音楽ナタリー Power Push - うたパス Presents あの人と音楽談
Vol. 9 ジョージ朝倉
©ジョージ朝倉 / 小学館
著名人に音楽について話を聞き、定額音楽配信サービス「うたパス」で30曲のプレイリストを制作してもらう本連載。最終回は「ピース オブ ケイク」「溺れるナイフ」などで知られるマンガ家・ジョージ朝倉に登場してもらい、ロックとの出会いや音楽が作品に与える影響について話を聞いた。
取材・文 / 小林千絵
小学生でロックに出会ってよかった ──ジョージ朝倉
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THE STREET SLIDERS。朝倉は小学5年生でこのバンドと出会い、ロックを聴き始めた。
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現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載中の「ダンス・ダンス・ダンスール」より。本作を執筆中にはグレン・グールドをよく聴いているそう。
小学5年生でロックを知る
朝倉のマンガが原作の10月公開の映画「溺れるナイフ」では主人公・望月夏芽の友人、大友勝利がバンドを組み、連載中の「ダンス・ダンス・ダンスール」では主人公の村尾潤平が、幼なじみの兵ちゃんにバンドに誘われる。
「なぜか『少年はバンドを組む』と思い込んでるんですよね」
そう笑う朝倉とバンドの出会いは小学5年生のとき。THE STREET SLIDERSの楽曲を聴いたときのことだった。
「友達のお姉ちゃんがHARRY(Vo, G)の髪型をしてライブに行っちゃうような素敵な中学生で。その妹である友達が『こんなカッコいい音楽があるんだよ』って教えてくれたんです。それまでの私はテレビで流れてるような歌謡曲を聴いてもいまいちピンと来なくて、『自分は音楽は好きじゃないんだ』と思ってたんですけど、スライダースを聴いたときに『わ、ロック、カッコいい!』ってハマっちゃいました」
それから彼女は、好きなバンドのルーツや似たようなバンドを辿ってどんどんロックにのめりこんでいく。近所にできた貸しレコード屋で店員にオススメを教えてもらうなど、掘り下げていく楽しさも覚えた。
「ロックと出会うまでの私は、意外とがんばり屋さんで、友達もいっぱいいたんですけど、ロックを聴き始めてからは、もう全部が面倒くさくなっちゃって。なんのためにいろんなことをがんばってるのかわからなくなっちゃった。がんばったところで私の中の充実度が上がるわけでもなく、それだったらロックを聴いて頭を振ってるほうが幸せだっていうことに気付いてしまって。本当にロックって不良の音楽だと思いました(笑)」
その後もロックを中心に音楽を聴き続けたという彼女。マンガや映画の魅力にも触れながら、19歳のとき、また彼女を虜にする音楽に出会う。
「THE STAR CLUBが好きで、中村達也さんがやってるバンドとして、BLANKEY JET CITYを知ったんです。初めはブッ飛んだ歌詞に驚いて『ある意味すごい!(笑)』という感じで聴いてたんですけど、だんだん好きになっちゃって。気付いたらものすごいファンになってました」
人物に命を宿らせる音楽
朝倉の作品には、登場人物がバンドを組む以外に、至るところに具体的なバンド名や曲名が出てくるのも印象的だ。
「人間って生きていくうえで、普通に音楽を聴いたり本を読んだり、映画を観たりするじゃないですか。それって、人物を描くうえですごく重要なことだと思うんですよね」
例えば現在連載中の「ダンス・ダンス・ダンスール」では村尾潤平と兵ちゃんが教室でRoyal Bloodの「Out Of The Black」を聴いているシーンがある。
「“こういう音楽が好きな男の子でいてほしい”と思って描きました。少年らしくて、新しいものが好きで、あの年でこれを聴いてカッコいいって思う感性でいてほしいんですよね。『溺れるナイフ』では大友がThe Rolling Stonesをコピーするんですけど、それはそういう基本的なロックをコピーする男の子であってほしいという思いからです」
朝倉はマンガを描くときには、キャラクターにきちんと命が宿るよう、イメージに合う音楽を聴きながら作業をするという。最後に彼女にマンガ家とミュージシャンの共通点を聞いた。
「世間知らずの無作法というところでしょうか(笑)。だって、ほかの方はわからないですけど、私は自分のマンガで夢を与えようとか思ってないですもん。伝えたいメッセージもない。だけど読んだ人に衝撃を与えられたら、とは思っています。子供の頃、お小遣いでマンガを買いに行ったら、家に着くまで待ちきれなくて帰り道で読み始めてた。自分のマンガもそうあってもらえたらうれしいですね」
ジョージ朝倉選曲
テーマ「マンガに出した曲 / 描いていたときに聴いていた記憶のある曲」
- Royal Blood「Out Of The Black」
- MICHAEL NYMAN「The Heart Asks Pleasure First」
- Sergei Prokofiev, Herbert von Karajan「Montagues and Capulets (excerpt)」
- Iggy Pop「Dog Food」
- Gene Vincent「Be-Bop-A-Lula」
- クレイジーケンバンド「GT」
- 越路吹雪「イカルスの星」
- Lou Reed「Metal Machine Music」
- The Rolling Stones「Paint it Black」
- 神聖かまってちゃん「夜空の虫とどこまでも」
- Motorhead「Ace Of Spades」
- Bob Dylan「Like A Rolling Stone」
- The Doors「Light My Fire」
- THE BLUE HEARTS「ラインを越えて」
- The Clash「London Calling」
- Mudhoney「Touch Me I'm Sick」
- MC5「Kick Out The Jams」
- さだまさし「防人の詩」
- Nirvana「Negative Creep (2009 Re-mastered Version)」
- Nirvana「School (Live at Pine Street Theatre)」
- Nirvana「Drain You」
- Nirvana「Smells Like Teen Spirit」
- Thee Headcoats「Girl From '62」
- The Mars Volta「Frances The Mute」
- The Stooges「NO FUN」
- THE GORIES「I think I've had it」
- NUMBER GIRL「鉄風鋭くなって」
- Queens Of The Stone Age「Another Love Song」
- Queens Of The Stone Age「No One Knows」
- Queens Of The Stone Age「Quick and to the Pointless」
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ジョージ朝倉 選曲
ジョージ朝倉が自身の作品に登場させた楽曲もしくは作品を描いているときに聴いていた曲を集めたプレイリスト。マンガを描くときには、人物に命が宿るよう、イメージした音楽を聴いているそう。
- バックナンバー
- Vol. 1
羽田圭介(小説家) - Vol. 2
土井善晴(料理研究家) - Vol. 3
棚橋弘至(プロレスラー) - Vol. 4
加藤諒(俳優) - Vol. 5
佐野ひなこ(女優) - Vol. 6
振分親方(元大相撲力士) - Vol. 7
LiLy(作家) - Vol. 8
栗城史多(登山家) - Vol. 9
ジョージ朝倉(マンガ家)
ジョージ朝倉(ジョージアサクラ)
1974年5月11日生まれ。ペンネームの由来は「科学忍者隊ガッチャマン」のコンドルのジョーの本名・ジョージ浅倉から。1995年別冊フレンド(講談社)にて「パンキー・ケーキ・ジャンキー」でデビュー。同誌を中心とした短編の発表を経て、2002年に自伝的作品「ハッピーエンド」(講談社)を描き下ろし単行本で刊行したことが転機となり、注目を集める。以降、少女漫画の枠にとどまらず、ファッション誌、青年誌等活躍の場を広げ、カリスマ的人気を誇る。華やかな絵柄で少年少女の衝動やリアルな心情を描き切る一方で、垣間見られるキレのあるコメディセンスも広く支持を集めている。2004年に「恋文日和」が映画化、翌年に第29回講談社漫画賞少女部門を受賞。2008年に「平凡ポンチ」(小学館)、2015年に「ピース オブ ケイク」(祥伝社)が映画化。さらに、2016年に「溺れるナイフ」(講談社)が映画化される。