ナタリー PowerPush - OSTER project

ディズニー映画とボーカロイドの出会い

OSTER projectが新作ボーカロイドアルバム「Attractive Museum」をリリースした。

約20分にわたって音楽劇が繰り広げられるボーカロイドミュージカル「Music Wizard of OZ」を筆頭に、幅広いジャンル、さまざまなスタイルのボーカロイド楽曲を収録した本作。シーンの黎明期から活躍する女性ボカロPとして独特の立ち位置を持つOSTER projectのオリジナリティを象徴するような1枚になっている。

アルバムのリリースにあたり、ナタリーでは初のインタビューを実施。作品について、自身のクリエイティビティのあり方について、じっくりと語ってもらった。

取材・文 / 柴那典 撮影 / 佐藤類

ボーカロイドは捨てられない存在

──OSTERさんは初音ミクの発売直後の2007年に「恋スルVOC@LOID」を投稿していますよね。振り返って話を聞ければと思うんですが、あの頃はどういうことを考えて曲を発表していたんでしょう?

OSTER project

当時はカバー楽曲が主流であんまりオリジナル曲を上げるっていう文化がなかったんで、オリジナルを作って上げたら面白いんじゃないかなと思ってやってみた感じです。あの頃から自分でプロデュースする存在としてボーカロイドというものを見ていたところはありますね。

──クリエイターとしては、それ以前にも曲を作って発表していたんですよね。

そうですね。基本的にインストゥルメンタルの曲を作ってました。

──影響を受けた存在にはどういう方がいるんでしょう?

本当にいろんなアーティストの方に影響を受けてるんですけど、インストゥルメンタルの時期はコナミの「beatmania」というゲームにハマっていて。そこにインスパイアを受けた作品をいっぱい作っていました。

──OSTERさんの曲調には、ちょっとファンタジックで、動画も含めてパステルカラーっぽいテイストがありますよね。そういう方向性はどんなところから生まれたんでしょう?

実はおしゃれ系の曲とかは、前からけっこう好きだったんです。でも、インストゥルメンタルの曲を作っていた頃って、逆に難解な曲のほうが評価されていて(笑)。わりと前衛的な、プログレッシブ系のフュージョンとかを中心にやってたんです。でも、当時から歌モノを作りたいと思ってて。初音ミクという存在を知ったときに今までやりたかったことをできるんだって思って、あのかわいらしい声に合うような路線の楽曲が徐々に増えていった。そういう感じですね。

──僕の印象ですと、2007年の発売直後の黎明期から今に至るまでコンスタントにボーカロイド作品を発表し続けている人って、そんなに数は多くないと思うんです。特にデビュー後は自分の声で歌ったり、歌い手さんとのプロジェクトに移行したり、いろんな形で表現を変えてきている人も多い。でも、OSTERさんはお仕事の幅も広がりつつ、ボーカロイドという1つの軸を貫いている。そのあたりはご自分でどう捉えているんでしょうか。

やっぱり、ボーカロイドにはボーカロイドにしかない魅力があるんですよね。ボーカロイドの音楽は自分で好きなように、自由に表現できる。そこが大きな魅力だと思うんですよ。そういう点でやっぱりボーカロイドっていうのは捨てられない、離れられない存在と思いますね。

かわいいだけじゃない、いろんな可能性を追求したい

──今回のアルバムの「Attractive Museum」はどういうところから作っていったんでしょうか?

実はアルバムは毎回「そろそろいっぱい曲も作ったし出そうか」っていうノリで出しているんです。曲が集まってきた段階で「そろそろ何か形として残したいね」っていう話をしてもらって、「じゃあお願いします」みたいな(笑)。

──特にアルバムをイメージして書いたというわけではない?

そうですね。アルバムのために曲を書き下ろすっていうよりは、日頃の活動の成果として今回のアルバムを出すっていう感じです。

──このアルバムは基本的には2010年代に入ってからの曲が収録されているわけですが、作風として、ここ数年でご自分が変わってきた感じはありますか?

OSTER project

初期の頃のおしゃれ系ポップスみたいな作風って、初音ミクのかわいらしい声に合わせたかわいい曲っていうのをコンセプトに作っていたんです。でも、かわいいだけじゃない、いろんな可能性を追求したいなと思うようになってから、ロックとかハードな感じの楽曲にもチャレンジしていて。なので、今回のアルバムもかわいい曲は多いんですけれど、それだけじゃなくて、激しい系、カッコいい系っていうのもふんだんに取り入れた感じになっていて。そこが今までと違うところなのかなと思いますね。

──曲調の幅が広がったっていうのはツールとしてのボーカロイドの進歩も関係しています?

それも大いにあります。私が使い慣れてなかったせいもあるんですけど、激しい曲にボーカロイドを合わせるにはちょっと声にパンチが足りないなと思って今までちょっと躊躇していたところがあって。でも、エンジンがVOCALOID2からVOCALOID3と進化していくに従って、多種多様な調整が可能になって。それに合わせていろんなことに挑戦させてあげようって感じになったんです。

ニューアルバム「Attractive Museum」/ 2014年4月23日発売 / Subcul-rise Record
初回限定盤 [CD+DVD+ブックレット] 3024円/ SCGA-00001
通常盤 [CD] 2484円 / SCGA-00002
収録曲
  1. MARSHMALLOW HOLIC
  2. POMPADOUR
  3. サマーアイドル
  4. ドロッセルの剣
  5. レツェルの騎士
  6. 魔法使いのショコラティエ
  7. tete-a-tete
  8. ガンガンがんばリンク!!
  9. flower of sorrow
  10. 狐ノ嫁入リ
  11. on the rocks
  12. マスマティガール
  13. おおかみなんかこわくないッ!
  14. Music Wizard of OZ
初回限定盤仕様
  • 「Music Wizard of OZ」のスペシャルエディション映像を収録したDVD付属
  • 「Music Wizard of OZ」「Alice In Musicland」の楽譜が掲載されたブックレット「VOCALOIDミュージカル Selection」を同梱したボックス仕様
OSTER project(おすたーぷろじぇくと)

2003年からインターネットを中心に活動している女性クリエイター、OSTERによるソロユニット。2007年の「初音ミク」発売直後にオリジナル曲「恋スルVOC@LOID」を動画サイトに投稿し、これをきっかけにボカロPとしてのキャリアをスタートさせる。楽曲の特徴はファンタジックでかわいらしい世界観。ボーカロイドを使った大作ミュージカル「Alice in Musicland」などでボカロシーンにインパクトを与える。2011年にはボカロPによるインターネット発のレーベル・BALLOOMの設立メンバーとなり、ビッグバンド編成の「OSTER "BIG BAND" project」としてアルバム「GOSSIP CATS」を発表。その後もクレモンティーヌとのコラボ作「魔法使いのショコラティエ -Le Chocolatier Enchante-」、フルオーケストラで制作された「Story Teller」、サンリオとのキャラクターであるシナモロールとコラボレートした「Cinnamon Trip!!」などさまざまな取り組みによるアルバムを発表した。2014年4月には、2010年代のボカロ曲を中心に収録したアルバム「Attractive Museum」をリリースする。