音楽ナタリー Power Push - うたパス Presents あの人と音楽談
Vol. 7 LiLy
著名人に音楽について話を聞き、定額音楽配信サービス「うたパス」で30曲のプレイリストを作ってもらう本連載。7回目はテレビ朝日「フリースタイルダンジョン」に唯一の女性審査員として出演し、話題を集めている作家のLiLyに話を聞いた。
取材・文 / 石橋果奈 撮影 / 豊島望
私にとって音楽はタイムカプセル ──LiLy
-
ぼくのりりっくのぼうよみのデビューアルバム「hollow world」のジャケット。LiLyは連載の締め切り前、収録曲「sub/objective」を3日間エンドレスでリピート再生しながら原稿を執筆していた。
-
LiLyの書斎。彼女は左奥に置かれたParrot by Starckのスピーカーで1日中音楽を聴いている。
初恋と共に出会ったラップの世界
テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演し話題を集めているLiLy。彼女は2006年に恋愛エッセイ「おとこのつうしんぼ~平成の東京、20代の恋愛とセックス~」で作家デビューしたのち、自身の恋をつづったエッセイや女性のリアルをテーマにした小説を多数世に送り出してきた。
「私が物書きになったルーツは、小学生の頃に、音楽を聴きながら好きな人のことを考えて日記を書いているときに感じた幸福感です。初恋を経験してから、その時間が私の人生の中でもっとも好きな行為になったというか。日記を書いているときが一番自分と向き合えて、好きなんです。今考えると、だから恋愛エッセイでデビューしたんだろうなって思います」
そう振り返ったLiLyは、「幼稚園の頃から好きな人が途切れたことがない」と語る。
「私、すごくませた子供だったんです。幼稚園のときに好きな人がいたんですけど、当時5歳ながらに『でもこれはまだ恋とは呼べない』と思っていて。それで自分の中で『その人のことを思って涙が出たら初恋』って決めたんです。それからは『私の初恋はいつ、どこでやってくるんだろう』って常にアンテナを立てて過ごしていて。変な子でした(笑)」
そんなLiLyが初恋を自覚したのは小学4年生のとき。父親の転勤により10歳から12歳までをアメリカ・ニューヨークで過ごしていた彼女は、通っていた現地校でアルゼンチン出身の男の子と出会う。
「彼は無口でハンサムで音楽の知識がハンパない、すっごく素敵な男の子でした。ある放課後に彼がバイオリンのケースを手に、ヘッドフォンをしながら、廊下でスノーの『Informer』を口ずさんでいて。それが私のラップとの出会いだったんです。あまりのカッコよさに衝撃を受けて速攻CDを買いに行って、お父さんが運転する車の中で私も『Informer』を聴きながらラップを練習して(笑)。そのあと家で、サンタさんにもらったCHAGE and ASKAのアルバム『TREE』を聴きながら彼のことを思ったら、切なくて涙が出てきたんですよ。『これ初恋だ!』と思って鏡を見に行ったことをよく覚えてます。『私、どんなふうに泣いてるのか見なきゃ!』って。はい、変な子です(笑)」
“音楽鑑賞”ではなく“吸収”
ヒップホップを中心にさまざまな音楽を聴いているというLiLyだが、アルバム内の全曲を通して聴くことはほぼないという。気に入った1曲を何度もリピートしてそればかりを聴き続ける。
「『今月はこの1曲を聴いたな』と思うぐらい、好きな楽曲をリピート再生で何度も何度も聴くタイプです。私にとって音楽を聴く時間は“音楽鑑賞”より“吸収”という言葉が合うかな。そのときの自分とそのとき好きな音楽が切っても切れないぐらい聴き込むので、その曲が人生のサウンドトラックに入っていく感じです。実はこの聴き方、執筆にすごく役立っていて、過去にハマった曲を聴くだけで『この曲を聴いてこういう恋をしてこう感じた』という記憶が何万字も出てきます。音楽は本当にタイムカプセルだと思います」
そう語ったLiLyは、1日のほとんどを音楽を聴いて過ごすとのこと。それは小説やエッセイの執筆時も同様で、片時も音楽を手放さない。
「私、子供の頃から文章を書くときに無音だったことがまったくないです。執筆時はそのときどきのテーマ曲を決めて書くことが多いですね。その曲にハマればハマるほど、物語やエッセイにすごく入り込めるんですよ。例えば原稿に8時間かかったとしたら、基本的には8時間ずっと同じ曲を聴いています。先日の締め切り前は、3日間ぐらいほぼ寝ないで、ぼくのりりっくのぼうよみの『sub/objective』を聴いて書き続けていました。『また朝がきた』というリリックがとても染みましたね。主観から客観に飛ぶという歌詞の内容も、私と脳の構造がすごく似ていてシンパシーを感じます」
私生活でLiLyは2児の母。現在は「オトナミューズ」「Numero TOKYO」「NYLON JAPAN」など複数の雑誌連載を抱えながら、6歳の息子と4歳の娘の育児に奮闘中。音楽は、彼女にとって仕事と育児を両立させるための役割も果たしている。
「育児と仕事の両立という面では、音楽にすごく救われていますね。特に官能小説を書くとき。昔、独り身だった頃は夜中にどっぷりと音楽に浸って原稿を書いたり、なんなら恋人とムードを高めながら書くなんて最高なこともできてましたけど(笑)。今は保育園に子供を預けて、朝の9時頃から書かないと間に合わないんですよ……官能小説を! もう、修行ですよね(笑)。そこで最近はエイサップ・ロッキーの色っぽいラップを聴いて、ぐわっとマインドを切り替えて音に酔って書いています。ただ、音に酔いまくった状態で子供のお迎えに行くと変な空気を醸し出しちゃうので(笑)、お迎えに向かうときにヘッドフォンでJ-POPを聴いて自分を“地上波テンション”というか、お母さんモードに戻してますね」
LiLy選曲
テーマ「夏の終わりと秋の始まりのグラデーションに黄昏れるプレイリスト」
- スチャダラパー featuring 小沢健二「今夜はブギー・バック(smooth rap)」
- RADWIMPS「ふたりごと」
- pay money to my pain「Rain」
- NORIKIYO「夜に口笛 feat. 鋼田テフロン」
- m-flo + daoko「IRONY」
- ANARCHY「Love Song feat.AISHA」
- dvsn「Do It Well」
- ギャラント「Bourbon」
- Alina Baraz & Galimatias「Fantasy」
- R・ケリー「Get Up On A Room」
- シアラ「Promise」
- TLC「Baby-Baby-Baby」
- ジャネット・ジャクソン「Someone To Call My Lover」
- ワイクリフ・ジョン「Sweetest Girl」
- ビッグ・パニッシャー「I'm Not A Player」
- Destiny's Child「No, No, No Part 2(featuring Wyclef Jean)」
- KOHH「飛行機」
- Lisa Halim「Say good bye」
- Steady&Co.「Only Holy Story」
- ASIAN KUNG-FU GENERATION「海岸通り」
- ACO「悦びに咲く花」
- Zeebra「未来への鍵 feat. AKEEM DA MANAGOO (OSAWA'S REALIZED MIX feat. Bird)」
- Sugar Soul「今すぐ欲しい」
- UA「甘い運命」
- 加藤ミリヤ「わらの犬」
- Cocco「焼け野が原」
- bird「約束」
- Chara「breaking hearts」
- PUSHIM「That's my blues song」
- ぼくのりりっくのぼうよみ「sub/objective」
うたパス
最新のJ-POPからアニソン、カラオケ定番曲まで、多彩なチャンネルやプログラムから選んで音楽を楽しめるauのBGMサービス!
月額情報料:300円(税別) 初回登録で14日間無料!
- バックナンバー
- Vol. 1
羽田圭介(小説家) - Vol. 2
土井善晴(料理研究家) - Vol. 3
棚橋弘至(プロレスラー) - Vol. 4
加藤諒(俳優) - Vol. 5
佐野ひなこ(女優) - Vol. 6
振分親方(元大相撲力士) - Vol. 7
LiLy(作家) - Vol. 8
栗城史多(登山家) - Vol. 9
ジョージ朝倉(マンガ家)
LiLy(リリィ)
1981年、神奈川県生まれ。作家。10歳~12歳にアメリカ・ニューヨーク、16歳~18歳にアメリカ・フロリダで過ごす。上智大学在学中にヒップホップイベントのサイドMCとして活動するほか、J-WAVE「SOULTRAIN」のアシスタントMCを担当する。同時期に音楽専門誌やファッション誌でライターとして執筆を始め、大学卒業後の2006年に恋愛エッセイ「おとこのつうしんぼ~平成の東京、20代の恋愛とセックス~」で作家デビュー。小説やエッセイの執筆や、Crystal Kay、Sowelu、スポンテニアといったアーティストに歌詞の提供を行う。このほかテレビ朝日「フリースタイルダンジョン」には審査員として出演したり、フジテレビ系月9ドラマ「好きな人がいること」には脚本アドバイザーとして参加したりとその活動は多岐にわたる。私生活では2児の母。
2016年9月30日更新