欲求と現状のすり合わせ
──福島さんは、手応えを感じている曲を1曲挙げるとすればどれですか?
福島 全曲手応えはありますけど、1曲だけ選ぶなら「Blessing」かな。
藤井 「Blessing」、めっちゃいいよね。
冨田 個人的にはラップ調でビートが特徴的なAメロがどストライクです。キッチンで踊りながら聴いてます(笑)。
藤井 (笑)。曲を先に作ったんですけど、「ノリのいい曲だし、どんな歌詞が来るんだろう?」と思っていたんですよ。歌詞を受け取ったときは「このあっけらかんとしたメロディにこんな歌詞を乗せるんだ?」という意外性がありました。
福島 この歌詞は情けなさすぎるんですよ(笑)。ゴスペルのエッセンスがある曲なので「ゴスペルっていったい何を歌っているんだろう」と調べるところから始めたんですけど、最終的に「結局僕は無宗教だし、大切な人のことしか信じてないな」ということにたどり着いて。「たまに祈りたくなるときもあるけど、そのときに思い浮かべてるのは大切な人の顔だったりするよな」と思ったときに、「君じゃない 神様にだなんて」というフレーズがポンと出てきました。そこから組み立てていったら、1周回って背伸びしない歌詞になりました。
──「1周回って」ということは、今の自分だからこそ書けたという感覚があるんでしょうか?
福島 そうですね。初期の曲は韻を意識するあまりすごく固かったし、思いを伝えきれていない歌詞もあったんですけど、少しずつ伝えたい思いを込められるようになっていって。「Blessing」の歌詞は、これまでの積み重ねがあったからこそ書けたものだと思います。「俺より先に死なないで」なんてなかなか言えないけど、実際自分には「最期を看取るなんて悲しすぎるよ……」という気持ちがあるし、たとえ「この人、情けなくて嫌だな」と思われても純真でいたい。カッコよくなくても、“純真な気持ち”というものは、ちゃんと歌えば伝わると信じているんですよね。
──冨田さんはどの曲を選びますか?
冨田 マジで悩んだんですけど、強いて言うなら「One Day」ですかね。なぜ悩んだのかと言うと、レコーディングに関して「100%フルに出せた!」と思えたことがいまだにないからです。レコーディングって「もっとこうしたい」という自分の欲求と現状のレベルとのすり合わせなので、時間が経つと「もっとこうしたらよかったな」というポイントがやっぱり出てくるんですよ。そう考えると、自信を持って「これが俺だ!」と言える曲は1曲もないかもしれない。だからこそ「ライブでどう変えていこう?」と楽しめていたりするんですけど。
──なるほど。
冨田 そんな中でも「One Day」では、自分がやりたいドラミングとフレージングを入れることができたんです。たぶん、自分の刻みたいテンポ感と曲のテンポ感がいい具合に一致したんでしょうね。ただ、レコーディングではうまくいったけど、ライブでやるときにめちゃくちゃ苦労して(笑)。「ヤベー、全然グルーヴしねえ」ともどかしく感じた時期もあったんですけど、だんだん手応えをつかめるようになってきました。
ジャイアントキリングを期待したけど……
──「渦幕」「Blessing」以外の新曲についても聞かせてください。「トートロジー」はどのように作っていきましたか?
福島 この曲は詞が先ですね。寺山修司の「思い出さないでほしいのです。思い出されるためには忘れられなければならないのがいやなのです」という言葉から着想を得ました。
藤井 アルバムに向けてどんな曲を作ろうかと打ち合わせをしたときに、エモアキ(福島)が「ひさしぶりにループ系のトラックをやってみたい」と言っていたので、それならこの曲でやるのがよさそうだと思いました。1つのメロディに収まりきらないくらい、言葉数が多い歌詞なんですけど、ループもののトラックならまとまりが出るので、歌詞をうまく生かせたんじゃないかと思います。
──「あの映画の半券も あのライブのチケットも 捨てきれないよ あぁ 分け合ったのは 君とじゃないのに」という歌詞が素晴らしいなと思いました。このフレーズはどのように思いついたんですか?
福島 自分自身、ポケットから何か出てくることがよくあるんですよ。去年のコートを引っ張り出したらポケットからライターが5本出てきたり、1万円札が出てきて「ラッキー!」と思ったり(笑)。それで映画の半券を使った冒頭の表現を思いつきました。その表現が気に入ったので、そこから発展させようと歌詞を何回も読み返して。そこから「分け合ったのは物質じゃなくて記憶だよね」とか、「しかも、映画の半券を受け取る人と分け合っているわけじゃないんだよね」という発想が湧いてきました。
──「Ammonite」は最後に完成した曲という話でしたね。
福島 そうですね。実は、原型はけっこう前からありました。
藤井 2021年にバンドで曲作り合宿をしたんですよ。山梨まで行ったのになかなか曲ができず、夜に「できないねー」って言いながらお酒を飲んでいたんですけど、テレビをつけたらヴェルスパ大分というJFLのサッカーチームの試合が放送されていたんです。JFLということはJリーグの加盟を目指している、たぶん、プロの選手としてサッカーでごはんを食べている方がいないようなチームで。番組内で選手紹介のVTRが流れていたんですけど、その中に俺らと同い年の選手がいたんですね。そのとき僕らはメジャーデビュー目前ではありつつもバンドの名前がまだまだ広まっていない状態だったし、「合宿に来たのに曲ができない」というもどかしい状況も相まって、その同い年の選手にすごく感情移入しまして。3人全員が試合を観てすごく心を動かされたんです。
冨田 その選手、すごく上手だったんですよ。
福島 相手がJ1だったから、ジャイアントキリングを期待していたんですけど……。
冨田 いいところまでいくのに、毎回シュートを外しちゃうんです(笑)。その様子を観ながら「俺らもいいとこまで行って、毎回伸び悩んでるよね……」って、ついつい自分たちと重ね合わせちゃって。
福島 俺、負けたとき泣いたもんね。悔しくて。
藤井 「この試合を観たのは運命だから、この選手のことを思って何かやってみようぜ」と言いながら作った曲の原型が、最終的に「Ammonite」になりました。
冨田 だからすごいドラマがあるんですよね。
福島 最初に話したように「昔から考えれば、すごいところまで来たな」と思うことはあるけど、“次の夢”がどんどん出てくるから、僕らはまだまだ満たされていません。2番に「夢は 幾つ叶えば 満ちた心で生きれるだろう」という歌詞がありますが、まさにこういう気持ちですね。「渦幕」のあとに「Ammonite」の歌詞を書いたんですけど、そういえば渦もアンモナイトも螺旋なんですよね。モチーフが共通しているのは偶然で、あとから気付いたことなんですけど、生きていると「またこの景色かよ」と感じてしまうことが多々あります。でも、実は人生は螺旋状に形作られていて、一見自分が同じところをぐるぐる回っているように見えても、実はちょっとずつ上に上がっているんじゃないかなと。僕も落ち込むたびに「また一番下からやり直しか」と思うし、実際「渦幕」を書いていたるときは深海にいるような気持ちでした。だけどその次に「Ammonite」の歌詞に取りかかったときには、「いや、これまで積み上げてきたものがちゃんと続いているはずだ」とポジティブな心持ちで考えながら歌詞を書けました。
運任せじゃない自分たちでありたい
──夢といえば、Omoinotakeは当初から「ヒット曲を作りたい」「『NHK紅白歌合戦』に出続ける」という目標を掲げていますよね。
藤井 そうですね。今も変わらず「紅白歌合戦」に出続けることが目標で、「ヒット曲を作りたい」という意識を持ちながらずっと活動しています。今ヒット曲を出せているかと言うと「そんなことはない」という答えになるんですけど、だからと言って、ヒットすることだけを考えるのも違うなと。自分たちが思い描く“カッコいい曲”でヒットしたい。そのためには「今流行ってる曲なんて知らないぜ」「そんなの聴かないぜ」という姿勢でいるのではなく、古い音楽も、新しい音楽も、もちろん自分の好きなものもしっかり聴いたうえで、すべてを咀嚼して、自分たちがカッコいいと思える音楽を作り続けたいです。
福島 曲をヒットさせるにしても、運任せじゃダメなんです。もうひと回りも、ふた回りも上質になれるはず、という思いが自分たちの中にあって。
藤井 それに、「Omoinotake、最高だから売れるよ!」と言ってくれてる周りの人たちのことを信じ続けたいです。
冨田 そうだね。裏切りたくない人たちのことを引き続き大切にしつつ、あとは、自分たちのやりたいことももっと増えていくだろうから、それに合わせて制作スタイルが変わっていってもいいと思っています。
福島 結局は“Omoinotakeらしさ”を更新し続けていくことが一番の近道になるんじゃないかと。
藤井 周りの人たちの声を自信に変えて、目標に向かって突き進んでいきたいですね。
プロフィール
Omoinotake(オモイノタケ)
島根・松江市出身の藤井レオ(Vo, Key)、福島智朗(B, Cho)、冨田洋之進(Dr)の3人によって結成。2012年に活動を開始し、渋谷の路上をはじめ都内を中心にライブを行ってきた。2017年1月にはバンド初のフルアルバム「So far」、8月には1stミニアルバム「beside」を発表し、2021年11月にテレビアニメ「ブルーピリオド」のオープニングテーマ曲を収めたEP「EVERBLUE」でメジャーデビュー。2023年9月にはメジャー1stアルバム「Ammolite」をリリースした。