鬼才クエンティン・タランティーノ監督の新作映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が8月30日にいよいよ日本で公開される。
レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという日本でも絶大な人気を誇るハリウッドの2大スターが初共演した「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は、1969年のアメリカ・ロサンゼルスを舞台に、終焉を迎えつつあったハリウッド黄金時代の最後の瞬間を描いた作品。チャールズ・マンソン率いるカルト集団マンソン・ファミリーによって殺害された女優シャロン・テートの事件が背景に取り扱われており、ラスト13分の衝撃的な展開と共にセンセーショナルな内容が反響を呼んでいる。また全編にわたって1969年当時の音楽が使用されており、音楽ファンも楽しめる要素が存分に詰め込まれている。
映画の公開を記念して、音楽ナタリーではKing Gnuの常田大希(Vo, G)と井口理(Vo, Key)に本作をひと足先に鑑賞してもらう企画を実施した。映画好きでもある2人が、タランティーノのハリウッドへの愛とノスタルジーが詰まった本作をどう観たのか。鑑賞直後に話を聞いた。
文 / 宇野維正 撮影 / 後藤壮太郎
美術も音楽もスタイリングもとにかくすべてが行き届いている
──今回はクエンティン・タランティーノの最新作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」について常田さんと井口さんに語っていただくという企画なのですが、お二人共ちょうどタランティーノが監督デビューした時期と重なる90年代前半生まれですよね。まずは、その世代がどのようにしてタランティーノ作品と出会ってきたのかということに興味があるのですが。
常田大希(G, Vo) 僕は「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994年公開)ですね。タランティーノが原案だということは後から知って、「ギルバート・グレイプ」(1993年公開)が好きで、そこに出ていたジュリエット・ルイスが目当てで観たんですよ。
──もちろん、リアルタイムではなく後追いですよね。
常田 はい。そこで初めてタランティーノの名前を知って。やっぱり、その後に観たタランティーノ作品とも通ずるものもあったし、最初からすごく強い印象を受けましたね。
井口理(Vo, Key) 僕は「キル・ビル vol.1」(2003年公開)が最初に観たタランティーノ作品でした。劇場で観たかはよく覚えてないんですけど、封切りからそんなに経ってなかったと思います。
──お二人それぞれ、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」をどう楽しみましたか? 2時間41分という、ちょっと長めの映画でしたが。
井口 え? そんなに長かったんですか?
常田 長さを全然感じなかったな。感情やシーンの途切らせ方というのが本当に独特で。音楽の使い方1つとっても、シーンの途中でもガンガン曲を変えていく。あれだけ展開や要素が多いとカオスな状態になりそうなのに、エンタテインメントとしてちゃんと成り立たせているところがすごいなと。「パルプ・フィクション」(1994年公開)なんて、時系列まで入れ替えたりしてるのにちゃんとついていける。そういうタランティーノっぽさっていうのは、今回の作品でも健在でしたね。
──映画における一般的な“編集”という点だけでなく、音楽やファッションも含めて、あらゆる点において作品内の“編集”力の高さが異常ですよね。
常田 本当にそうですよね。もうほとんどコラージュみたいな組み方なんですけど、テンポ感で観せちゃうという。ちょっとほかにはない感じですよね。
井口 テンポ感で言うと、カットの切り替えは早いですけど、特に役者の演技や表情をじっくりと見せるところはシーン全体ではけっこうたっぷり時間を取ってる。じっくり観せているのに決してダレない。あと、僕は普段、例えば是枝裕和監督の作品のようなリアリティのある作品をよく観るんですけど、タランティーノの作品は時代背景とか舞台設定とかのリアリティは緻密に作り上げている一方で、そこからの飛躍力がすごいですよね。特に今回のラストシーンは、そこまでずっとリアルな世界を作り込んでいるからこそ、あの裏切りというか、驚きの展開がすごく生きたんだろうなって。あとメインタイトルが出るタイミングも、メチャクチャ感動しました。
常田 美術も音楽もスタイリングもとにかくすべてが行き届いていて、そこに圧倒されますよね。あと、タランティーノ作品といえばバイオレンスシーンですけど、クライマックスは普通にアガりました。爽快感がすごかったです(笑)。
ウッドストックが与えるKing Gnuへの影響
──本作の舞台は1969年のロサンゼルスですが、1969年という時代から何をイメージしますか?
常田 「ウッドストック・フェスティバル」(1969年8月にアメリカ・ニューヨークで行われた音楽フェス)が好きなので、その時代の音楽にはこれまでたくさん接してきたし、特別な思い入れはありますね。作品の中でもたくさんこの時代のヒットソングが使われていますけど、そのサウンドや空気感ってやっぱり独特なんです。
──具体的にKing Gnuの音楽に与えている影響も大きいですか?
常田 この時代ってエレクトリックギターが主役というか、その全盛期ですよね。ファズで歪んだ荒々しいギターの音を聴くと、やっぱり1969年をイメージするし、King Gnuでもその空気感というのは自然と出てきたりしますね。この時代のサウンドって生々しいし、ある意味“雑”なんですよね。あの雑さは今となってはなかなか再現できないものだし、憧れでもありますね。
井口 自分の母親を見ていると、60年代を生き抜いてきた世代ならではのパワフルさを感じることがあるんですよね。
──日本だとベトナム戦争の反戦運動とかヒッピーカルチャーとか、その世代でも関係なく生きてきた方も多い思うんですけど、井口さんのお母さんはわりとどっぷりと?
井口 いや、詳しくは知らないですけど(笑)。でも、今の時代とは違う骨太な感じはありますね。
──そうか、King Gnuはタランティーノの子供世代とも言えるわけか……。
常田 でも、自分の中では60年代のザラついた感じのサウンドって、90年代のオルタナティブともつながっているんですよ。60年代にウッドストックがあって、90年代にグランジがあって、今の時代に、それらに影響を受けた音楽を自分たちがやっているというような。
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ディカプリオとブラピの関係=常田と僕の関係