音楽ナタリー PowerPush - ORIGINAL LOVE
田島貴男 ポップスにロマンを求めて
ORIGINAL LOVEが通算17枚目となるオリジナルアルバムを完成させた。その名も「ラヴァーマン」。2011年に自主レーベル「WONDERFUL WORLD RECORDS」を立ち上げ、実験的とも言える2枚のアルバムを発表した田島貴男が次に選んだのは、広く大衆に向けたポップアルバムだった。
サントリーCM「ウイスキーが、お好きでしょ」の歌唱、アイドルグループNegiccoへの楽曲提供など、近年さらに活動の幅を広げている田島。1980年代後半から日本のポップミュージックシーンで独自の存在感を放ち続けている彼が考える“ポップス”とはなんなのか。インタビューでは新作「ラヴァーマン」の制作過程を軸に、音楽への情熱をディープに語ってもらった。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 佐藤類
「じゃあ俺1人でやってやるよ」
──ORIGINAL LOVEは2011年から自主レーベルで活動されていますよね。もちろんメジャーレーベルよりも不都合な点はあると思うんですけど、田島さん自身の音楽活動は年々生き生きしてきているように見えるんですよ。
2011年の「白熱」というアルバムは、僕が自分から出したいと言って出したアルバムなんですよ。スタッフがそんなに乗り気じゃなかったときに(笑)。その前の「東京飛行」から4年ちょっと空いたのかな。その間にもたくさん曲を書いていたんだけど、なかなかアルバムという形にできなくて。なにせ40曲ぐらいあったから、予算もない中で「じゃあ俺1人でやってやるよ」って。
──アルバムを一刻も早く作りたいから、インディペンデントを選んだと。
音楽の市場がまったく変わってしまった中で、それまではメジャーのときの予算感で考えてたから「じゃあアルバムは作れないな」と思ってたんだけど、今の時代なりの制作の仕方があるだろうと思って。それを極端に押し進めて、完全に僕1人でやろうと。制作の後半で「……やっぱミュージシャン入れようかな」とも思ったんだけど(笑)、ここまできたらとことん1人で作りきってやろうと、ミックスからマスタリングから全部1人でやったんですよ。
──楽器演奏のみならず、エンジニア仕事まで。
もんのすごく大変でしたけど、めちゃめちゃいい経験になりましたね。あらゆる工程になぜプロフェッショナルが仕事として介在しているのか、自分でやってみて痛いほどわかった(笑)。それぞれの仕事が本当に大変なんですよ。いっぱいいっぱいになりながら作ったけど、「白熱」で得たことは本当に大きかったですね。そこから始まって、「ひとりソウルショウ」とか弾き語りのライブとか、そういうことも始めてみたんですよ。
──「ひとりソウルショウ」や弾き語りツアーは今となっては田島さんのライフワークになってますけど、それも「白熱」がきっかけだったんですね。
今はバンドやりながらソロもやって、ほかのバンドも掛け持ちしてユニットもやって……とか、3つ4つ同時にやってる人もいっぱいいるでしょ。僕もその形に順応したってことなんですよね。ORIGINAL LOVEというバンド活動と、ひとりソウルショウ、そして弾き語り。あと最近はカフェライブなんかもやってますけど、それらを軸にした活動がようやく形になってきたのがここ最近かなと。
オリコン1位の曲として聴けるサウンドを目指して
──その次のアルバム「エレクトリックセクシー」(2013年6月発売の16thアルバム)はどうだったんでしょうか。
1人でやるのはどのへんが限界なのか「白熱」でわかったから、「エレクトリックセクシー」ではエンジニアリング……ミックスとマスタリングは誰かに任せたほうがいいとまず考えて。あとは何人かスタジオミュージシャンも入れて、多少風通しのいいサウンドを作ろうと。あのアルバムでは、僕にとっての80年代感を試したかったんですね。2000年以降の若い世代の80'sリバイバルに影響を受けて作ったのが「エレクトリックセクシー」。
──今のリバイバル感覚を踏まえた上で、実際に80'sを体験した田島さんならではの80's感覚を。
そう。あの時代を経由してない人が解釈する80'sサウンドは面白いなと。同時に、僕にとっては青春時代で思いっきり影響を受けている80'sに立ち返って音楽を作ってみようと思ったんです。だから今っぽいんだけど全然違うというか。80'sリバイバルの世代の人は解釈がどこかおしゃれで、センスがよくてクールなんですよ。でも僕がやると同じにはならないんじゃないかなって。
──今作はサウンド面も楽曲のテイストも、前の2作とは大きく変わりましたよね。
今回のアルバムは、インディーでの制作だけどサウンドのクオリティはメジャーと変わらない……オリコン1位の曲として聴けるサウンドを目指しました。
──それは単に制作面だけじゃなく、姿勢の違いも大きいですよね。前の2作はよりパーソナルな作り方になったことで、田島さん独特の濃さが浮き彫りになっていたと思うんですけど……。
アハハハハハ!(笑) 際立ってましたね(笑)。
──それも非常に濃い面白味があったんですけど、「ラヴァーマン」はすごく外向きな、よりポピュラリティの高い楽曲が多いと感じました。
ええ。今回はリズム隊とギターのベーシックな部分をほとんど生演奏にして、ほかの楽器のプログラミングは自分でやるというやり方にしたんですけど、それで十分なクオリティのものができるというのは、Negiccoのときに同じやり方で作って確信を得たんですよ。Negiccoの「サンシャイン日本海」(参照:Negicco「サンシャイン日本海」リリース記念特集 Negicco×田島貴男対談)と「光のシュプール」はこのアルバムの制作と同じ時期に作ったもので、そこで感触がつかめたというか。
──では外向きでポップなアルバムを作るという意図は「サンシャイン日本海」の前からあった?
思いっきりありましたね。今度のアルバムはとにかくヒットを狙いたいというかね(笑)。もちろんこれまでの作品もヒットしてほしかったけど(笑)、ちゃんとヒットしてもおかしくないような曲が書きたいという思いがあって。表題曲の「ラヴァーマン」は歌詞はつい最近書いたのですが、曲は実は6~7年ぐらい前に書いたもので、ずっと温存していたんですよ。自分でも手応えを感じている曲でね、いつか出してやろうと思ってたんです。でも「白熱」や「エレクトリックセクシー」に入れるにはちょっと方向性が違うなと。
──確かに「ラヴァーマン」という曲は、前2作のアルバムとは方向性の違う、ある意味かつてのORIGINAL LOVEを彷彿とさせるソウルフルな楽曲ですよね。
うん。なんとなく今は違うかなと思ってしばらく温存してたんだけど、最近ソウルミュージックや“渋谷系”を新鮮な気持ちで聴いている若い人が増えてきたみたいだから、やるなら今かなと。で、この曲をレコーディングするんだったら「風の歌を聴け」(1994年6月に発売されたORIGINAL LOVEの4thアルバム)のリズム隊を、バンドを再結成するような気持ちでまんま呼んじゃって、だったらホーンセクションも入れちゃおう、という形で始まって。その延長線上にあるアルバム……一般の人が考えるORIGINAL LOVEサウンドを意識しながら制作しようと考えたのがこのアルバム制作のスタート地点なんです。
次のページ » 18年ぶりの「風の歌を聴け」セッション
- ニューアルバム「ラヴァーマン」 / 2015年6月10日発売 / 3240円 / WONDERFUL WORLD RECORDS / XQKP-1007
- 「ラヴァーマン」
- Amazon.co.jp限定仕様 [CD+ステッカー]
- 通常仕様 [CD]
収録曲
- ラヴァーマン
- ビッグサンキュー
- サンシャイン日本海
- 今夜はおやすみ
- フランケンシュタイン
- クレイジアバウチュ
- きりきり舞いのジャズ
- 四季と歌
- 99粒の涙
- 希望のバネ
<ボーナストラック>
- ウイスキーが、お好きでしょ / 田島貴男
ORIGINAL LOVE 2015年夏のツアー
「ラヴァーマン・ツアー」
- 2015年6月23日(火)
東京都 渋谷CLUB QUATTRO - 2015年6月26日(金)
宮城県 Rensa - 2015年6月27日(土)
岩手県 Club Change WAVE - 2015年7月5日(日)
福岡県 電気ビルみらいホール - 2015年7月10日(金)
大阪府 梅田CLUB QUATTRO - 2015年7月11日(土)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2015年7月18日(土)
東京都 渋谷公会堂
ORIGINAL LOVE(オリジナルラブ)
1985年結成のバンド・レッドカーテンを経て、1987年よりORIGINAL LOVEとしての活動を開始。1991年7月にアルバム「LOVE! LOVE! & LOVE!」でメジャーデビューを果たす。同年11月発売の2ndシングル「月の裏で会いましょう」がフジテレビ系ドラマ「BANANACHIPS LOVE」の主題歌に採用され全国的に注目を集めた。その後も「接吻 kiss」「朝日のあたる道」などのシングルでヒットを記録し、1994年6月発売の4thアルバム「風の歌を聴け」はオリコン週間アルバムランキング1位を獲得。以降もコンスタントに作品を発表し、柔軟な音楽性を発揮している。2015年6月には通算17枚目のオリジナルアルバム「ラヴァーマン」をリリース。現在はバンドスタイルでのライブのみならず、田島貴男1人での「ひとりソウルツアー」や「弾き語りライブ」も恒例化している。