ナタリー PowerPush - 大知正紘
これからどこへ向かえばいいのか?「ミチシルベ」となる名盤誕生
オーディションでは「審査員の方にも届くはずや!」って
──その後、デビューのきっかけを掴んだのは2008年の音楽コンテスト「ストファイHジェネ祭り」ですが、これにはどういった経緯で出場することになったんですか?
高校3年生のとき、そろそろ進学か就職かを決めなきゃいけないっていう時期になったので、片っぱしからオーディションを受けてみようと思ったんです。「とにかくこの1年でどうにかせないかん!」って。それでいろいろなオーディションに応募したところ、「ストファイHジェネ祭り」で審査員特別賞をいただけて。それがきっかけで上京することになりました。
──そのときは、受かる自信のようなものはあったんですか?
正直、自信にあふれてる感じでしたね。「なんでもできるわ!」っていう高校3年生の無敵感というか(笑)。でも根拠がなかったわけじゃなくて、以前よくストリートで歌ってたんですけど、友達や見知らぬ人に「いい」って言ってもらえることが結構あったんですよ。地元だからかな?と思ったんですけど、名古屋や大阪を回ってみても、声をかけられたり、ライブハウスのブッキングに呼んでもらえたり。そういうことがどんどん広がっていったので、「きっと届くはずやろう!」って思ってたところはありました。「いろんな人に届いたんやから、審査員の方にだって届くはずや!」って。
──そういうティーンエイジャーならではのピュアでがむしゃらな感じ、すごくいいですね。
当時の僕はもう「音楽ってすげーやん!」「こうやってつながって、生まれるもんがあるってすげーやん!」って感じで(笑)。とにかく突っ走ってましたね。
“救い”のある音楽を作っていきたい
──普段はどうやって楽曲を作っているんですか?
ギターを持ち始めたばかりの頃は、出てくる言葉をそのまま音に乗せて歌にしてる感じやったんです。でも、それだと瞬間的に出た言葉を並べただけやから、歌詞として全体を見たときに、まだ詰めようがある状態だったんです。上京してからは、そこから歌詞を直す作業をしてまとめていくというふうに変わりました。
──歌詞のモチーフはどんなものなんですか?
自分が抱えている疑問や、それに対して「これはこうじゃないか?」って自分なりに出した答えが多いですね。携帯やパソコンに、そういうものを思いついたらバーッと残しておくんです。
──では、基本的には自身の思考や経験から生まれるものが原点?
そうですね。経験があって、それを拡大したり縮小したり。もともとの経験がまずあって、それがこんなふうにしてここに行きついたっていう道筋を、物語だったり自分の心の動きとして書いていく感じです。
──大知さんの歌詞は、ほかのアーティストとは違う、オリジナリティあるものだという気がしました。あと、曲によって書き方の手法が違うのが面白いなって。現実的でストレートなものもあれば、すごくふんわりした表現もあり。これは、楽曲に込めた思いが一番伝わる方法で書き分けてるんでしょうか?
そうですね。何かに限定するのがよいのか、ふわっとさせるのがよいのかっていうのは、楽曲ごとで違いますね。
──ほかに歌詞を書く際、気にかけていることはありますか?
僕はやっぱり、救いのある歌を書きたいと思っているんです。自分の経験を元に書くのは、それが理由でもあるんですが。「大丈夫やよ」っていうのは簡単やし、もちろんそういう伝え方のほうがいい場合もあるんでしょうけど、もし自分がそれを言われたとしたらきっと納得できへんなって思うんです。だから納得できる形にするためには、自分の経験から、こうやってこうやった……っていうのをひとつの答えとして曲に込めていきたいなって。それが曲の中で“救い”というものになったりすると思うんですよ。
──では、大知さんの音楽は、イコール救いがあるもの?
そういうことになりますね。
1stアルバムは「ひとつになること=つながり」を表現した
──1stアルバム「ONE」は、どういったコンセプトで制作されたんでしょうか?
コンセプトは“ひとつになること”ですね。アルバムで一番古い曲が高2のときに作った9曲目「Don't Worry」なんですが、これには路上で歌っていた頃の「目の前の人の力になりたい」って気持ちと「(自分は)これから前へ向かうぞ」っていう思いが含まれていて。だから「Don't Worry」は、“ひとつになること”への第一歩というか、そういう存在の曲として今回入れてみました。
──1stシングルの「手」を聴いても思ったんですが、大知さんは“ひとつになること”=つながりみたいなところをすごく大事にされてますよね。
はい。やっぱり自分がそこに救われているし、それがたぶん、最も嘘のないものなんやろうなって。あと、僕の中で“ひとつになること”っていうのは、今をちゃんとした形で共有していくことなのかなって思うんです。同じ今を生きている人間として、みんな悲しいことは嫌だし、幸せになりたいわけじゃないですか? でもそこに欲やプライドを出してしまうこと、なかなか円滑に動いていかなくなることもある。まぁ、それが当たり前というか、そういうもんだって思う人も多いでしょうけど。
──はい。
でも、そういうものを少しずつでも減らしていかんと、なかなかひとつの方向には動いていかないし。一瞬でも、まずは身近な人や目の前の人とでもいいから、少しずつつながっていくことが大事かなってすごく思うんです。
──1人ひとりがそういうふうに生きていこうとすれば、今とはまた違った世界になると思いますか?
何かは変わっていくんじゃないかと思いますね。で、そこを最終目的としたときに、僕はまだそこまで社会を知ってるわけじゃないので、今まで自分が見てきた世界の中で何かを表現できへんかって考えたんです。そしたら、今のこの状況の中で、まずは明日を信じることやなって。2ndシングル「明日の花」がそういう曲なんですが、明日を信じることをやめてしまったら何も前へは進んでいかへん。周りが動いていっても自分の心が動いてなかったら、変わっていけへんなと思ったんです。
──うん、それはそうですよね。
でも明日を信じるってことは、すごく怖いことだと思うんです。つらいし、痛いし、悲しいことやし。けどやっぱり、それに対して一歩踏み出さへんと本当にそのままで終わってしまう。僕はそれが嫌やし、誰かがそうなってるのを見るのも嫌。だから、まずは一歩を踏み出そうとする気持ちだったり、そういう気持ちに対しての自分なりの答えを、今回のアルバムでは1曲1曲に込めたんです。
大知正紘 TOUR 2011「ONE」
- 2011年6月11日(土)
大阪府 心斎橋JANUS
OPEN 16:30 / START 17:00 - 2011年6月17日(金)
愛知県 名古屋ハートランド
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年6月19日(日)
福岡県 福岡ROOMS
OPEN 16:30 / START 17:00 - 2011年6月26日(日)
東京都 原宿アストロホール
OPEN 16:30 / START 17:00
大知正紘(おおちまさひろ)
1991年、三重県生まれのシンガーソングライター。「ストファイHジェネ祭り'08」に出場し、ソロアーティストとして異例の審査員特別賞を獲得。2010年に小林武史がプロデュースした配信限定シングル「さくら」でデビューを果たす。力強い歌声とみずみずしい歌詞が、同世代を中心に支持を集めている。