ナタリー PowerPush - ONE OK ROCK
渦巻く不安と強い確信 傑作「残響リファレンス」の裏側
今年2月に発表した「アンサイズニア」、7月に発表した「Re:make / NO SCARED」でその強靭なサウンドに磨きをかけ、ますます勢いを加速させているONE OK ROCK。彼らが2011年の大躍進の集大成となるニューアルバム「残響リファレンス」をついにリリースする。前作「Nicheシンドローム」を超える力強さ、壮大さ、多彩さを盛り込んだこのアルバムは、ONE OK ROCKのさらなる出世作となるだろう。
ところが本人たちに話を聞きに行くと、Taka(Vo)とToru(G)は「不安もある」との心情を漏らした。その不安の真意やバンドの根幹にある思いを、このインタビューから感じ取ってほしい。
取材・文 / 鳴田麻未
こんなに前作を意識してアルバムを作ったことはなかった
──素晴らしいアルバムが完成しましたね。このタイプの音楽やアーティストを好んで聴く人じゃなくてもきっとハマってしまうと思います。
Taka(Vo) うれしい!
Toru(G) うれしいです(笑)。
Taka でもみんなそうやって褒めてくれるんですけど、僕らはまだそんなに自信なくて。
──そうなんですか? 「すごいの作っちゃった!」と鼻高々になってもいいくらいなのに。
Taka いや、大丈夫かなって不安もあります。
──だって自分たちのやりたいことを詰め込んだ作品じゃないんですか?
Taka もちろんそうなんですけど、僕はボーカルとして最後にゴールを切る役なんで、個人的にすごく不安が大きいんですよね。
──それは、Takaさんの手で作品をより良くもできるし、ダメにもできるっていうプレッシャーですか。
Taka そうです。そのプレッシャーはアルバムを重ねるごとに増してますね。昔なんて1回パッと歌ってOKなんてこともあったのに、曲を世に出して、ライブでこんなに盛り上がってくれるんだって肌で感じると、次はもっといいもの作ろうという気になりますよね。それを何度も繰り返して……言ってみれば、アルバムを出せば出すほど守りに入ってしまうんですよ、人間だからどうしても。その気持ちと戦うのが正直辛かったです。ただこれは僕の個人的な不安で、3人はしっかりやり切ってると思います。
──ではバンドとして、今回のアルバムが完成するまでに苦難ってありました?
Taka ありました。まず、前作の「Nicheシンドローム」の存在がめちゃくちゃ大きかった。あのアルバムは、今と反対で作ってるときから自信に満ちあふれてて、実際初めて武道館でライブもできたし、僕らのターニングポイントになった作品で。だから今度は「Nicheシンドローム」を超えたいって気持ちもあったけど、かと言って全く別のものを作ろうとも思わなかったんです。今までこんなに前作を意識してアルバムを作ったことはなかった。
──そのように「Nicheシンドローム」を意識して作った結果、どうでした?
Taka なんか考えすぎて、すごく時間がかかりました。もちろん「Nicheシンドローム」から成長したところ、良くなったところ、気付けたところはたくさんあったんですけど、作品と向き合ってる時間が長すぎてもうよくわからなくなるぐらい。1年くらいずっとこのアルバムと一緒に生活をしてきて、正直考えることに疲れたんですよね(笑)。そのぐらい悩んで作ったので完成したものに悔いはないし、これ以上はない仕上がりになったと思います。
もうテンションだけではやっていきたくない
──このアルバムは前作からの進化も感じられる上、初期衝動的な部分もしっかり残っていて、かつ、もっとすごいところは商業的にも大成功しそうな作品になっているところだと思います。
Taka ポップっていうことですか?
──はい。ポップさとコアな部分のバランスは考えながら作られたんでしょうか。
Toru もちろん考えましたね。今回はこれまで以上に聴かせる曲や、テンポ遅めの曲も入ってるし、大きなステージでライブすることも想定していろんなお客さんに届きやすい音にしたところはあります。そのポップさと僕らの好きな激しい部分のバランスは、制作段階で常に話しながら作っていきました。このアルバムはそういうバランスが一番いい感じに取れたんじゃないかなと自分たちでも思います。
──そういう対極の面が共存しているのも、ONE OK ROCKの魅力の1つだと思います。
Taka うれしいです。でも、だからしんどいんですよね。
──というと?
Taka 自分の好きなアーティストが久々にアルバムを出して、聴いてみたら「あれ、変わった?」みたいなことってあるじゃないですか。そういう方向性の変化を、昔は僕らめちゃくちゃ嫌ってたんです。でも自分たちがこうして何枚もアルバム出す中で変化することの素晴らしさも知ったし、最初の衝動を伝えたいっていう気持ちもまだ残ってる。その格闘がしんどいなと。これからはもうテンションだけではやっていきたくないというか。
──今までの作品はテンション重視の部分も大きかったんですか?
Taka はい。これまでは僕らのことを見てくれてる、気にしてくれてる人がいるっていう意識があまりなかったんで。
──受け手のことを意識していなかった?
Taka そうです。でも去年武道館でライブをやって変わってきたんです。これだけの人が俺らのために集まってくれるんだ、俺らの曲を歌ってくれるんだ、って感じたら、自分たちの根底にある悔しさとか「この野郎!」っていう気持ちは減って、愛のほうにいったんですね。僕らはそれがないと絶対にダメなバンドだったのに。
──悔しさの部分が?
Taka はい。今回は悔しい気持ちを作品にぶつけて1人で悩む、苦しむっていう形に変えられた分、反骨精神の固まりではないですけどね。
CD収録曲
- Coda
- LOST AND FOUND
- アンサイズニア
- NO SCARED
- C.h.a.o.s.m.y.t.h.
- Mr.現代Speaker
- 世間知らずの宇宙飛行士
- Re:make
- Pierce
- Let's take it someday
- キミシダイ列車
ONE OK ROCK(わんおくろっく)
Taka(Vo)、Toru(G)、Ryota(B)、Tomoya(Dr)の4人からなるロックバンド。2005年に結成され、エモ、ロック、メタルの要素を取り入れた骨太なサウンド、激しく熱いライブパフォーマンスで若い世代を中心に支持を集める。2007年4月に1stシングル「内秘心書」を、同年11月に1stアルバム「ゼイタクビョウ」を発表。その後も次々と楽曲を発表し、リスナーを獲得していく。そして、2010年6月にアルバム「Nicheシンドローム」をリリース、11月には全国ツアーの一環で初の日本武道館公演を実施。1万1000人を動員し大成功を収めた。さらに2012年1月には、5thアルバム「残響リファレンス」を携えたツアーのファイナルとして横浜アリーナ2DAYS公演を行う。