音楽ナタリー Power Push - 大森靖子
すべての孤独と美しい世界のために
面白い人たちがその感性のまま生きてる世界がいい
──子供が産まれたことで世界の見え方は変わりましたか?
あんまり変わらないかな。自分の思う美しい世界みたいなのはもともとあって、そういう世界にしたいからメジャーでやってるわけで。
──大森さんが思う美しい世界というのは?
面白い人が削られない世界。今は面白い人がわざわざクソつまんねえ人たちに合わせないと暮らせないようになってるけど、私は面白い人に会いたいし、そういう人がそのままの状態で大人になって、その感性のまま生きてる世界がいい。今はそれを潰すシステムばっかりだなって思うから。進学も就職も。
──自分がメジャーで音楽をやることによって、世界がよくなっていくだろうという実感はありますか?
「靖子ちゃんを見てたら自分の人生これでよかったんだと思いました」とかそういう手紙が来るから、そういうの見るとよかったなって感じます。中には「援交相手にストーカーされてるけど自分が援交したせいだから誰にも相談できない」っていう子がいて、その子の中ではもう人生終わったことになってるのね。けど大人になってみたら援交してる子なんてけっこういっぱいいて、そんなことで人生終わったりしないわけで。
──そうですね。
生きてたらそういうことはいっぱいあるじゃないですか。でも一旦「わー!」ってなっちゃったら、もう死ぬしかないみたいな気持ちになる。私はそういう人に「大丈夫だよ」って言ってあげたいんです。まあ援交は犯罪だからなるべくしないほうがいいけど、そういう人でも人生をちゃんと楽しめるからねって。その人にしかできないことが絶対あるんだよって言い続けたいんです。
──大森さん自身も過去にそうやって勇気付けられた経験が?
うん、自分も歌手とかなれないって思い込んでたけど、峯田(和伸)さんとか関西ゼロ世代とかそういう人たちのライブを観て「こんなのあるんだ? じゃあ自分も全然やっていいじゃん!」って思ったし。だから私の音楽聴いてくれる人たちにも、そう思ってほしいっていうのはある(参照:大森靖子×峯田和伸(銀杏BOYZ)対談)。で、そういう面白い人たちが交わる場所みたいなのを作りたいっていうのも思ってて。すごい混沌とした場所になっちゃうと思うんですけど、それを作りたいんですよね。
──確かに大森さんのライブに行くと、女の子からおじさんまで、いろんな人がいますよね。
みんな面白いんです。いろんな人の人生が知りたいんです。
音楽は料理と同じ
──お話を聞いてると、大森さんの中に世界を美しくしたいとか、面白い人がスポイルされない世の中にしたいといった使命感があるのがわかります。その原動力はなんなんでしょう?
あ、でも最初からそうだったわけじゃないですよ。最初は大きい声で歌ってすっきりしたかっただけ。そういうの意識したのはメジャーデビューしてからで。だって仕事ってそういうものだと思うから。
──使命感じゃなく仕事に対する責任感?
そうです、そうです! 仕事してるだけ(笑)。じゃないとメジャーなんてしんどいし、やんないですよ。趣味でいいならそっちのほうがいいですよ。
──世界を美しくするのが大森さんの仕事だからやっている?
うん、社会をこうしたいとか、そんなの最初は考えてなかった。でもファンレターもらったりして、自分が歌うことによってこんなふうに感じてくれる人がいるんだ! しかもけっこういるぞ!っていうのがわかったんですよね。そうやって継続していくことによってやりがいが生まれ、それが生きがいになっていく。それが仕事というものなんじゃないでしょうか(笑)。
──大森さんにとってメジャーと契約する=仕事として音楽をやるということなんですね。
たいていのミュージシャンは才能があってやってるから、仕事っていう感覚がないのかもしれないですよね。私は才能ないのに無理やりやってる人だからそうなっちゃう。
──才能がないことはないでしょう(笑)。
うん(笑)。でも溺れるほどの才能はないです。音楽だけ作ってればいい人だとは思ってない。自分はミュージシャンって言われるより、アーティストって言われるほうがしっくりくるかな。
──それと同時に、自分が満足いく作品ができればそれだけでいいっていうタイプでもないですよね。音楽を通してコミュニケーションしたいという欲求がある。
うんうん、それはすごく思ってます。この曲はこういう人にこういう感情を与えられるかもしれないとか、そういうことを考えながらやってる。音楽は料理と同じだと思ってて、作っただけじゃダメで、食べてもらわないと意味ない。
──じゃあファンの存在はひときわ大切ですね。
ファンの人が書いてくれた感想とかで、自分の考えと違うこと書かれてるのを読むのが大好きなんですよね。
──聴き手の解釈が作り手の意図と違っててもかまわない?
違う人生を生きてきた人はこんなふうに感じるんだなって思う。あと曲について徹底分析みたいのを書いてくれる人とかいるんですけど、もう自分が思ってるのと全然違うの(笑)。でもその分析を読んで、自分のインタビューの内容をそっちに寄せていったりとかね。そうやってみんなで作れるから面白い。全員友達みたいな感じ(笑)。
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- ニューアルバム「TOKYO BLACK HOLE」2016年3月23日発売 / avex trax
- 東京盤 [CD] 3024円 / AVCD-93391
- 黒盤 [CD+DVD] 4104円 / AVCD-93390/B
- 穴盤 [CD+DVD+書籍] 5184円 / AVCD-93389/B
CD収録曲
- TOKYO BLACK HOLE
- マジックミラー
- 生kill the time 4 you、、♡
- 超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS
- 愛してる.com
- SHINPIN
- さっちゃんのセクシーカレー
- 劇的JOY!ビフォーアフター
- ■ックミー、■ックミー
- ドラマチック私生活
- 無修正ロマンティック ~延長戦~
- 給食当番制反対
- 少女漫画少年漫画
黒盤・穴盤DVD 収録内容
- 生kill the time 4 you、、♡(Music Video)
- 生kill the time 4 you、、♡(メイキング)
- TOKYO BLACK HOLE(Music Video)
- TOKYO BLACK HOLE(メイキング)
- 洗脳ツアーおふとん靖子ちゃん
- 息子カメラ
- マジックミラー(新宿降臨ver.)
- 愛してる.com(●ver.)
書籍 ※穴盤(完全生産限定盤)のみ付属
大森靖子が出産の瞬間までの1カ月間を綴った200ページにわたる初の書き下ろしエッセイ。巻末には直木賞作家・朝井リョウが3000字の解説を執筆。さらに完全生産限定盤のジャケットイラストは「GANTZ」「変」「いぬやしき」など数多くの名作を発表してきたマンガ家・奥浩哉が手掛けている。
大森靖子(オオモリセイコ)
愛媛生まれのシンガーソングライター。弾き語りスタイルでの激情的な歌が耳の早い音楽ファンの間で話題を集め、2013年3月に1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」発表後、同年5月に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを実施。レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせ大成功に収める。その後12月に2ndフルアルバム「絶対少女」をリリース。2014年9月にエイベックスからメジャーデビューし、同年12月にメジャー1stアルバム「洗脳」を発表。2015年には大森靖子&THEピンクトカレフ名義でアルバム「トカレフ」をリリースし、同バンドを5月に解散させる。同年10月には第1子を出産。2016年3月にメジャー2ndアルバム「TOKYO BLACK HOLE」を発表する。