鬼束ちひろがフォーライフミュージックエンタテイメントに移籍し、4月6日にニューシングル「青い鳥」、4月20日にニューアルバム「剣と楓」をリリース。さらにアルバムと同日には、初の著書となる自伝的エッセイ「月の破片」も発表する。
ナタリーではこれを受けて、鬼束ちひろ本人へのインタビューを実施。その創作の源を探ってみた。
取材・文/大山卓也 インタビュー撮影/中西求
元気に思われようと病気に思われようとかまわない
──1年半ぶりのリリースになりますが、この間は鬼束さんどう過ごされてたんですか?
普通に曲作ってレコーディングして、曲作ってレコーディングしての繰り返し。ゆっくりやってて、気付いたらできてたっていう感じで。
──なるほど。昨年は暴力事件に巻き込まれたりもして、心配していたファンも多いと思うんですが。
あの、O型なんですね。
──はい?
さっぱりしてる。あんま引きずらない、いろんなことを。良いことも悪いことも。
──じゃあいろいろな事件はありつつも、曲作りは続けていたと。
そうですね。音楽だけはずっと続いてるから、このまま続くのかなって思ってる。
──で、今回アルバムとあわせて、「月の破片」という自伝的エッセイも出版されるわけですが、こうした本をこのタイミングで出そうと思ったのは何かきっかけが?
出せって言われて。じゃあ出したほうがいいのかなと思って。
──30歳の節目で何かまとめておこうという意識もありました?
いや、29でも30でも31でも変わんないですよ。
──鬼束さんのシリアスな面を好きな人がこの本を読んで、「あれ、こんなぶっ飛んだ人だったんだ?」って感じるかもしれない。
うん。いいんですよ、それで混乱すれば。
──雑誌「papyrus」では暴力事件の顛末も包み隠さず書いてありましたし。
あれはキャッチーですね。かなりキャッチー。死ぬかと思った。
──当時の新聞報道でたいへんな事件のように感じましたが、鬼束さん自身は意外なほどに落ち着いていたという。
もうなんかああいう運命なんですよ、私。なんか不運とかじゃなくて、ダイナミックなんです。
──確かに悲壮感というよりは……。
すべてにおいてダイナミック!
──落ち込んだり引きずったりみたいなことはあんまりないですか?
全然。ワー!って泣いて、すぐ忘れる。
──でも鬼束さんって世間からは誤解されがちなところがあるので、ご自身の思いをこの機会にちゃんと伝えておきたいというような気持ちもあったのでは?
私が知ってる人が誤解してなければそれで十分です。
──どう思われてもいい?
どうでもいい。だって私が曲を書いて、聴いた人が「いい曲だな」って思ってくれれば、それが音楽でしょ。私は元気に思われようと病気に思われようと、かまわない。そうなってきた。
──昔はそういう周りの声も多少は気になってました?
なってました。2ちゃんねるとか見て「わー怖いもうー!」とか言ってて。
──今はもう見ないんですか。
見ない。だって「この写真は汚い」とか書かれるんですよ、もう。
──精神衛生上良くないですね。
だからアルバムを作るごとにケータイ折ってます。バキッて。何十台も折った。折るためのものです、ケータイは。
──え、どうして折るんですか?
なんかもう、登録人数が14人とかになったらウワーッてなるんです。ザワザワしてくる。
──あんまりしがらみを持ちたくないとか、そういうことなんですかね。
いや、寂しがり屋だからそういう感じでもないんですけど。
──寂しがり屋はケータイ折らないですよ。連絡取れなくなりますし。
そうかな。走って会いに行けばいいじゃん。
作ろうと思えば演歌も作れるし
──ニューアルバム「剣と楓」は、バリエーション豊かな、振り幅の広い作品になりましたね。
そうですね。聴いた人によって好きな曲が分かれる感じになると思う。
──シリアスな鬼束さんもアッパーな鬼束さんもこの1枚に入っていて。
うん、幅は広いですよ。やっちゃダメって言われるからやらないけど、作ろうと思えば演歌も作れるし。それで今回は「Produced by Chihiro Onitsuka」になったことがすごいうれしいです。
──アレンジャーの方が3人いて、鬼束さんがプロデューサーとしてまとめていくっていう形ですね。
いちいち突っ込みますからね。「青い鳥」だったら「鳥の羽根の音入れて」とか「この三味線みたいな音消して」とかそういうの。これまでもそういう感じで作ってたんだけど、どんどん自分の中で極まってきた気はします。
──「剣と楓」というタイトルはどういう意味ですか?
「DOROTHY」のときから「『剣と楓』にしよう」って思ってたんですよね。字とか音とかが好きで。ふふふ(笑)。
──ジャケットもかなりインパクトありますけど。
なんか演歌歌手みたいでしょ(笑)。スタイリングもメイクも全部自分でやったんです。ニューヨークで撮ったんですけど。
──こう来るとは思わなかったです。すごい。
でも30歳って感じはしますよね。殴られたけど大人になったなっていう気がする(笑)。なんかこれ自体がお笑いなんですよ。
CD収録曲
- 青い鳥
- 夢かも知れない
- EVER AFTER
- IRIS
- 僕を忘れないで
- An Fhideag Airgid
- SUNNY ROSE
- NEW AGE STRANGER
- CANDY GIRL
- 罪の向こう 銀の幕
- WANNA BE A HAPPY WARRIOR
- 琥珀の雪
鬼束ちひろ(おにつかちひろ)
1980年生まれ、宮崎県出身の女性シンガーソングライター。2000年2月にシングル「シャイン」でデビューし、続く2ndシングル「月光」がテレビドラマ「TRICK」の主題歌に起用され大ヒットを記録。翌2001年リリースの1stアルバム「インソムニア」がミリオンセラーとなり、一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。以後順調にリリースを重ね、2004年にレーベルを移籍。同年10月にシングル「育つ雑草」をリリースするも、体調不良を理由にその後の活動がすべて白紙に。約2年半にわたる活動休止期間を経て、2007年に小林武史プロデュースのシングル「everyhome」とアルバム「LAS VEGAS」で復活。その後は不定期に活動を続け、2011年4月に6枚目のアルバム「剣と楓」をリリース。