音楽ナタリー PowerPush - ORIGINAL LOVE
田島貴男 ポップスにロマンを求めて
18年ぶりの「風の歌を聴け」セッション
──「ラヴァーマン」先行配信の際、佐野康夫(Dr)さんと小松秀行(B)さんという「風の歌を聴け」セッションの再集結がやはり大きな話題になりました(参照:オリラブ新曲で「風の歌を聴け」リズム隊と18年ぶりセッション)。これがどういうきっかけだったのかを聞こうと思っていたのですが、まずは曲ありきだったんですね。
そうですね。まずは「ラヴァーマン」という曲があって、これをやるならリズムは佐野、小松だなと思ったんです。まあ、ここに至るまではいくつかきっかけがあって。2年ぐらい前にスタッフから「また『風の歌を聴け』みたいな音楽を新曲として聴きたいという人も多いんですよ」って言われて……少し前まではさ、ミュージシャンとしてのセコいプライドみたいなものが残っていて「そういうのはちょっと」と思ってたんだけど、今はもうどうでもいいというか(笑)。
──あははは(笑)。何が理由でどうでもよくなったんですかね。
なんだろうね、やっぱ大人になったからなのかな(笑)。僕もいい歳だし、周りの人たちが再結成したりしているのを見てると「そういうのもいいんじゃないかな」って思えてくるんですよ。自分のことで考えたとき、生演奏でいいベース、いいドラムと組んで僕のギターが絡み合っている上で思いっきり歌うというのが、ORIGINAL LOVEにおいての一番の強みなのかなって。今までで一番、同時に音を出したときに強いバイブレーションをガツンと感じたのは「風の歌を聴け」で出会った佐野と小松で……あれは忘れらんないんですよね、やっぱり。「風の歌を聴け」のレコーディングの前に3人でスタジオに入ったんだけど、めっちゃくちゃ面白かったんですよ。「The Rover」という曲のレコーディングセッションで、プレイバックを聴いたときはみんなで「すごい曲ができたな……」って顔を見合わせて。
──18年ぶりのセッションはどうでしたか?
まったくおんなじ。驚くほど何も変わってなかった。当時のままのフィーリング、グルーヴがあって。佐野っちとだけ、小松とだけというのはあのあともあったけど、佐野、小松、田島の3人が集まったのは本当に「RAINBOW RACE」のツアー以来で。佐野と小松そろってほかのアーティストのレコーディングに呼ばれることも多いらしいんだけど、「田島とじゃないとこういう雰囲気にならないんだよ」って言ってた。すごくうれしかったですね。ミュージシャン同士が18年置いてもまだ、音楽の演奏でコミュニケーションできたことが。
Negiccoに曲を書いて、考え方がガラッと変わった
──アルバムはこの「ラヴァーマン」を軸に作り上げていったと。
うん。まず「ラブソングのアルバムにしよう」と。ジャズのフレイバーの効いたソウルミュージックを土台に、「白熱」や「エレクトリックセクシー」みたいなこねくり回したような歌詞じゃなく、ストレートなラブソングが書きたいと思ったんです。それはさっき言った、もっと開かれたところに音楽を届けるっていう気持ちでね。変化球じゃなくてストレートを投げた。
──確かに「白熱」「エレクトリックセクシー」に比べたらストレートなラブソングかもしれないですけど、十分ヘンですよ(笑)。「ラヴァーマン 胸に矢が刺さっている男」というのは。
あれ? そう?
──アルバム全曲のタイトルの並びを見ても、ジャケットを眺めても、サウンドを聴いても、一般的な「ラブソング集」とは距離があると思います。近作との比較で言えばすごくポピュラリティのある作品ですけど、ORIGINAL LOVE、田島貴男という人が持つ異常性は十分感じられる。
異常性! ハハハハハハ(笑)。そうですか。
──ほかの楽曲も書き溜めていたものが多いんですか?
アルバムのために書き下ろしたものもあって、半々ぐらいですね。「クレイジアバウチュ」なんかはつい最近できた曲で。
──曲順を追いながら話を聞かせてください。「ラヴァーマン」で幕を開けて、同じく小松&佐野コンビとのセッション「ビッグサンキュー」、Negiccoのカバー「サンシャイン日本海」までの冒頭3曲がとりわけキャッチーな、アルバムのつかみとしていい流れですよね。
そう? よかった。つかめていたらいいんだけどね。
──開けたポップソングをやろうとしているアルバムだという意図が伝わってくるし、長年のファンもピンときて、かつNegiccoから興味を持った新規ファンにも親しみやすいサウンドが並んでいるという。Negiccoとの出会いは、田島さんのポップ化にやはり少なからぬ影響があるのかなと思うのですが。
Negiccoに曲を書いて、考え方がガラッと変わったんだよね。ほかのアイドルじゃなく、Negiccoだったからそうなったんだと思う。聴けば聴くほど自分がやってたことに似てるというか、connie(Negiccoのプロデューサー)さんがもともと自分と近い音楽性を持った人だから自然に入れたんだなってあとから思いました。目立つために奇をてらったことをする人たちが多い中で、彼女たちは非常にオーソドックスなことをやっている。それもオーソドックスをやろうとしてるんじゃなく、自然とそうなっちゃってるんだよね。それは目立たないけど、強いんですよ。ヒットしたときに一番化ける部分。普遍性と言い換えていいのかもしれないけど、Negiccoはその普遍性が広く認められている。
──ポップスの正しいあり方ですよね。「サンシャイン日本海」を自分で歌うのはいかがでしたか?
この曲は音域が広くて歌うのがちょっと難しいんですよ。荒削りだけど雰囲気がいいテイクか、丁寧に歌ってきれいに聴かせるテイクにするか迷って、結局最初の荒削りな、ロックバージョンみたいなほうを採用しました。この曲だけで歌入れに1カ月ぐらいかかったの。「違うんじゃね?」とか言いながら何度も何度も(笑)。ライブで弾き語りで歌うことは多くて、その延長線上でいけるかなと思ってたんですが、そう簡単にはいかなかった。自分でもとても気に入ってる曲でね、彼女たちがライブで歌ってるのを聴いて「あれ、やっぱいい曲じゃん」って(笑)。
ジャズ理論の理解と応用
──冒頭の3曲もいいんですけど、個人的にはそのあとの「今夜はおやすみ」「フランケンシュタイン」が大好きで。前半を経てこの2曲が出てきたときに「このアルバムは大変なことになっているぞ」とすごくテンションが上がって。
あー、それは超うれしいね。この流れは自分にとってもアルバムの山場なんですよ。僕にしかできない音楽ができたなという手応えを特に感じたのがこの2曲で、かなり時間をかけて作りましたね。どちらもけっこう前に作った曲なんだけど、元は全然違う曲調だったんです。このアルバムに入れるにあたってどういうアレンジにするかをすごく考えた。
──「今夜はおやすみ」はエキゾでストレンジで、ソフトロック的な雰囲気もありつつ……。
なんて言ったらいいかわかんない曲だよね(笑)。ジャズっぽいコードをたくさん使っていて……3年ぐらい前からジャズを勉強してるんですよ。曲の要所要所にジャズのコードが急に出てきたりするんです。さらにハワイアンのスライドギターが入ってたり、まぜこぜなんだけど、なんか統一感がある。自分でも説明できないんだけど、できあがったときは「やった!!」と思いましたね。僕にしかできない曲だなと。
──数年前に「田島さんがジャズギターを先生に教わっている」と聞いてびっくりしたんですけど、なぜ今基礎から始めたんですか?
「ひとりソウルショウ」を始めるまで僕はバンドしかやってなくて、ギターも難しい演奏は人任せにしていたんです。だからいざ1人で弾こうと思ったらできなかった。1人芸とバンド芸は全然違うことに気付いた。昔はジャズの理論をまったく知らずに「ミリオン・シークレッツ・オブ・ジャズ」(1992年5月発売のアルバム「結晶 SOUL LIBERATION」に収録)なんて曲を作ったりもしてたんだけど(笑)、弾き語りの中にジャズの要素を入れたら面白いかなと思って、ジャズギターの先生に就いて基本的なジャズ理論を学んでいるんです。ジャズの場合のスケールはこう、テンション(コード)の詰み方はこう……という理論がわかってきたので、これを自分がやってきたポップスに応用しようと。
──基礎がわかるとやっぱり違いますか?
全然違う。理論がわかってきたら、これまで聴いてきた音楽も全然違って聞こえてきて。スティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンの音楽にもジャズが入ってるんですよ。彼らの洗練された音楽の仕組みが見えてきた。そういう技術的な変化が曲作りに生かされたのが「今夜はおやすみ」とか「フランケンシュタイン」、次の「クレイジアバウチュ」もそうですね。だからこのへんの流れに反応してもらえるのはすごくうれしいですね。
──初期のORIGINAL LOVEには「心理学」みたいなモロにジャズテイストの曲もありましたけど、あれは理論的なものではなく?
ジョン・バリーみたいな音楽がやりたくて、それをニューウェイブ / パンク的な発想で作ったのがあのへん。野球のルールを知らずにでたらめにダイヤモンドを駆け回っているみたいな(笑)。
──それを今は理解した上で、ポップスの範疇に落とし込んでいると。
そうです、そうです。野球のルールを学べば必ず名選手になれるってわけじゃないけどね。
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- ニューアルバム「ラヴァーマン」 / 2015年6月10日発売 / 3240円 / WONDERFUL WORLD RECORDS / XQKP-1007
- 「ラヴァーマン」
- Amazon.co.jp限定仕様 [CD+ステッカー]
- 通常仕様[CD]
収録曲
- ラヴァーマン
- ビッグサンキュー
- サンシャイン日本海
- 今夜はおやすみ
- フランケンシュタイン
- クレイジアバウチュ
- きりきり舞いのジャズ
- 四季と歌
- 99粒の涙
- 希望のバネ
<ボーナストラック>
- ウイスキーが、お好きでしょ / 田島貴男
ORIGINAL LOVE 2015年夏のツアー
「ラヴァーマン・ツアー」
- 2015年6月23日(火)
東京都 渋谷CLUB QUATTRO - 2015年6月26日(金)
宮城県 Rensa - 2015年6月27日(土)
岩手県 Club Change WAVE - 2015年7月5日(日)
福岡県 電気ビルみらいホール - 2015年7月10日(金)
大阪府 梅田CLUB QUATTRO - 2015年7月11日(土)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2015年7月18日(土)
東京都 渋谷公会堂
ORIGINAL LOVE(オリジナルラブ)
1985年結成のバンド・レッドカーテンを経て、1987年よりORIGINAL LOVEとしての活動を開始。1991年7月にアルバム「LOVE! LOVE! & LOVE!」でメジャーデビューを果たす。同年11月発売の2ndシングル「月の裏で会いましょう」がフジテレビ系ドラマ「BANANACHIPS LOVE」の主題歌に採用され全国的に注目を集めた。その後も「接吻 kiss」「朝日のあたる道」などのシングルでヒットを記録し、1994年6月発売の4thアルバム「風の歌を聴け」はオリコン週間アルバムランキング1位を獲得。以降もコンスタントに作品を発表し、柔軟な音楽性を発揮している。2015年6月には通算17枚目のオリジナルアルバム「ラヴァーマン」をリリース。現在はバンドスタイルでのライブのみならず、田島貴男1人での「ひとりソウルツアー」や「弾き語りライブ」も恒例化している。