ナタリー PowerPush - 奥華子
初ベストを通じて振り返る7年間の軌跡
メジャーデビューは不安のほうが大きかった
──では、ここからはメジャーデビューされてからの7年間をじっくり振り返っていただこうと思います。まずは2005年。デビューはやはり大きな出来事でしたか?
正直、メジャーデビューに乗り気で「やったー!」っていう気持ちではなく、不安のほうが大きかったんですよ。
──え、そうなんですか。それはなぜ?
私は1998年に初めてライブを経験して、2004年の2月から路上ライブを始めたんですね。で、路上ライブを始めるまでの6年間っていうのは、メジャーデビューをすごく目指してた期間だったんです。「有名になりたいな」とか「自分の歌が有線とかで流れたらいいな」とか、そういうことを強く思ってた。でも路上ライブを始めてみると、自分の歌を聴いて感動してくれる人が目の前にいてくれて、自分の活動もどんどん広がっていったんですよ。その喜びっていうのは、メジャーデビューを目指してた6年間では味わったことのない感覚だったので、私が目指すのはこれなんだなってそこですごく思ったんです。
──お客さんと近い距離で曲をちゃんと届けることができるのであれば、メジャーデビューをしなくてもいいんじゃないかと。
そう。デビューなんて別にしなくたって、今のままで十分じゃんって。私は路上ライブをずっとやっていければいいんだってすごく思ったんです。
──でもデビューすることを決めたわけですよね。
うん。やっぱり路上で続けていくうちにいろんな限界が見えることもあったし、そのスタイルのままで全国に曲を広めていこうよってポニーキャニオンの方が言ってくださったのでデビューすることにしたんです。もちろん期待はありましたけど、でもやっぱり最初は「もしかしたら路上ライブができなくなっちゃうんじゃないか」っていう不安のほうが大きくて。だから2005年頃は変わりたくないという思いがすごくありました。スタッフの方とぶつかることも多かったですし。「そういうやり方をしたらファンの人を裏切ることになる」とか「そんなのは奥華子じゃない」とか、路上ライブで手に入れた感動や喜びを守るためにかなりかたくなになってたところがあったのかもしれないですね。
──デビュー曲「やさしい花」にはどんな思い出がありますか?
誰かのために生きていくっていう普遍的なテーマを持った曲なんですけど、それはそのときの私の思いなんですよね。自分はこういう歌手になりたい、こういう歌を歌っていきたいっていうメッセージが詰まっているんです。だから今でもすごく大事な曲ですね。
「ガーネット」がなかったら今の奥華子はいない
──翌2006年はシングル4枚にアルバム1枚と、かなり精力的にリリースを重ねました。
2ndシングル「魔法の人」、3rdシングル「恋つぼみ」、1stアルバム「やさしい花の咲く場所」が1カ月ごとに出たんですよ。ちょっと先行き不安でしたよね。こんなにいっぱい出していいのかな、どうしようみたいな(笑)。
──あははは(笑)。その時点で曲のストックは結構あったんですか?
全然ないです。それは今もそうなんですけど、基本的にストックは常にないです。だから不安なんです(笑)。
──初ワンマンライブ、初ホールライブと、初めての経験も多かった年ですよね。
初ホールライブは九段会館でしたね。それまでは小さい会場でしかやったことがなかったので、緊張で足が震えてペダルが踏めない、みたいな感じでした。でもそのライブが私にとっての大きな一歩だったような気がします。自分1人でやっていたらずっと自分のペースでしか活動できていなかったと思うんですけど、メジャーに来たことで奥華子をどんどん引っ張ってもらえたんですよね。それはリリースもそうだし、ライブもそう。すごくありがたかったなって思います。
──2006年にリリースされた曲で言うと、劇場版「時をかける少女」主題歌として大きな話題を集めた「ガーネット」の存在は外せないですよね。
「ガーネット」がなかったら多分今の奥華子はいないっていうくらい、すっごい大きい曲ですね。今でも奥華子を知ったきっかけとして挙げてくれる人が本当に多いですし、路上ライブで歌うと人がたくさん集まってくれますし。奥華子の音楽を語る上でものすごく大切な存在である佐藤準さんというアレンジャーさんにやっていただいたことで、曲の世界観を作ってもらえました。
──今回のベスト盤には、そんな1stアルバムから「帰っておいで」「そんな風にしか言えないけど」の2曲が収録されています。
「そんな風にしか言えないけど」は正直、ファン投票ではそんなに上位ではなかったんですけど、「限りある時間の中 / どれだけ君を想えるだろう」っていうフレーズが自分の中ですごく好きなので今回入れさせてもらいました。シンプルなラブソングなんですけど、それもなんか奥華子っぽいかなと思うので。
CDを作ってからライブで歌うことに慣れなかった
──2007年には初めての弾き語りツアーを経験しています。
初めての全国ツアーでしたね。ほかにも大阪野音(大阪城野外音楽堂)でのライブもあったし、イベントライブもたくさんあったし、とにかくライブをやって、それと並行してCDも作るっていう。その流れは今もそうなんですけど。
──制作時期とライブをぱっきり分けないほうが奥さんには合ってるってことなんでしょうか?
どうなんでしょうね。とにかくそういうもんなんだと思ってやってます(笑)。ただ、2ndアルバム「TIME NOTE」を作るくらいまでは、ライブで歌って人気があった曲をCDにするっていう流れだったんですよ。でもそれがいつしか逆になって、CDを作ってからライブで歌うことが多くなったんです。そのことに最初は全然慣れなくって、レコーディングで歌えないときもあったんですよね。どんな曲なのか自分で理解できないまま歌うことができなくて。
──自分から生まれた曲を客観視する必要があったんでしょうね。
そうなんですよ。そうしないと曲が仕上がらないというか。誰にも聴いてもらってないから不安っていう部分もあったし。だから当時は「じゃ路上行こう!」と言って、新曲の反応を路上ライブで確かめてから録音したりっていうことをよくやってました(笑)。今はもう先にレコーディングする作り方に慣れたんで大丈夫なんですけど。
──この年にリリースされた作品からは、再録された「恋」と、「タイムカード」がベスト盤に収録されています。
「タイムカード」は昔、私が7年間バイトしてた寿司屋のタイムカードからできた曲なんです。当時の私は大学を卒業したけど就職はしていなかったので、「明日自分がいなくなったとしたら寿司屋のみんなは心配してくれるかもしれないけど、世の中的には何も変わらないんだな」って思ってたんですよね。自分の居場所が見えないというか。でも路上ライブを始めたことで、自分の歌を必要としてくれる人がいることを知って、やっと本当の居場所を見つけたと思えたんですよ。
──奥華子としての存在意義が路上で見えたと。
路上という場所が居場所ではなくて、ファンの人や自分の曲をいいねって言ってくれる人がいることへの自信、それが居場所なんだって思えたんです。そこに気付けた感謝の気持ちを込めて作って、九段会館でのライブで初めて歌いました。なので、これも本当に大事な曲なんです。路上ライブを始めてなかったらきっと寿司屋の店長になってたと思いますもん。相当チャキチャキ働いてたんで(笑)。
- ベストアルバム「奥華子BEST -My Letters-」 / 2012年10月17日発売 / ポニーキャニオン
- ベストアルバム「奥華子BEST -My Letters-」HANAKO BOX [CD3枚組+DVD2枚組+フォトブック+グッズ] 8750円 / PCCA-03693
- ベストアルバム「奥華子BEST -My Letters-」Special Edition [CD3枚組+DVD] 4900円 / PCCA-03692
- ベストアルバム「奥華子BEST -My Letters-」通常盤 [CD2枚組] 3300円 / PCCA-03691
DISC1 CD収録曲
- ガーネット
- 魔法の人
- 恋(2012 Arrange version)
- 最終電車
- 変わらないもの
- シンデレラ
- 秘密の宝物
- トランプ
- 夕立
- 透明傘
- あなたに好きと言われたい
- 一番星
- 僕の知らない君
- 最後の恋
- 初恋
DISC2 CD収録曲
- やさしい花
- しあわせの鏡
- Birthday
- 笑って笑って
- 帰っておいで
- 迷路
- 君の笑顔
- 二人記念日
- Happy days
- タイムカード
- 手紙
- そんな風にしか言えないけど
- 愛を見つけた場所
- 元気でいてね(2012 Acoustic version)
- 明日咲く花
HANAKO BOX / Special Edition
DISC3 CD収録曲
- 押し花
- 月光
- それぞれ
- つながる場所 -野音の歌-
- 小さな輝き -a song for Borneo-
- どさん子華子のうた
- 働くネコ
HANAKO BOX / Special Edition
DISC4 DVD収録内容
- 魔法の人
- ガーネット
- 小さな星
- 手紙
- 初恋
- シンデレラ
HANAKO BOX
DISC5 DVD収録内容
- 路上ライブ
- ギター弾き語り? 「私を振った男達日本北上 17連発!」
- 花火(60秒PV)
- My Letters(レコーディング風景)
- 裸眼でトーク!
「奥華子2013 LIVEツアー」決定!
弾き語りとバンドライブで1日2回公演!
<昼公演> 奥華子 弾き語り 2013 Last Letter
<夜公演> 奥華子 BAND LIVE TOUR 2013
- 2013年1月12日(土)大阪府 Zepp Namba OSAKA
- 2013年1月14日(月・祝)神奈川県 横浜BLITZ
- 2013年1月19日(土)東京都 Zepp Tokyo
- 2013年1月26日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2013年2月16日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2013年2月24日(日)愛知県 Zepp Nagoya
奥華子(おくはなこ)
“10万人が足を止めた魔法の声”と称されるシンガーソングライター。キーボード弾き語りによる駅前路上ライブを2004年に渋谷でスタートさせる。1年間に2万枚の自主制作CDを手売りするなどの驚異的な集客力が話題となり、2005年7月にシングル「やさしい花」でメジャーデビュー。2006年には劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌に「ガーネット」、挿入歌に「変わらないもの」が起用されスマッシュヒットとなる。2010年3月発売のシングル「初恋」は自身初のオリコンウィークリーチャート初登場10位を記録。2011年4月には東日本大震災を受け制作された新曲「君の笑顔」をデジタル配信。この楽曲の収益全額は被災者および被災地の復興支援、そして今後必要とされる活動のために寄付された。グランドピアノとキーボードのみで行う全国弾き語りツアーは2012年で5度目を迎え、自身最多の全国44公演を成功させた。これまでにシングル12枚アルバム6枚を発表。CMソングも多く手がけており、まっすぐに届く歌詞と歌声は老若男女、年齢を問わず幅広い世代からの支持を集めている。10月には初のベストアルバム「奥華子BEST -My Letters-」をリリース。