日本は幸せで平和な“自分たちの国”
──今現在、日本で主流とされているロックサウンドと、アメリカのロックサウンドの在り方、作り方には大きな乖離がありますよね。それはアメリカのロック市場が日本と比べものにならないくらいシビアな状況にあるからですけど。
それは本当にそう。
──という意味でも、「Eye of the Storm」のロックサウンドの作り方や音はアメリカ寄りですよね。
今回の制作には日本の人は入っていないですし。それこそ日本人って自分らぐらいだったんじゃないかな。日本って、僕から見ているとすごく平和な国だなって思ってしまうんです。音楽を作っていても。結局、日本のロックバンドは日本で生きていくうえで音楽を作る際、何をやっても正解になるんですよ。幸せで平和な自分たちの国なので。その方針、やり方で僕らもアメリカに出たんですけど、それはどうやっても結局、真似事にすぎなくなってしまうから。
──ええ。
僕らみたいなバンドは特にそうだと思いますけど、海外のバンドに影響を受けて自分たちの音楽をやっているバンド、少なくとも洋楽の影響を受けてバンド活動をしている人は多いですよね。でも、洋楽的なアプローチの仕方と、洋楽の影響を受けたうえで日本の音楽シーンに対してアプローチをするのはまったく別なんですよ。で、僕は前者の方をやらなきゃいけないって、アメリカに出て強く感じたので。
──“洋楽的な邦楽”じゃなくて、洋楽的なアプローチを突き詰めて本場でサバイブしていくという意味で、今作のTakaさんのボーカルの変化も象徴的かなって。
そうですね。
──ファルセットのバラエティ、音域の拡大が感じられる曲があったり、思いっきりエフェクトをかけているナンバーもあったりして。R&Bやヒップホップを当たり前に取り入れているアメリカのロックのサウンドだなと。
今回はプロデューサーが提案してくる内容がかなりえげつないことが多かったんですよ(笑)。例えば、ボーカロイドをあえて使うとかもそうですし。ボーカルにコンプをすごく強くかけたりとか。でも結果的に、そういう手法がアルバムとして聴いたときにいろんなカラーを生んでいて面白いなって。あと、地声で歌う際も、日本ではあまりやらない歌い方を意識しました。それが英語の発音で歌うってことなのかなとか。
──特に「Head High」では強くそれを感じました。この曲はジャスティン・ビーバーのブレーンでもあるプー・ベアのプロデュースで。
あれは衝撃の体験でしたね。あの曲は、ほぼあの人(プー・ベア)が書いたような曲なんですよ。あの曲は……もうレコーディングの仕方からしてびっくりしました。曲として歌わせてくれないんです。
──「曲として歌わせてもらえない」とはどういうことでしょう?
いきなり「アカペラで歌え」って言うんです。「1回歌うからついてきてね」って言われて。プロデューサーの彼がまずは「タラララー♪」って歌い出すんです(笑)。僕はそれに続いて歌うっていう。そうやって録った僕の声を後から改めて別録したオケにはめ込んでいくっていう……もう謎でしたね(笑)。でもなぜかちゃんとハマっているんですよ。聴いてみたらなかなかいいなって。
──でもそれって、バンドとしてはなかなか切ないレコーディング方法でもありますよね。
まあそこは仕方ないっていうか。あの人はR&Bのプロデューサーですから。ロックバンドなんてやったことないんじゃないかな。「ジャスティンもこうやってるんだよ」って言われて(笑)。斬新でした。もう一度やりたい。
台風の目であり続ける自覚
──先行配信された「Stand Out Fit In」には「はみだしてなじめ」というメッセージが込められていますよね。その意味とは?
「はみだしてなじむ」ってことは、まさにアメリカに行って感じた僕らの実感ですね。僕はそれを「差別」とは言いたくなくて、あくまでも「違い」と捉えているんですけど。アメリカってそういう問題についてすごく敏感で、敏感であるがゆえに作品として世の中に出るもの、歌なんかに関しても日本人の僕の目線からすると「違い」をネガティブに捉えたものが多い気がするんです。
──(笑)。
そういうことじゃなくて、個人としてそれぞれに才能があるっていうことが素晴らしいし、違いをバネにしてがんばることが大事なんだって言いたかった。これから東京オリンピックを控えて日本にもどんどん外国の方々が入ってくるわけで、アメリカに出て実際にそういう風景を見た僕らが発信していきたいと思ったんです。ミュージックビデオに日本語字幕を付けたのも、この曲のメッセージ性を大事にしたかったからなんです。
──アルバムタイトルの「Eye of the Storm」に込めた思いについて聞かせてください。「台風の目」という意味ですよね。
タイトルがずっと決まらなかったんです。締め切りもけっこう超えてしまいまして。
──それはとんでもなく難産な。
ここまでまったく出てこないとなると、何か考え出してもしっくりこないよねって。それでたまたま「Eye of the Storm」を1曲目にするって決めていたので、じゃあこれがタイトルでいいんじゃない?ってことになったんです。まあでもその根底には、自分たちがいつも台風の目であり続けてるっていう意識があるんじゃないかな。自分たちのいる場所は常に晴れ渡っているけれど、周りを嵐に巻き込んでいって、爪痕を残していくっていう……もちろん、台風ってあまりいいイメージじゃないですけどね。特に昨年は台風がすごく多かったし。でも、込めたのはそういう気持ちですね。
──「Ambitions」のあとにはドームツアーやオーケストラライブなど、エポックメイキングなライブが続きましたが、そこでの経験は本作に生かされていますか?
オーケストラライブに関してはファンに対しての感謝の気持ちでやったライブだったので、特に今作に影響を与えたってことはないかな。一度、オーケストラでやってみたかったんですよね。僕ら1年、2年に一度くらいのタイミングでお祭り的なライブをやっていたので、そういう意味で変わったライブがあってもいいんじゃないかなって。
──でも「Eye of the Storm」はまさにドームツアーを経験したバンドの音、スタジアムクラスのダイナミズムが宿っていますよね。
それはあるかもしれないです。
──日本ではドームを埋め、アメリカに行くとライブハウスで鍛えるっていうコントラストもなかなか経験できることではないですよね。
逆にそれは楽しいです。日本でこのままONE OK ROCKをやっていたら、きっともう小さいライブハウスでやることはないので。それを今こうして同時に味わいながらできるっていうのは楽しいです。ツアーはしんどくもありますけどね(笑)。でも、そういった2つの環境に身を置きたいっていう自分たちの思いを形にしてくれる人たちが周りにいるっていうのは幸せだと思います。ライブハウスに行くとやっぱり“現場”っていう感じがありますから。
──最後に、TakaさんはMCなどでよく「残された時間は多くない」とおっしゃっています。その残された時間でONE OK ROCKとして実現したい目標、見据える未来とは具体的にどのようなものでしょうか。
やっぱり、アメリカで日本と同じくらいアリーナツアーができたらうれしいなって思うし、そこにちゃんとアメリカのお客さんがチケットを買って観に来てほしい。それができるようになれば、このバンドで世界を目指した結果としては満足がいくのかな。
- ONE OK ROCK(ワンオクロック)
- 2005年にバンド結成。エモ、ロックを軸にしたサウンドとアグレッシブなライブパフォーマンスが若い世代に支持されてきた。2007年にデビューして以来、全国ライブハウスツアーや各地夏フェスを中心に積極的にライブを行う。これまでに日本武道館、野外スタジアム公演、大規模な全国アリーナツアーなどを成功させる。また日本のみならず海外レーベルとの契約をし、アルバム発売を経てアメリカ、ヨーロッパ、 アジアでのワールドツアーを成功させるなど世界基準のバンドになってきている。2017年1月にはアルバム「Ambitions」を全世界で同時リリースし、キャリア史上最大規模となるワールドツアーを行う。2018年には初の4大ドームツアーを開催したほか、オーケストラライブを東京と大阪で実施。2019年2月に2年ぶりとなるアルバム「Eye of the Storm」を発表した。