大竹しのぶ|素晴らしき音楽家たちと“人生”を歌う

好き過ぎて提供アーティストのスタイルに近付きたい

──森山直太朗&御徒町凧コンビによる「しのぶ」は、大竹さんがご自身に「ねぇ、しのぶ」と語りかけるという歌ですね。

私、自分で「しのぶはねえ」なんて言わないし、むしろそういうの、かなり苦手なほうなのに(笑)。曲が届いたとき、直太朗さんに「これ、どう捉えたらいいの?」と聞いたんです。そうしたら「『しのぶ』と言う曲をしのぶさん以外に誰が歌えるんですか?」と、なんだかよくわからないけど妙に説得力のある言葉で返されまして(笑)。

──でもこれ、大竹しのぶが“大竹しのぶの人生”を俯瞰の視点から一望しているような、かなり秀逸なアプローチの曲だと思いました。

大竹しのぶ

そうですよね。私自身の人生と死についてはもちろん、私は普段お芝居をしているので、役を1つ演じ終えるごとに迎えている死についての歌のようにも取れますし、癒しの曲とも捉えられる。すごい歌だなあと思いました。

──8曲目の「しのぶ」からベット・ミラーのカバー「The Rose」、エディット・ピアフのカバー「愛の讃歌」というラスト3曲の流れは迫力がありますね。どれも大竹さんにとってフランク・シナトラにおける「My Way」、または美空ひばりにおける「川の流れのように」のような曲だと感じました。

ありがとうございます。でも皆さん聴いていて疲れちゃうかなあ……? 

──そんなことはないと思いますけど(笑)。

「NHK紅白歌合戦」で歌った「愛の讃歌」をテレビで観た豊川悦司さんから「3D? 飛び出して来るかと思った」と言われたことがあって。ヒドいですよね……(笑)。「The Rose」と「愛の讃歌」はどうしても入れたかったんです。いろいろと曲順をいじってみましたが、何度やってもやっぱり一番しっくりくるのがこの順番でした。

──「The Rose」は女優の渡辺えりさん、「愛の讃歌」は歌手の松永祐子さんによる日本語詞で歌われています。

「The Rose」は渡辺えりさん自身がずっと歌っている歌詞で、すごくいいなあと思っていたので。英語曲の日本語詞はどうしても原曲より少ない言葉数で歌うことになるんですが、えりさんはすごく上手に訳していますよね。「愛の讃歌」は越路吹雪さんが歌われていた、岩谷時子さんによる日本語詞が一番広く知られていますが、松永さんの日本語詞はよりエディット・ピアフの原曲に近い、強い歌詞なんですよね。松永さんの歌で初めて聴いたとき、とてもしっくりきたので歌わせていただきました。

──おそらく大竹さんご自身が一番声を張れるキーやメロディって、「The Rose」や「愛の讃歌」のそれだと思うんです。でもそれ以外の曲は、基本的に大竹さんのほうから提供アーティストのキーや佇まいに寄せる格好と言うか、ある意味、大竹さんが提供アーティストのスタイルを演じることで歌われているようにも感じられたのですが。

多少は自分のキーに寄せて調整もしたんですけど、確かにそうかもしれませんね。ただ演じるという意識はまったくなくて、単純に提供してくださった皆さんのことが好きすぎるんだと思います(笑)。皆さんの曲と声が両方好きなので、自分の本来の声よりも、できるだけそっちに近付きたいなあという思いが強かったんだと思います。

“もうずっと歌手でいたい宣言”をしたいぐらい楽しい真っ盛り

──それにしてもかつての“歌手・大竹しのぶ”は、阿久悠、松本隆、つかこうへいなど、さまざまな作家の方からの提供曲を、女優業の合間に不定期で歌っていらしたという印象でしたが、近年はかなりコンスタントに歌われていますね。

自発的な音楽活動はここ3年ですね。

──何かきっかけがあったのですか?

2007年に「スウィーニー・トッド」というミュージカルを演ったときの稽古場で、みんな一緒に声を合わせるのって、なんて気持ちがいいんだろうと改めて驚いた瞬間がありました。でも一番のきっかけは2013年に泉谷しげるさんとご一緒した楽曲「黒の舟唄」(泉谷のアルバム「昭和の歌よ、ありがとう」収録)かな。そのときの体験がすごく楽しかったんですね。

──具体的にはどのような楽しさが?

大竹しのぶ

役者同士だと現場も長い期間のものが多いし、仲良くなる場合も徐々に打ち解けていくという感じなんですけど、ミュージシャンの方々は楽器の演奏や歌ですぐに打ち解けるじゃないですか。それがすごく新鮮だったんですね。さっき初めて会ったばかりなのに、ひとたび音を奏でると、ものの10分で「あれ? 私たち10年前から友達だったんじゃない?」という気持ちになれる。お芝居よりもさらに個と個の関係性からビビビと感じてビビビと発信することのできる感覚がものすごく快感で、そこにシビれちゃったんです。もちろんそれまでも舞台やミュージカルや単発の企画などで歌っていたんですが、音楽の自由さとカッコよさに、恥ずかしながら最近まで気付けていなかった(笑)。あとは生前の清志郎さんを通して知り合った、まさよしさん、斉藤和義さん、三宅伸治さんの存在も大きかった。だから本当にここ3年ぐらいで開眼したという感じなんです。

──2011年から主演を務めているエディット・ピアフの生涯を描いた舞台「ピアフ」の影響も大きかったのではないかと推測していましたが。

もちろんそれもありました。口から魂がどーんと飛び出しちゃうようなピアフの歌の情熱からは、自分が音楽と向き合ううえで“地に足を付けて歌う”というスタンスを教わりました。そこからどこをどう間違えたのか紅白で「愛の讃歌」を歌うことになりましたが、あの舞台では歌で思いを伝えることの素晴らしさを実感することができましたね。

──「自発的にはここ3年」ということは、もしかして今は楽しい真っ盛りという感じですか?

はい! “もうずっと歌手でいたい宣言”をしたいぐらいです。

──おお。でも舞台や映画の関係者が困っちゃいますから、そこは我慢していただいて(笑)。歌手として何か目標などはありますか?

もっとうまくなりたい。もうただそれだけです(笑)。

──でも僭越ですが、近年着実にうまくなられていますよね?

本当に? 進歩しているといいんだけどなあ。

こんなにすぐに、瞬間に、演るほうも観るほうも幸せな顔になれるなんて

──テレビ番組やライブなど、人前で歌うことへの意識についての変化はありますか?

ステージでは毎回お客さんから教えられることばかりですね。今から10年ほど前、万博の会場でコンサートをやったとき、イベントだったので、そこに偶然居合わせたお客様ばかりだったんですね。そのとき、前のほうで聴いてくださっていたおじいちゃんとおばあちゃんがいらして。最初は「この人は何をするつもりなの?」みたいに首を傾げるようにご覧になっていたんですけど、コンサートが終わる頃には、すっごく幸せそうな顔で一緒に飛び跳ねて踊っていらしたんですね。こんなにすぐに、瞬間に、演るほうも観るほうもお互い幸せな顔になれるなんてすごいと思いました。

──いい話ですね。

あと2015年の「SUMMER SONIC」を観に行ったとき、ファレル・ウィリアムスが「Happy」を歌ったら雨がザーッっと降ってきたんだけど、みんな文字通りハッピーな気持ちになっていた景色も忘れられません。私の歌なんて微々たるものですけど、そんな気持ちで通じ合えたらうれしいですね。最近は、私が感じる幸せな時間の輪が大きくなってくれたらそれが一番だと思っています。だから私でよかったら、全国どこへだっておじゃましたい。みんなと幸せになりたい。

──今ファレルの話題が上がりましたが、大竹さん、そもそもどういう音楽がお好きなんですか?

大竹しのぶ

若い頃はさだまさしさんとか、いわゆるニューミュージックをよく聴いていましたね。最近だと今回アルバムに参加して下さった皆さんの曲はもちろんだし、野田洋次郎さんのRADWIMPSも好きですね。あとここ数年は何よりブルーノ・マーズです! あんなに幸せになれる音楽ってすごくないですか?

──ブルーノの話題からかなり語気が強まりましたね(笑)。

彼が4年前の1月に来日した際、「ミュージックステーション」に出て、その次の日が限定入場のライブだったんですけど、私は「ピアフ」の公演中でどうしても行けなかった。それで知り合いのご好意で「Mステ」のリハを拝見して、楽屋でご本人にお会いできたんです! 一緒に付いてきた娘からは「恥ずかしいからやめておこう」と制止されたんですが「私、こんな機会、もう人生の中でそうないと思うの」とか言ってそれを振り切って(笑)。

──そんなにお好きだったとは!(笑)

楽屋で「明日の僕のライブ、来ないの?」「舞台なんです」「そっちやめて僕のほうに来ちゃいなよ?」「行きますー!!」みたいな(笑)。2014年の来日公演のときも、次の日筋肉痛になるぐらい客席で踊りまくっちゃって。来年の来日公演も絶対に行きます!

──今回のアルバムにはロカビリー調の「変な芸術の先生」がありますが、いずれは“大竹しのぶ、ファンクを歌う”にトライする姿も見られるかもしれませんね。

そのためにはもっともっとうまくならなきゃ無理だし、何よりこのアルバムが売れてくれないと(笑)。皆さん、どうかぜひ聴いてくださいね!

大竹しのぶ「ち・ち・ち」
2017年11月22日発売 / Victor Entertainment
大竹しのぶ「ち・ち・ち」

[CD]
3000円 / VICL-64790

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収録曲
  1. Miren
    [作詞・作曲:鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)]
  2. キライナヒト
    [作詞・作曲:高橋優 / ゲストボーカル:明石家さんま]
  3. 天使じゃないけれど
    [作詞・作曲:中村中]
  4. きもち
    [作詞・作曲:佐藤良成(ハンバート ハンバート)]
  5. 変な芸術の先生
    [作詞:松尾スズキ / 作曲:門司肇]
  6. まばゆい君へ
    [作詞・作曲:玉城千春(Kiroro)]
  7. 願い
    [作詞・作曲:山崎将義]
  8. しのぶ
    [作詞・作曲:森山直太朗、御徒町凧]
  9. The Rose
    [作詞・作曲:アマンダ・マクブルーム / 日本語詞:渡辺えり]
  10. 愛の讃歌
    [作詞・作曲:マルグリート・モノー / 日本語詞:松永祐子]
大竹しのぶ ミニライブ&握手会

2017年11月23日(木・祝)
東京都 タワーレコード渋谷店8階イベントスペース
START 14:00

大竹しのぶ(オオタケシノブ)
1957年7月17日生まれ、東京都出身。1975年に映画「青春の門 -筑豊篇-」のヒロイン役で本格デビュー。同年、NHK連続テレビ小説「水色の時」に出演し幅広い世代から人気を集める。以降、映画や舞台への出演を重ねながら主要な演劇賞を数々受賞し、女優としての存在感を確立。歌手活動も継続的に行っており、2016年には舞台「ピアフ」で2011年より歌い続けている「愛の讃歌」で「NHK紅白歌合戦」に初出場した。2017年10月には朝日新聞にて連載中のコラムを収載した単行本「わたし、還暦? まあいいか2」が発売された。2017年11月にはニューアルバム「ち・ち・ち」をリリース。12月には東京・シアターコクーンにて主演舞台「欲望という名の電車」が上演される。