マイケル・ヘッジスの衝撃
──2002年にメジャーデビューした際、オープンチューニングやタッピング奏法を駆使した押尾さんのテクニックはすでに完成されていました。そもそもどうやって独自の奏法を編み出したんですか?
いろんなところで話していますが、僕の場合はやっぱり、高校時代に出会ったマイケル・ヘッジス。このギタリストの存在が大きかったですね。普通とは違うチューニングを駆使し、それこそギター1本で何人分もの音を紡ぎ出す演奏家なんですけど、彼の演奏を聴いたときに人生が一変するほどの衝撃を受けました。自分も絶対そういった奏法を採り入れた曲を作りたい。そう強く感じたのが僕の原点です。ただミュージシャンとして本格的に活動を始めても、最初はなかなか受け入れてもらえませんでした。
──テクニックの斬新さだけでは、ライブハウスにお客さんは呼べなかった?
呼べませんでした、見事に。自分ではすごい演奏だと思っていても、お客さんがゼロじゃマズいじゃないですか(笑)。
──人に歴史あり、ですね。今では大きなホールも満員にしているのに。
インディーズ時代から、お客さん1人を2人、2人を5人に増やすにはどうすればいいのかすごく真剣に考えました。それで自分独自の奏法で、誰もが知っている有名な曲をカバーしてみたり。パッと聴いて「へえー、アコギって面白いな」と思ってもらえるエンタテインメント的な要素を採り入れたり……いろいろ試行錯誤を重ねて、現在のスタイルを作っていった感じですね。
──「インストの魅力をどう伝えよう」「ギターを知らない人にいかに面白いと思ってもらおう」という模索は、最新アルバムに至るまでずっと変わらない?
そうですね。極端な話、ギターの弦の数を知らない人にも、「お、いいな」と思ってもらうのが理想です。でも最初にお話ししたように、ギター小僧である部分は変わらないので(笑)。「このフレーズ、弾きたくなるだろうな」という楽曲もやっぱり入れたい。エンタテインメントとテクニックの葛藤みたいなものは、音楽を続けている限り変わらないんだと思います。
「これぞ押尾コータロー」的な1曲
──ここからはアルバムのお話を伺いします。1曲目の「大航海」はアップテンポで晴れやかな、まさに広い海に向かって漕ぎ出していくイメージが浮かぶポップチューンです。
自分で言うのもヘンですが、「これぞ押尾コータロー」的な1曲だと思います。アコギのインストでは、こういうシンプルな8ビートの曲って意外に少ないんですよ。どちらかというと16ビート系のファンキーなカッティングや、あるいはフィンガーピッキングの入ったラグタイムっぽい奏法が主流で。
──言われてみればそうですね。こういう「♪ズッタン、ズタタンッ」というストレートなドライブ感はアコギの分野ではあまりなかったような。
よりわかりやすく言うと、J-POP感かな? そういう明快なポップさをアコギのインストに採り入れた路線は、ある種、僕の看板分野だと思っていて(笑)。「大航海」はその典型です。リズムだけじゃなくコードもそう。味付けに多少ジャズっぽいボイシングも入れつつ、基本はJ-POPでも定番のコード進行を多く用いてます。それでカッコいいインストを作るのが自分らしいし、むしろ新しいのかなと。今回の「Encounter」には、そういう曲が多いですね。
──2曲目の「FLOWER」は打って変わって6/8拍子のさわやかな1曲。光にあふれたミュージックビデオも印象的でした。
裏話をしますと、実はこの曲、作ってはみたものの自分ではあまりアルバムに入れることに乗り気じゃなかったんです。ところがデモを聴いたディレクターが、「なんか80年代っぽくていいですね!」と気に入ってくれて。どうせなら思いきり80's的なミックスにしようと気持ちを切り替えました。そのディレクターが例として挙げてくれたのが、Tears for Fearsのヒット曲。
──「Everybody Wants To Rule The World」ですか?
そう! 最初は正直、「そうなの?」と半信半疑でしたけど。実際にやってみたらイイ感じで仕上がった(笑)。楽曲的にはテンポのよい3連符がギュッと詰まって。いろんな要素が入れられたなと。
石田長生の関西ノリギター
──6曲目「Pushing Tail」は、関西ブルースシーンを代表するギタリストだった石田長生さんが、押尾さんとのセッションのため書き下ろしたナンバーだそうですね。どうして今回のアルバムに収録しようと?
これも石やんとの出会いがあって生まれた曲なんです。本当なら一緒に演奏したかったんですけど、石やんがあまりにも早く天国に行ってしまったので。僕のソロバージョンで、思いを込めてレコーディングしようと。ちなみにこの曲は、プラスチック製の珍しいビンテージギターで録音してるんです。マカフェリといって、ジャンゴ・ラインハルトとかいわゆるジプシージャズでよく使われるタイプなんですけど。たまたま楽器屋さんで出会って。なんとも言えずチープでかわいい音色がするんです。いかにもプラスチックらしい「ペコッ、ペコッ」という。
──そのユーモラスな音色が石田さんの人柄と重なるとか?
僕の中ではそう(笑)。ただ、レコーディングスタジオの高性能マイクで録るとそれなりに厚みのあるサウンドに仕上がっちゃうので。あえてそうならないよう、大理石っぽい硬めのフロアにマイクを置いて録音しました。これは石やん本人にも聴いてもらいたかった。
──押尾さんから見ると、石田さんはどういうギタリストでしたか?
ギターテクがすさまじいのに、根っこが関西ノリなんです。常に観客を楽しませよう、あわよくば笑わせようという強烈な意志があって(笑)。それでいてプレイの懐は深い。Charさんと組んだBAHOというアコースティックデュオが有名ですけど、本当に最強ユニットだと思います。
──そういうサービス精神というか、ギタリストにおける“関西イズム”の系譜って、押尾さんの中にも確実に受け継がれているのでは?
たぶんそうですね。テクニックで聴かせるだけじゃなく、ことさら意識しなくてもつい、面白い方向に走っちゃうというね(笑)。有山じゅんじさん、木村充揮さん、ほかにも僕の好きな関西のギタリストたちはみんなそうです。だから昔、東京で初めてライブを始めた頃、「押尾さん、そこまでしなくていいですよ」って言われたときはショックでした。まあ、そう言われても、やっぱり出ちゃうんですけどね(笑)。
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サイボーグっぽく無機質に
- 押尾コータロー「Encounter」
- 2019年2月20日発売 / SME Records
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初回限定盤A [CD+Blu-ray]
3780円 / SECL-2378~9 -
初回限定盤B [CD+DVD]
3780円 / SECL-2380~1 -
通常盤 [CD]
3240円 / SECL-2382
- CD収録曲
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- 大航海
- FLOWER
- Horizon
- 久音 -KUON- feat. 梁 邦彦 ~ジョンソンアリラン変奏曲~
- ガール・フレンド
- Pushing Tail
- Cyborg
- 碧い夢
- シネマ
- Harmonia
- 夕凪
- teardrop
- Message
- ナユタ feat. William Ackerman
- 初回生産限定盤 Blu-ray / DVD収録内容
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- Cyborg(Music Video)
- FLOWER(Music Video)
- Making Movie
ツアー情報
- 押尾コータローコンサートツアー2019“Encounter”
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- 2019年3月8日(金)大阪府 NHK大阪ホール
- 2019年3月17日(日)東京都 東京国際フォーラム ホールC
- 2019年3月23日(土)福岡県 ももちパレス
- 2019年3月28日(木)千葉県 KASHIWA PALOOZA
- 2019年3月30日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2019年3月31日(日)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2019年4月5日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2019年4月13日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2019年4月21日(日)北海道 道新ホール
- 2019年4月27日(土)京都府 ロームシアター京都 サウスホール
- 2019年5月12日(日)兵庫県 神戸文化ホール 中ホール
- 2019年5月18日(土)神奈川県 横浜関内ホール 大ホール
- ソニックアカデミーでの第2弾開講中!
押尾コータローのテクニックポイント講座
- 押尾コータロー(オシオコータロー)
- 1968年生まれ、大阪在住のアコースティックギタリスト。オープンチューニングやタッピング奏法を駆使した独自のギターサウンドで、国内外から高い評価を集めている。中学2年からギターを弾き始め、1999年にアルバム「押尾コータロー」でインディーズデビュー。卓越したプレイやメロディアスな楽曲が評判を集め、2002年にアルバム「STARTING POINT」でメジャー進出する。同年にアメリカでもデビューを果たし、2002年から2005年まで3年連続でスイスの「モントルージャズフェスティバル」に出演するなどワールドワイドに活躍している。ギタリストとしての活動を中心に、映画音楽、テレビ番組のテーマ曲、CM音楽なども手がける。世代やジャンルを超えたコラボレーションも展開しており、2018年にはDEPAPEPEとのコラボユニット・DEPAPEKOとしてアルバムを発表。2019年2月に通算15枚目となるオリジナルアルバム「Encounter」をリリースした。