峯田さんに会うとそれがバグってしまうんです(大森)
──昨年2月にZepp Tokyoで銀杏BOYZと大森さんによるツーマンライブ「uP!!! SPECIAL dabadabada」がありました。あのとき、峯田さんが弾き語りで「ミッドナイト清純異性交遊」をやったのが印象に残っているんですよ。大森さんの歌詞の魅力に改めて気付かされたというか。
峯田 確かに男が歌うとまた違うかもね。ホントにいい曲。最初にミュージックビデオを観たときからそう感じてましたね。
──橋本愛と蒼波純が夜の公園で追いかけっこをしてるMVですね。
峯田 「うわー!」って思いましたから。確か、あれで大森靖子の曲を初めて知ったんだと思う。
──あのツーマンのとき、峯田さんは歌詞を一部変えていましたね。「アンダーグラウンドから君の指まで 遠くはないのさ」という部分を「2005年から2018年まで 遠くはないのさ」と。もともと道重さゆみさんに捧げて作られた曲ですけど、そこに峯田和伸を追いかける大森靖子の物語も重なる気がしました。
大森 ああいうことで、私は時間軸がどんどんわからなくなってくるんです。基本的に時空に逆らわず、少しずつよくなっていこうとしている人間なんですよ、私は。そうやって成長してきたのに、峯田さんに会うとそれがバグってしまうんです。
──ティーンエイジャーだった頃にいた、愛媛のミカン畑に連れ戻されるみたいな。
大森 そう、なんだろうこの感じ。
どっちがアウトプットでどっちがインプットかわからない状態を作らないと(峯田)
──峯田さん自身も、いろんな先達からの影響を公言し、リスペクトを込めて作品に取り込んでいくタイプですよね。
峯田 自分の中で「僕はゼロから作る人じゃない」というのがずっとあるんです。それはコンプレックスでもあるけど、ほかの人との違いというか、自分のウリになっている部分でもある。もともと受け手から始まって、サンプリングじゃないですけど、まがいものなりの表現方法を突き詰めてきた感じがして。作曲にしろ、ライブにしろ、ブログでも、SNSでもそう。GOING STEADYの頃はそこまで自覚的じゃなかったんです。なんなら「100万枚売ってやるぜ」みたいな気持ちだってあった。でも、銀杏になってからは「それじゃあ面白くねえ」ってなっちゃったの。フロアとステージだったら、フロア側というか。もうちょっと自分を下げてでも、お客さん目線でどっちがアウトプットでどっちがインプットかわからない状態を作らないと、って思ったんです。それが2007年ぐらい。当時はあまり評価されなかったけど、それを見ててくれてた人たちが今や表現をするようになってくれて、こうやって会えるのはうれしいことですよ。
大森 銀杏BOYZとかNUMBER GIRLを聴いてバンドを始めた人がたくさんいるじゃないですか。もっと売れているバンドもあったかもだけど、「聴いた人が何かを始めたくなる」ことは売れる売れないとも違う話だと思うんです。少なくとも私は銀杏BOYZを見て、それまでは歌う人と言えばアイドルしかイメージになかったのに「これだったら、私もやっていいのかも」と思えたんです。
峯田 正直そのときはね、僕自身もあまりよくわかってなかったの。メンバーと話したわけではないし。でも「俺もギター買ってみよう」とか「ラップをやってみよう」とか、音楽だけじゃなくて芸人でもなんでもいいんだけど、「峯田と同じことやってたまるか」みたいな流れも含めて、自分より若い世代がやってるのを見て「俺もやってきてよかったなあ」と思えた。今思うとそれは、銀杏BOYZがどうということだけじゃなくて、“SNS直前”みたいな時代の空気もあったかもしれない。
大森 確かに。今は誰でも発信しやすい時代になっていますからね。ただ同時に、それはディスられやすい環境でもあって、すぐにやめちゃう人も多い。私は「もっとそれで生きていこうよ!」というところまで引っ張るようなエネルギーを与えてあげられたらなという気持ちで活動しています。
いろんな峯田さんの顔を増やせばいい派です(大森)
──昨年、対バンしたあとのブログに大森さんはこう書いてました。「わたしがこんなに峯田さんを好きな理由は、わたしが道重さんを好きな理由と全く同じで、『美しい人間だから』ただそれだけです」と(参照:大森靖子 公式ブログ - 銀杏BOYZがいるからVS THE WORLDできた私の大切な1日)。
大森 峯田さんも、さっきおっしゃってたみたいにいろんな借り物を使ってる部分もあるのかもしれないですけど、ステージに上がると、それらがすべて剥がれ落ちる瞬間があるんですよ。いろんなものがボロボロ落ちていくのが見えるんです。それがすごくよくて。跳んだり、転がり回ったり、いろいろやってるんですけど、ただ立っているだけのとき、ライトを浴びながら中空を見つめているときとか、「あ、人間って、立っているだけでこんなにキレイなんだ!」と思ってしまう。あと峯田さんに影響を受けて出てきたミュージシャンと峯田さんが並んでいるとき……この間も台風クラブさんとの対バンのときとかそうでしたけど、そういう人といるときに出てくる素の表情があって、「まだこんな顔があるんだ!」という驚きもあります。
峯田 自分がバンドを始めた頃は、バンドを始める前から聴いていた人たちに対する憧れがありましたよね。今の若い人たちに対しては憧れとは違うんですけど、「やっぱりカッコいいものはカッコいいなあ」と思えるんですよ。いまだにタワー(レコード)とか(ディスク)ユニオンとかに行って、新譜を買うんです。でもそれは仕事目線とか、新しいものをチェックしようとか、そういうことじゃなくて、店内でかかってて「わー、カッコいい。これ誰?」と“ナウプレイング”を確認するんです。年下だろうが、年上だろうが、もう死んでいる人だろうが、それは18歳で東京に出てきて、西新宿のレコード屋さんに行ってやっていたことと変わらない。そういうのが好きなんでしょうね。41歳になってもね。音楽ファンでいられる限り、自分のままでいられるような気がします。
──音楽に向かうスタンスについて言えば、かつてよりも自然体になったと思いますか?
峯田 前はなんか真っ暗な部屋の中で1人でやっている感じがあったんですけど、今はそんなに真っ暗ではないですよね。でも、真っ暗闇でガーッてなっている様を見て「これこそが銀杏だ」という人の気持ちもわかるんです。そこですよね。そことの折り合い。
大森 私は峯田さんが楽しいのが一番なので、「いろんな峯田さんの顔を増やせばいい派」です(笑)。「真っ暗闇でもがく銀杏が好きだったのに」と言われるかもしれないですけど、どんな状態であれ、真っ暗な部分がなくなるわけないじゃないですか。自分の活動に対してもそう思っていて。新しいことを始めると、「前のほうがよかった」と言う人が出てくるんですけど、前のものだってなくなったわけじゃないし。いろんな表情を見せたいんですよ。ただ峯田さんの場合、真っ暗闇か、そうじゃないか、どちらかを迫られるから大変そうだなって。
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辿り着いたのが「規律」だったんです(峯田)