音楽ナタリー Power Push - 大森靖子
すべての孤独と美しい世界のために
ブログは読んでほしくない
──ところで、このアルバムの完全生産限定盤には書き下ろしのエッセイが付いていますね。
200ページもあるやつね(笑)。
──単体の日記文学としても成立する内容だと思うんですが、これはどういう経緯で書き始めたものなんですか?
出産前後はやっぱり記憶力が落ちるんで、だから日記書いて記録しとこうと思って。あとライブも減るから、その時間を使って書こうかなって。
──でも単なる記録ではなく、ちゃんと大森靖子としての表現になっていると思います。
自分のことをそのまま書くとああなるんですよね。表現しようとか何も考えてないんですけど。
──じゃあブログと同じ感覚で?(参照:あまい 大森靖子のブログ)
ブログよりもうちょっとわかりやすくしようっていうのは思ってたかな。ブログはわかんないくらいがいい。読んでほしくないから改行もわざとしなかったり、文字もちっちゃくして。だってタダだし、読んで得になることも何もないし。
──あ、文字が小さいのはライブドアブログのデザインのせいかと思ってました。
ふふふ(笑)。
──読みにくいから、いつも別のアプリにコピペして読んでました。
あははは、ウケる(笑)。あれはわざとちっちゃくしてるの。読んでほしくないから。でもこの本はお金払って買ってもらうものだから、感情をブワーッて急に10行とか書いたりしてても、なぜこういう感情に至ったかはちゃんと説明するようにしてる。
──大森さんは音楽もやるし絵も描きますが、文章での表現は得意ですか?
えっ、得意も苦手もなくて、ただ何も考えずに書いただけ(笑)。
──歌詞とは違う?
全然違う。文章は頭使わないで書けるから。歌詞書くときは、どうやったら聴いた人がわかってくれるだろうって思って、一応がんばって書いてるんです(笑)。
透明にならざるを得なかった何かがあったはず
──大森さんはその人が持っているブルースにグッとくるという話を以前していましたよね(参照:中村正人×大森靖子「私とドリカム2」対談)。
うん、なんで自分はこうなんだろうとか、なんで自分はうまくできないんだろうとか、そういう人を見ると、そこが面白いのに!って思うんですよね。だってハゲてる人とか超見つけやすいですよ、ライブで。もう最高。ホントに好きなんです。
──でもハゲたおじさんだけじゃなく、悩みなんてなさそうな女の子にも大森さんはブルースを感じるんですよね?
だって今、悩みがなんにもないのは、やっぱり何かがあったからなんですよ。たぶん透明にならざるを得なかった何かがあったんです。どんな生活環境でこうなったんだ?って思う。
──透明な女の子っていうのは、大森さんと交流がある人だと、例えばコショージメグミさん(Maison book girl)とか蒼波純さんとかのこと?
いや、彼女たちは逆にめちゃくちゃ持ってますよ。コショージはわざとやってるでしょ、あれ(笑)。純ちゃんとかもね、お母さんが吉田豪さんの大ファンですからね。腐女子だし。なんか好きな男子のタイプを聞いたときも何言ってるか全然わかんなくて、そしたらずっと好きなゲームのキャラの話をしてたっぽくて。現実離れしてるんです。もうめちゃくちゃですよ(笑)。
──確かに、それに比べるとハゲてる人の哀愁みたいのはわかりやすいですけど。
わかりやすい。ハゲとかデブとか最高です。
──でももっとわかりづらいブルースもありますよね。
わかりづらいところは、がんばって歌にしてますからね。いろんな女の子の姿を見て、それをそのまま歌ってるときもけっこうあるし。好きな人が会社の上司と不倫して飛ばされちゃって違う会社になって、みたいなことを書いてる手紙とかもらうんですけど、そんなのほかの人にとっては超どうでもいい話じゃないですか。でもそういうのが大好物で(笑)。かと思えば小学5年生の子が「靖子ちゃんの曲は一緒に沈んでくれる感じがして好きです」って言ってきて「小学5年生で!?」と思ったりとか。そういう手紙をもらうために音楽をやってると言っても過言ではないです(笑)。
──そうやっていろんな人のブルースを拾い上げて、大森さんなりのやり方で歌にしていく?
そうですね。でも歌にするのはマイナスの感情に限らないですよ。みんなプラスの感情のほうが好きだから曲になりやすくて、そのぶん私は、今まで言語化されてないマイナスのほうが多めになっちゃうだけ。ほかの人が書いてない感情を自動筆記マシーンみたいにただ書いていたいんですよね。
──なるほど。
その結果出てきたものを暗いって言われることが多いけど、でもそんなに暗い曲はないと思う。暗い内容はすごく明るい曲調にしてるし、残酷なことはアッパーな感じで言うようにしてるんで。そういうふうにして、今のこの時代をそのまんま書こうと思ってるだけなんです。
次のページ » 「TOKYO BLACK HOLE」収録曲ミュージックビデオ
- ニューアルバム「TOKYO BLACK HOLE」2016年3月23日発売 / avex trax
- 東京盤 [CD] 3024円 / AVCD-93391
- 黒盤 [CD+DVD] 4104円 / AVCD-93390/B
- 穴盤 [CD+DVD+書籍] 5184円 / AVCD-93389/B
CD収録曲
- TOKYO BLACK HOLE
- マジックミラー
- 生kill the time 4 you、、♡
- 超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS
- 愛してる.com
- SHINPIN
- さっちゃんのセクシーカレー
- 劇的JOY!ビフォーアフター
- ■ックミー、■ックミー
- ドラマチック私生活
- 無修正ロマンティック ~延長戦~
- 給食当番制反対
- 少女漫画少年漫画
黒盤・穴盤DVD 収録内容
- 生kill the time 4 you、、♡(Music Video)
- 生kill the time 4 you、、♡(メイキング)
- TOKYO BLACK HOLE(Music Video)
- TOKYO BLACK HOLE(メイキング)
- 洗脳ツアーおふとん靖子ちゃん
- 息子カメラ
- マジックミラー(新宿降臨ver.)
- 愛してる.com(●ver.)
書籍 ※穴盤(完全生産限定盤)のみ付属
大森靖子が出産の瞬間までの1カ月間を綴った200ページにわたる初の書き下ろしエッセイ。巻末には直木賞作家・朝井リョウが3000字の解説を執筆。さらに完全生産限定盤のジャケットイラストは「GANTZ」「変」「いぬやしき」など数多くの名作を発表してきたマンガ家・奥浩哉が手掛けている。
大森靖子(オオモリセイコ)
愛媛生まれのシンガーソングライター。弾き語りスタイルでの激情的な歌が耳の早い音楽ファンの間で話題を集め、2013年3月に1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」発表後、同年5月に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを実施。レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせ大成功に収める。その後12月に2ndフルアルバム「絶対少女」をリリース。2014年9月にエイベックスからメジャーデビューし、同年12月にメジャー1stアルバム「洗脳」を発表。2015年には大森靖子&THEピンクトカレフ名義でアルバム「トカレフ」をリリースし、同バンドを5月に解散させる。同年10月には第1子を出産。2016年3月にメジャー2ndアルバム「TOKYO BLACK HOLE」を発表する。