ポテンシャルが高すぎる
──野間さんが音羽-otoha-さんを知ったきっかけは?
もともと彼女がYouTubeに上げているショート動画を2、3年前から観ていて。そのときは仕事を一緒にするとも想像せず、単純に「すごい人が出てきたな」と思ってました。
──音羽-otoha-さんのアーティストとしての魅力はどんなところに感じましたか?
最初に音だけを聴いたときは歌い手なのかなと思ったんですよ。でもギターを弾きながら歌ってる動画を観て「思ったより楽器が弾ける人なんだな」と。しかも歌ってるのは自分のオリジナル曲だという。で、調べると歌も歌える、歌詞も曲も書けるし、それに連動性がある。詞先とか曲先ではなく一緒に生み出すタイプである。ギターのフレーズもおそらく自分で考えている。そしてあのビジュアルなので、ポテンシャル高すぎでしょう、と思いましたね。自己プロデュースする能力も高いんじゃないかなと思いました。映像やデザインに対しての感覚もあるマルチクリエイターだなって。
──野間さんが最初に「お!?」と思った音羽-otoha-さんの曲は?
「アズライト」ですね。アップテンポの明るい曲で、彼女の音楽的なルーツはよくわからないんですが、ちゃんとJ-ROCKを聴いてきてる感じがあった。僕も下北沢で育ってきた、J-ROCKの世界にどっぷりいた人間なので。そういう人たちに対してもちゃんと訴えかけられる強さを持った、ロック的でオルタナティブな印象を受けたんですね。だけど、あんまり押しつけがましいわけでもない。彼女の曲は「こんな感じなんだよね」くらいで、聴いている人が入り込む隙間がある。自分の中に「あ、そうそう」「わかる」という感情が芽生える。そういうところが新世代だなと思いました。
──音羽-otoha-さんはアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」と、劇中に登場する結束バンドに楽曲を書き下ろしていますが、野間さんはそのあたりはどう見ていましたか?
こないだのアニプレックスの20周年イベント(1月7日に東京・東京ガーデンシアターで行われた「ANIPLEX 20th Anniversary Event -THANX-」)では、僕は箱バンドのバンマスを担当していて、音羽-otoha-が提供した曲もライブで演奏したんです。そこで、彼女の曲はテーマ性を押しつけるというよりは共感する隙間をちゃんと持っている。すごく好印象でした。
曲にある隙間と共通する人間性
──実際に音羽-otoha-さんとお会いしたのは?
アレンジャーとしてのオファーをもらったのが最初です。
──制作をご一緒したときのファーストインプレッションは?
難しい人なのかなと思ってたんですよね。クオリティの高い曲が作れて、ポテンシャルも高いとなると、自分がやりたいことは核として絶対にあるじゃないですか。そこに他者が入り込む隙間があるのかなと思ったんですよ。でも会ってみたら受け入れ体制というか、余白を持っている人で。逆に「私の音楽に何を感じますか?」と問いかけてきたんです。会話をさせてくれるタイプだった。そこが彼女の曲にある隙間みたいのと共通してたんで「ああ、なるほど」と思いました。一方的に演説を聞いてる感じじゃなくて、こっちが感情を乗せられるタイプの曲を書く人というイメージが、人柄と合致したなと。
──音羽-otoha-さんの死生観に対しての表現というのは、ほかの曲にも見られる大きな魅力の1つだと思います。
この間ライブを観に行ったんですけど、なんてことないところで「死ぬなよ」みたいなことをお客さんに言うんですよ。「また会いに来てね」とか「いつでも会えるわけじゃないからこの一瞬を大事にしたい」みたいな。人と人が出会って一緒に何かをすること、一緒にいることの大切さを、すごく純度の高い尊さとして常に持っている人だなと思いました。その分、生きてて疲れそうだな、とも思います。
今までいなかったようなアーティストに
──ギタリストやボーカリストとして、ミュージシャンとしての特徴に関してはいかがでしょうか?
ライブや曲の印象で言うと、下北沢の2000年代のロック、UKロックに根ざした音楽に影響を受けつつ、ハードロックやメタルのアプローチもちゃんと通ってきているなという。本当にそういった曲をギタリスト並みに弾けちゃうし、エッジをちゃんと持ってる感じがありますね。
──音羽-otoha-さんのルーツを聞いたところ、マイケル・ジャクソンのギタリストだったオリアンティが自分のヒーローで、そこからいろんなレジェンド的なギタリストをさかのぼって聴いていたとおっしゃってました。世代的にも珍しいタイプだと思います。
そうですね。僕もそれを聞いて「そこがヒーローなんだ」と思いました。ギターも弾けて歌も歌えてすごくカッコいいと思ったとしきりに言ってたので意外でしたね。
──ボーカリストとしての魅力、歌や声に関してはいかがでしょうか。
とにかく楽器が好きな人だと思うんです。すべての楽器が好きなんですよね。楽器の音だけじゃなく、その楽器の由来とか、特性とか、そういうのをなんとなく体で理解している。なので歌や声もそういう感じで捉えていると思います。楽器的な声なんですけど、そこにちゃんと感情も乗せられるんですよ。叫んでるというよりは、感情を乗せて伝えるための楽器として声を捉えてる気がします。だから隙間がある。胸ぐらをつかまれて肩を揺すられながら「こうなんだよ」と言われてる感じじゃなくて、スッと入っていく感じで彼女の音楽と対峙できる理由は歌い方にもあると思うんですよね。その隙間が彼女の魅力だと思います。
──この先の音羽-otoha-さんに期待することはありますか?
多種多様なものを感覚的に取り入れられて、かつフィジカルのポテンシャルが高い人ってなかなか出てこないと思うんですよ。映像やデザインにもこだわりを持っていて、かついろんな楽器が弾ける。ライブでトークボックスを使っていて、それもカッコいい。チューブをくわえて弾きだしたときに、ここまでマルチな女性クリエイターって今まで日本にいなかったんじゃないのかなと思いました。ひと言で言うなら、今までいなかったようなアーティストになってほしいです。
プロフィール
野間康介(ノマコウスケ)
1978年生まれ、大分県出身。6歳からクラシックピアノを弾き、10歳より作曲を始める。高校時代にバンドを結成し、曲のアレンジも手がけるように。2002年にガガーリンでメジャーデビュー。同バンドでの活動を経て、アレンジャー、キーボーディストとしてのキャリアをスタートさせる。2007年にagehaspringsに所属。YUKI、元気ロケッツ、ゆず、CNBLUE、KEYTALK、LiSA、まふまふ、でんぱ組.inc、Aimer、三森すずこ、Benthamなどさまざまなアーティストへの楽曲提供やアレンジ、プロデュースに携わる。
音羽-otoha- ライブ情報
音羽-otoha- 東名阪ライブツアー
- 2024年7月26日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2024年8月6日(火)東京都 LIQUIDROOM
- 2024年8月11日(日)大阪府 BIGCAT
プロフィール
音羽-otoha-(オトハ)
「自分自身に向き合い続けること」を主なテーマとして活動するシンガーソングライター。作詞作曲、ギターやピアノの楽器演奏に加え、アニメーション制作や映像編集なども手がける。中学時代に観た映画「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」に出演していた女性ギタリストのオリアンティに衝撃を受け、ギターを弾き始める。高校入学後はバンドを結成。ギターボーカルとしての活動を経て、現在の名義である音羽-otoha-としてソロ活動をスタートさせる。2020年1月には初のオリジナル曲「リインカーネーション」を配信リリース。2022年にはアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」のオープニングテーマ「青春コンプレックス」の作曲を担当して話題に。2024年2月にソニー・ミュージックレーベルズ内のKi/oon Musicよりメジャーデビューする。