音楽ナタリー Power Push - うたパス Presents あの人と音楽談
Vol. 2 土井善晴
話題の著名人に音楽についてインタビューし、定額音楽配信サービス「うたパス」で30曲のプレイリストを作ってもらう本連載。2回目はテレビ朝日ほか「おかずのクッキング」、NHK「きょうの料理」といった料理番組や、バラエティ番組への出演などでも食の魅力を伝えている料理研究家の土井善晴をゲストに迎えた。
取材・文 / 石橋果奈 撮影 / 上山陽介
大切にしているのは、家庭料理のように身近な音楽 ──土井善晴
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ポール・マッカートニー。土井は彼の優しい歌声に惹かれ、学生時代から現在まで彼の楽曲を聴き続けてる。
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土井が愛用するBoseのワイヤレススピーカー。料理をする際や、執筆業のお供に持ち運んで使用している。
ポールの声に励まされた青春時代
大学卒業後、国内外での修業や、料理学校での勤務などを経て1992年に料理研究家として独立した土井善晴。食のプロフェッショナルとして幅広く活躍する氏だが、実はポール・マッカートニーの大ファンという顔を持つ。「青春時代にいろんなことを慰めてもらったり、励まされたりしていたんです」と切り出した土井の“ポール愛”の根源をたどれば、彼が中学生だった1970年に遡る。The Beatlesが解散したこの年、「ビートルズ自体はかじっていた程度」だった土井は、ポールの優しい歌声に惹かれ、彼が70年に始動させたソロプロジェクトにのめり込んでいったそう。またポールは翌71年に妻のリンダ・マッカートニーやデニー・レイン(ex. The Moody Blues)らとともにロックバンド・Wingsを結成。土井少年はこれらの音源も聴きあさっていった。
「Wingsのジャンパーが高値で購入できず、黒いジャンパーに“McCartney”という赤い刺繍を施して着用していた」「留学先のスイスで、見知らぬ土地でもポールの声が聴こえてくることに安心感を感じた」など、ポールに関する印象深いエピソードを語ってくれた土井。しかし1980年に起きたとある事件が彼に大きなショックを与える。コンサートツアーのため来日したポールが、大麻取締法違反で逮捕され、日本公演が中止になってしまったのだ。このショックから土井は「しばらくポールの楽曲を聴くことができなくなってしまった」という。そこから10年という年月が経ち、90年に改めて彼の来日公演が実施されることに。念願のライブだったにも関わらず、土井は“ポール愛”が強すぎて自意識過剰になり、来日公演に足を運ぶことを躊躇。悩んだ末「ポールに見つからんように、自分の姿が見えない一番後ろの柱の陰からのぞいて観よう」と心に決めてコンサート会場へ向かったのだという。土井はそのコンサートについて「でもやっぱり、最初から最後までずっと歌ってしまったよ」と回想した。
何十年経っても変わらない存在
ここまでであふれんばかりの“ポール愛”を語ってくれた土井。彼は現在も日常的に音楽を楽しんでいるという。しかし音楽との接し方は当時のそれとは変わってきているとのこと。
「学生時代は時間があったから、たまたま聴いたアーティストがどんな人なのかっていうことをいちいち調べてレコードを買っていました。最近は次から次へと新しい音楽が出てくる時代だから、きっとこの世の中にある音楽のうち、おそらく半分も出会えないと思うよね。だけど、どんな音楽と出会ったかというのも縁というか。不思議と『きっと自分にとって必要なものに出会ってるんや』って思うんです」
多くの著書を上梓している彼は、執筆のお供にも音楽を手放さないのだそう。そして、選曲の基準は“優しい音楽”だというから土井らしい。「お料理っていうのは、家族とか、人と人との関わりの中にあるものだから。そういう気持ちに寄り添いたいと思ったときに、優しい音楽がぴったりなんですよね」“優しい音楽”は、土井の料理に対する思いとも通ずるところがあるそうだ。
「僕が提案している家庭料理って基本的にはおいしすぎる必要もないし、毎日食べても飽きないものなんですよね。空気みたいな存在というか。人は“いつもと同じ”ということに一番安心すると思うんですよ。だから料理も音楽も、何十年経っても変わらずに存在するものがすごく大事だと思ってますね」
土井善晴 選曲
テーマ「心が温まる、じわりとくる音楽」
- ギルバート・オサリバン「Alone Again」
- The Beatles「For No One」
- 平原綾香「誓い」
- マイケル・ジャクソン「Heal the World」
- 尾崎豊「I LOVE YOU」
- アリシア・キーズ「Doesn't Mean Anything」
- The Beatles「Martha My Dear」
- The Beatles「Mother Nature's Son」
- キャロル・キング「So Far Away」
- クリスティーナ・アギレラ「Beautiful」
- オルネラ・ヴァノーニ「L'Appuntamento」
- ポール・マッカートニー「The Back Seat Of My Car」
- ロッド・スチュワート「Some Guys Have All The Luck」
- V.A.「Stars」
- ソフィー・ミルマン「Back Home To Me」
- スーザン・ボイル「I Dreamed a Dream」
- Eagles「Hotel California」
- Paul McCartney & Wings「Medley: Hold Me Tight/Lazy Dynamite/Hands of Love/Power Cut」
- ポール・マッカートニー「My Valentine」
- 夏川りみ「イラヨイ月夜浜」
- 夏川りみ「涙そうそう」
- Cocco「強く儚い者たち」
- レディー・ガガ「Yoü And I」
- ビヨンセ「Hello」
- ジョス・ストーン「Tell Me 'Bout It」
- パトリシア・カース「Mademoiselle Chante Le Blues」
- シーア「Chandelier」
- America「Ventura Highway」
- ジョン・レノン「Jealous Guy」
- Crosby Stills Nash & Young「Our House」
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土井善晴(ドイヨシハル)
大阪府出身の料理研究家・フードプロデューサー。大学卒業後、スイスとフランスでフランス料理を、大阪「味吉兆」で日本料理を学ぶ。料理学校勤務後1992年に独立し、講演会やメディアへの出演、大学での指導、レストランプロデュースなど多方面に活動。家庭料理を通じて、日本伝統の生活文化を現代の暮らしに生かす術を提案している。2015年12月には、雑誌「おかずのクッキング」の連載をまとめたエッセイ「おいしいもののまわり」を発売した。
2016年9月30日更新