自分たちの意思を表明しないと、自分たちの場所がどんどんなくなる
──「楽しく暮らそう」を聴いて想起したのは、ピチカート・ファイヴが作品タイトルに引用した、吉田健一の「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」という言葉でした。思い出野郎のメッセージには、それに通じる、楽しい生活を送るために、美しい人生であるために、市井の人間の喜びを守るために、という非常にシンプルな思いが根源にあると思います。
高橋 俺が言ってるのは「憲法を守りましょう」ぐらい、非常に保守的なメッセージだと思うんですね。「人を殺しちゃいけない」っていうのは、法律で禁止されてるからじゃなくて、それ以前のものでしょ、って言うような。音楽を使って“それ以前のもの”を伝えてるだけなんです。そういうメッセージを自分たちが音楽で表現すると「楽しく暮らそう」になると思うんですよね。杉田水脈の「生産性」みたいな言葉が平然と流通する今の時代にあって、まずお互いの存在を許して、尊重しましょうっていう、“それ以前のもの”がこの曲のメッセージ。でもそれが、ないがしろにされてるから、「誰でもここにいていいだろう」っていうことを提示しなければいけないし、「お互いに尊重し合って、さらに助け合えれば最高だよね」ってことを言ったんですよね。
──日本では“深夜にクラブで踊る”行為が禁止されているという現状があります。それに対しても「無許可のパーティー」で疑問を投げかけていますね。
松下 僕は“DJサモハンキンポー”名義でDJ活動もやってるんですが、DJとしてもブースに立って、思い出野郎でもライブをしたことのあるクラブ青山蜂が摘発されたときに、めちゃくちゃ身近な事件なんだって感じたし、報道のされ方にもすごく悪意を感じて。それで改めて、ぼんやりしてる場合じゃない、ちゃんとおかしいと思うことにはアンチを掲げて、自分たちの意思を表明しないと、自分たちの場所がどんどんなくなるってことをひしひしと感じたんですよ。
──メッセージ性は強いんだけれども、どの曲も非常に心地よい、シンプルに“いい音楽”であることが、思い出野郎の楽曲の魅力だと思います。
高橋 そう思ってもらえると本当にありがたいです。言葉に言葉で返すと拒絶される場合が多いけど、音楽を通してメッセージを伝えれば、よりスムーズに届くと思うんですよね。そのためには“いい音楽”じゃないとダメだと思うし、楽しめつつメッセージを伝えられる構造を探ってます。
──サウンド面で言うと、今作は音圧が上がって、よりタフな音像になっていると感じました。
松下 2ndができたときは、きれいなサウンドに仕上がったなと思ったんだけど、あとあと聴き直したら、ちょっときれいに整いすぎたかなと感じる部分もあって。
高橋 それで今回は昔のソウルみたいに演奏が揺れたりする部分が欲しくて、あえてクリックを聴かないで録ったりして、演奏の勢いを生かしたサウンドを心がけたんです。
宮本 パンチインやエディットもしないで録ったんで、ライブ感がより出たと思います。
松下 そのためにプリプロはかなりしっかりやったよね。ゴールデンウィークの3日間、朝から晩までスタジオ入って、夜にはみんなで飲みに行くっていう生活をして。
高橋 そうしたら、さすがに3日目は話すことがなくなった(笑)。
宮本 8人もいるのに無言の時間がどんどん増えていって。
松下 3日3晩ずっと男だけでいたから、3日目の晩は、ちょっと女の子呼ぼうか、って(笑)。
高橋 それで、Y.I.Mのオミールに連絡したら来てくれなかった(笑)。その結果が今回のグルーヴ感に反映されていると思います(笑)。
普段生活してて「みんな、そんな怒らなくてもよくないですか?」って思う
──今回の作品は曲ごとの曲調の感触がまったく違いますね。そこには2ndからのカウンター的な部分も感じました。
高橋 キャラが立った5曲を選んだ感じですね。「楽しく暮らそう」は、シカゴソウル的な感触を大事にして。「去った!」は自分たちで“ジャッキー・ウィルソン歌謡”と言ってて、すでに元ネタを隠す気すらない(笑)。でも、ジャッキー・ウィルソンっぽい感じをそのままやるんじゃなくて、もしそれをThe Clashが演奏したら、という感じにしました。「無許可のパーティー」にも、The Clash的なテイストは入っています。
松下 ポストパンク的と言うか。
──2TONE RECORDSのバンドのような感触もありますね。
松下 ああ、プリプロの飲み会でも2TONEの曲をずっと聴いてたよね。
高橋 うん。
──だからなのか、2TONEの持ってた「アンチレイシズム」的なイズムと、この曲が放つポリティカルなメッセージがつながる印象を感じました。一方で「サマーカセット」は不思議な感触のある曲で。
高橋 自転車に乗りながら思い付いたメロディに対して、ああでもないこうでもない、ってみんなで構成していった曲なんですけど、結果一番ジャンルレスな感じになったと思います。
──そして作品は「僕らのソウルミュージック」で締められます。
高橋 この曲はベースの長岡(智顕)がまるっとコード進行を持ってきた曲なんですよね。「こんなにいい曲作れるの?」と思ったし、仮タイトルも「長岡のいい曲」でした(笑)。
宮本 しばらくそれだったよね。
松下 ベースなのにギターの斉藤よりギターがうまいし。
宮本 プレイヤーとして一番バンドを支えてるのが長岡です。
高橋 めっちゃお腹が弱いんですけどね。
松下 でも卓球で国体にいったんだよね。
高橋 お腹が弱くて、ガリガリで、卓球がうまい奴が、このバンドを支えてます(笑)。でも、メンバーによるゴスペル調の合唱はどうしようかって話になったよね。
宮本 ちょっと怖いかもしれない、って(笑)。
──メロディもメッセージもシンプルな強さがあるし、このメッセージが思い出野郎の根本なのかもとも思わされました。
高橋 やっぱり大事なのは聖書で言うところの “赦(ゆる)し”なのかなって。
松下 それ、ゴスペルに引っ張られてる気もするけど(笑)。
──でも思い出野郎の楽曲には、まさに“赦し”や“信頼”の感覚が通底していますよね。
高橋 もっと単純に、普段生活してて「みんな、そんな怒らなくてもよくないですか?」って思うんですよ。
松下 うん、それ常に思う。
高橋 源ちゃんの場合、怒られてるようなことしてても、そう思うんでしょ?
松下 そう。「なんで怒ってんだろう?」って。
宮本 反省ゼロ(笑)。
──では、今後の思い出野郎の動きはどうなるでしょうか?
高橋 今回の作品から山入端も戻ってきて、ようやく8人体制になったし、来年は結成10周年という節目の年なんですよね。
松下 それに向けていろいろイベントも企画してるんで、動きを楽しみにしててほしいです。
高橋 作品的にも、これまでの10年で培ってきたものをよりキャッチーに、ポップに表現できたらなと思ってます。
松下 そして売れたい!
高橋 もうポリティカルソングはやらない!(笑)
──セルアウトが急過ぎますよ。
高橋 結果売れなくなるパターンだな。
宮本 だからあれだね、これからも思い出野郎としてカッコいい曲を作るだけだよね。
松下 かー! カッコ付けてんな!
宮本 赦せよ! そこは見逃さないのか(笑)。
- 思い出野郎Aチーム「楽しく暮らそう」リリースワンマンツアー
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- 2018年11月4日(日)大阪府 246ライブハウスGABU
- 2018年11月9日(金) 東京都 東京キネマ倶楽部