音楽ナタリー Power Push - 奥華子
メジャーデビュー10周年で振り返る原点
今年7月27日でメジャーデビュー10周年を迎える奥華子が、ニューシングル「楔 ‐くさび‐」をリリースした。
シングルのタイトル曲はインディーズ時代に制作された奥華子の最重要失恋ソング。その切ない世界観が多くの人の共感を呼び、非公式でアップされていた動画サイトでの楽曲再生数は累計1500万回を超えるほどの人気となっていた。今回10周年を記念し、まさに待望のメジャー初音源化となる。またカップリングには、同様にインディーズ時代の人気曲であり、メジャーデビューのきっかけにもなった「花火」も収録。こちらもメジャーでは初音源化となっている。
シンガーソングライター奥華子にとっての原点とも言える2曲を収録した本作のリリースを記念し、音楽ナタリーでは3年ぶりのインタビューを実施。約2年前の活動休止を経て芽生えた気持ちの変化から、10周年への思い、そして大切な楽曲が生まれた背景について話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき インタビュー撮影 / 塚原孝顕
いい意味で「ま、いっか」と思えるように
──前回のインタビューは、メジャーデビュー7周年を記念した「奥華子BEST-My Letters-」リリース時でした。なので約3年ぶりのナタリー登場となります(参照:奥華子「奥華子BEST -My Letters-」インタビュー)。
え、そんな前ですか? そんなに経った感じがしないですね。
──あのとき、“休憩”という言葉を使って活動休止されることを予告されていましたよね。
そうでしたね。ベストを出して、「Last Letter」というツアーをやったあとは、約1年くらい休憩しました。ただ、その間にもラジオは続けていたから、休んでないっちゃ休んでないんですけどね。大げさに「ちょっと休みます」とか言ったわりには、しれっとすぐ活動を再開しましたし(笑)。
──意識的に歩みを止めたことで何かもたらされたものってありました?
先のスケジュールが何もない状態になったことで、「私、なんもやることないな」って思いました(笑)。歌うことを辞めちゃったら自分を示すものがないというか。自分にとって歌うことはやっぱり大事なんだなっていうことに改めて気付けましたね。あとはいい意味で「ま、いっか」って思えるようになった。
──何に対してそう思えるようになったんでしょう?
以前は、「どうしたらもっとたくさんの人に曲を届けることができるんだろう」ってすごく考えていたし、そのためには奥華子という枠以外のところにもどんどん挑戦しなくちゃいけないみたいな気持ちがあったんですよ。でもね、もうどう考えたって私は奥華子でしかないわけで(笑)。自分のできること、自分だから歌えることを歌おうって思えるようになったんです。がんばって自転車を漕いでもなかなか前に進まないような状況が続いてたけど、それでも「ま、いっか」って。それによって気持ちがすごく楽になったんですよね。
──それは決してあきらめではなく、活動に対しての迷いが払拭されたということなんでしょうね。周囲に惑わされることなく、自分自身を認め、信じられるようになった証というか。
そうそう。自分の“幸せ度”って、他人とは比べられないものじゃないですか。誰もが知ってる存在になれてはいないけど、今の自分を考えてみるとすごく幸せだなって思えたんです。私は自分のことをなかなか認められないタイプではあるんですけど、根本的には自分のことが大好きなんですよ(笑)。
──自分のことも、自分が作る曲も?
うん。だからこそそれがあんまり届いていないことへの絶望感を感じていたんだけど、目の前にいてくれるファンの子たちは少なくとも私と同じように曲たちを好きでいてくれて、私の味方でいてくれるわけですから。それこそが私が活動するための力なんだなって。そう思えたことで周囲に惑わされることがなくなったんです。その上で去年、「君と僕の道」というアルバムを作ってツアーを回ったところ、今までにないくらい楽しかったんですよ。
──味方であるファンとダイレクトに思いを交し合うことができた。
今までで一番長いツアーだったんですけど、本当に前向きな気持ちだけで全部回れたんです。みんなが私の歌を聴きに来てくれることの喜びを感じながら自由な気持ちで楽しむことができて。前はね、「弾き語りで間違えたらどうしよう」とか、「声が出なくなったらどうしよう」とかマイナス思考になって、声が出なくなるみたいなこともあったんですけど。今の状況や自分自身のことを認める方向に気持ちを持っていくことでこんなにも前向きになれるんだなっていうことにも気付けましたね。だからこそ、「10周年だね。どうしようか?」って考えられるようにもなりましたし。
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収録曲
- 楔 -くさび-
- 花火
- 楔(ピアノ弾き語り Live ver. at Zepp Tokyo 2013.1.19)
- 楔 -くさび-(Instrumental)
- 花火(Instrumental)
奥華子(オクハナコ)
“10万人が足を止めた魔法の声”と称されるシンガーソングライター。キーボード弾き語りによる駅前路上ライブを2004年に渋谷でスタートさせる。1年間に2万枚の自主制作CDを手売りするなどの驚異的な集客力が話題となり、2005年7月にシングル「やさしい花」でメジャーデビュー。2006年には劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌に「ガーネット」、挿入歌に「変わらないもの」が起用されスマッシュヒットとなる。2010年3月発売のシングル「初恋」は自身初のオリコンウィークリーチャート初登場10位を記録。2011年4月には東日本大震災を受け制作された新曲「君の笑顔」をデジタル配信。この楽曲の収益全額は被災者および被災地の復興支援、そして今後必要とされる活動のために寄付された。2012年10月には初のベストアルバム「奥華子BEST -My Letters-」をリリース。また2015年7月にはデビュー10周年を記録し、彼女のインディーズ時代の楽曲「楔 ‐くさび‐」を表題曲に据えたシングルを発表した。