック 3~」 2013年12月25日発売 / Victor Entertainment
- 「あまちゃんアンコール ~連続テレビ小説『あまちゃん』オリジナル・サウンドトラック 3~」ジャケット
- 初回限定盤 [CD2枚組+あまコレBOX] 3675円 / VIZL-629
- 通常盤 [CD2枚組] 3360円 / VICL-64113~4
- iTunes Store
- レクチョク
- ライブDVD / Blu-ray / CD 「あまちゃんLIVE~あまちゃん スペシャルビッグバンド コンサート in NHKホール~」 2014年3月5日発売 / Victor Entertainment
- DVD 2枚組 / 4410円 / VIBL-693~4
- Blu-ray Disc / 5250円 / VIXL-123
- CD 2枚組 / 2940円 / VICL-75003~4
大友良英(おおともよしひで)
1959年、神奈川県生まれ福島県育ちの音楽家。主な演奏楽器はギター、ターンテーブル。1990年にGROUND ZEROを結成後、国内外で作品をリリースやライブを行う。GROUND ZERO解散後はフリージャズやノイズミュージックのフィールドで活動を続ける傍ら、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENなどさまざまな音楽プロジェクトへ参加する。加えてカヒミ・カリィの2010年のアルバム「It's Here!」でプロデュースを担当するなど、膨大な数の音楽作品に携わる。
劇伴制作にも定評があり、「青い凧」(1993年)や「アイデン&ティティ」(2003年)、「色即ぜねれいしょん」(2009年)といった映画、「クライマーズ・ハイ」(2005年)や「その街のこども」(2010年)、「とんび」(2012年)といったドラマのヒット作で手腕を振るう。さらに現代美術やメディアアートの分野でも評価が高く、音響機器を利用した展示作品「without records」「ensembles」などの展示を国内外で開催している。2011年には東日本大震災を受けて、自身が10代を過ごした福島県で「プロジェクト FUKUSHIMA!」を展開。野外音楽イベント「フェスティバル FUKUSHIMA!」の開催をはじめとした一連の活動が評価され、2012年度の「芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門」を受賞し話題を集めた。
2013年には、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当。ドラマのヒットとともにその劇伴にも注目が集まり、サントラや劇中歌などが次々とCD化された。また「あまちゃん」のオープニングテーマと劇中歌である「潮騒のメモリー」の2曲で「第55回 輝く!日本レコード大賞」の作曲賞を受賞。さらに劇伴を実際にライブで披露する大友良英&「あまちゃん」スペシャルビッグバンドを結成し全国ツアーも行った。
主な著書に「MUSICS」「大友良英のJAMJAM日記」「シャッター商店街と線量計 -大友良英のノイズ原論-」。