音楽ナタリー Power Push - 大森靖子×福岡晃子(チャットモンチー)対談
一つの故郷、二つの女心
プロデューサーっぽい
福岡 どういう感じで曲を作ってますか?
大森 「こういう曲を作るぞ!」って思って、3時間ぐらい考えてから曲を書いてます。
福岡 メロディと、そこに合うコードを自分で考えるって流れですか?
大森 ああ、私はメロディと歌詞にしか興味がないからコードは適当ですね。ほかのことはもっと上手な人にやってもらえたらいいなくらいの気持ちで。
福岡 じゃあバンドアレンジはほかの人に。
大森 はい。
福岡 楽曲に弾き語りのよさがすごく残ってますもんね。「私は悪くない」がすごくよかったです。
──大森さんのボーカルを多重録音したナンバーですね。
福岡 合唱ですよねあれ。聴いててホッとする感じがあります。
大森 はい。私、小学生が合唱してる動画をYouTubeであさるのが好きで。単純にかわいいってのもあるんですけど、普通の合唱よりすごくヘタなところがいいんですよね。そういうのを自分でもやりたくて、作ってるメロディからちょっとずらしたりしました。
福岡 不思議な感じがしてよかったです。自分で考えたんですね。
大森 BELLRING少女ハートっていうアイドルグループがいて。だいたいどんな女の子でも、歌うといかにも「歌ってます」っていう感じになるじゃないですか。でも噂では彼女たちはそうならないようレコーディング前日に曲を渡されたり、曲を覚えない状態のまま録らされたりするようなこともあるらしくて。そういうことを自分でもどれだけ意図的にできるんだろうって思いました。私はプロデューサーになりたいので、まず自分で実験してみたみたいな感じですね。
福岡 なるほど。確かに大森さんはプロデューサーっぽいかもしれない。普段から「この子、こうしたらもっとかわいいのに」みたいな目で見ているんですか?
大森 はい。「これはさせないでほしい」とかもいっぱいありますけど(笑)。
「売れたい」の人になった経緯
福岡 YouTubeで大森さんがアイドルの方と一緒にダンスしてる動画も観ました。あれもすごいですよね。普通できないけど、どんな流れでああいうことやるようになったのかなって。
大森 もともと私が活動してた界隈で、アイドルがライブハウスに入ってきた時期があったんです。それでアイドルのあとにバンドが出てきたらフロアはシーン……って感じになり、外ではチェキ会で盛り上がってるっていう。
福岡 あー。
大森 なんかお客さんも含めて、アイドルのほうが元気があったんです。最初は「なんじゃこりゃ」って思ってましたけど「明日もがんばろう」って思わせるエネルギーはアイドルのほうだってだんだん気付いてきて、「見習う場所がいっぱいあるぞ」と思いました。私は「売れたい」って気持ちが強かったんで。それでバンドマンとアイドルとの差が気になり出して、取捨選択をした結果アイドルの手法のほうをたくさん取るようになってきたんです。
福岡 ああ。大森さんはこうやったら売れる、こうやったらよく見られそうって判断ができるんですね。プロモーション目線を持ってるというか。
大森 そうですね。というかそれしかないんです。東日本大震災後に自粛の空気が漂って、当時はお客さんがいない状況だったにもかかわらず自粛しなきゃって状況が意味わからなくてパニックになって。その結果「FUJI ROCK FESTIVAL」が行われてた3日間、ずっとラブホテルに泊まり込むっていう映画(「サマーセール」)を作ったんです。
福岡 フジロック期間中にラブホテル?
大森 はい。お互いに「なんかしたい!」っていうエネルギーを持ってた映画監督と2人で。でも結果的に作ったものは何にもならなかったんですよ。もうすごく空しくて、そのとき「絶対売れなきゃ」って思い始めました。
福岡 なるほど。
大森 しかもそのタイミングで、震災は関係ないんですがギターを教えてくれてた人がアル中で亡くなったりとか、そういうことも重なって。ますます「どうやったら売れるか」みたいな考えになりました。それまではただ「いい音楽を作りたい」「歌いたい」しか考えてなかったけど今は「売れたい」の人です(笑)。
とにかくデビューしたかった
──福岡さんは「売れたい」とか「売れるために」みたいなことって考えますか?
福岡 それがですね、私は出生が徳島で……って大森さん愛媛でしたっけ(笑)、同じ四国やけど徳島はちょっと独特な空気を持った場所で。テレビはそれなりに映ってたんですけど、そこで生活してると「売れる」って感覚がいまいちどういうものかわからなかったんです。だから徳島にいた当時の私たちは、ただ「デビューする」ことこそが大事やって刷り込まれてて。
大森 ふふふ(笑)。
福岡 もうホント、どこに行っても「夢はデビューです」って言ってたんですよ(笑)。売れたいっていう以前にひたすら世に出たいとしか思ってなかったので「売れるために」と思ってやったことはないですね。
大森 デビューはどうやって?
福岡 最初はどんなものでも、とにかくオーディションと言われるものは全部出るって感じでしたね。ダンサーが踊ってる横で演奏するオーディションとか、あと予選で落ちたけど「NHKのど自慢」にも応募したことありますよ(笑)。
大森 へー!
福岡 それであるとき徳島で行われた大きなオーディションで優勝したんです。会場にはいろんなレコード会社の人も審査員として来てて、その人たちになんでもアドバイスをもらえるコーナーもあったんです。オーディションのあとにそのブースで「優勝させてもらったチャットモンチーです」って言ったら開口一番に「ああ、君ら絶対デビュー無理」って。
大森 えー……。
福岡 「君らみたいなバンドはゴマンといるから」って。「じゃあなんで私たちグランプリ取れたんですか?」と聞いたら、「マシなんがおらんかったんよねえ、君らぐらいしか」って言われましたね。もうすごくショックを受けて。それまではスカート履くとか普通に女子らしい格好でやってたんですけど、その日から「なんかもうバンドマンと対等じゃないと無理なんやな」みたいになって。ストイックに音楽をやるようになったんです。その後ソニーにデモテープを送ったんですけど、オーディション会場で私たちがボロカスに言われてた現場に居合わせた新人発掘担当の人もデモを聴いてて「意外といいやん」って思ったみたいで(笑)。だからまあそのオーディションがきっかけかもしれませんね。
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- 大森靖子 ニューシングル「マジックミラー / さっちゃんのセクシーカレー」2015年7月15日発売 / avex trax
- CD+DVD 3780円 / AVCD-83266/B
- CD 1080円 / AVCD-83267
CD収録曲
- マジックミラー
- さっちゃんのセクシーカレー
- 私は悪くない
DVD収録内容
- 大森靖子全国ツアー「♥爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー♥」全会場ライブ映像集
- 「マジックミラー」Music Video
- 「マジックミラー」Music Video(大森靖子新宿降臨ソロバージョン)
- チャットモンチー アルバム「共鳴」2015年5月13日発売 / Ki/oon Music
- 「共鳴」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3672円 / KSCL-2610~1
- 通常盤 [CD] 3132円 / KSCL-2612
大森靖子(オオモリセイコ)
愛媛生まれのシンガーソングライター。弾き語りスタイルでの激情的な歌が耳の早い音楽ファンの間で話題を集め、2013年3月に1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」発表後、同年5月に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを実施。レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせ大成功に収める。その後12月に2ndフルアルバム「絶対少女」をリリース。このツアーの最終公演を東京・LIQUIDROOMにて実施した。2014年9月にエイベックスからメジャーデビューし、同年12月にメジャー1stアルバム「洗脳」をリリース。2015年には大森靖子&THEピンクトカレフ名義でアルバム「トカレフ」をリリースし、同バンドを5月に解散させる。7月にはメジャー2ndシングル「マジックミラー / さっちゃんのセクシーカレー」を発表する。
チャットモンチー
2000年4月、橋本絵莉子を中心に徳島で結成。2002年3月、橋本の高校の同級生だった福岡晃子が、翌2004年4月に福岡の大学でサークルの先輩だった高橋久美子が加入し、以降はこの3人体制で地元徳島を中心に活動する。2005年11月、ミニアルバム「chatmonchy has come」でメジャーデビュー。2006年1月には初のフルアルバム「耳鳴り」をリリースした。2008年春、初の日本武道館ワンマンライブを2日間にわたって開催。その後も精力的な活動を繰り広げるが、2011年9月の徳島でのライブを最後に高橋が脱退。その後は橋本と福岡の2人体制で活動を継続する。そして2012年2月には初のベストアルバム「チャットモンチー BEST ~2005-2011~」を、同年10月にはフルアルバム「変身」をリリース。2015年5月にはニューアルバム「共鳴」を発表した。10月にライブハウスツアー「男女6人6ヶ所巡り」、11月11日のデビュー10周年記念日に東京・日本武道館公演「チャットモンチーのすごい10周年 in 日本武道館!!!!」を開催予定。2016年2月には地元徳島にて2DAYSイベント「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2016~みな、おいでなしてよ!~」を実施する。