ナタリー PowerPush - 奥華子

一歩前進するための「good-bye」

弾き語りは自分と向き合うレコーディングになるので大変

──カラフルで振り切れたアレンジの楽曲が多い一方で、今回は奥華子さんのルーツでもある弾き語りという表情もより色濃く、しっかりと見えてもいますよね。

それは毎回やっていることだから、改めて何か新しいことをっていうのは特にないんですけど、やっぱり弾き語りは自分と向き合うレコーディングになるのでものすごく大変なんですよね。今回、「サヨナラは言わないまま」と「君にありがとう」はグランドピアノで一発録りしました。

──以前、キーボードで弾くことにこだわっているというお話をされていたと思うのですが、あえてグランドピアノにしたのは理由があったんですか?

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私の歌い方を考えると、キーボードのほうが伝わりやすいなっていう思いはやっぱりあります。歌に感情が強くこもった曲だと、そこに感情が強いグランドピアノの音が入ると過剰になりすぎてしまう場合もあるんですね。そうすると聴いている人が入り込みづらいというか。ただ、今回はアレンジがゴージャスな曲が多いし、テイクとしてもグランドピアノのものが良かったのでそっちを選んだ曲もあったっていうことなんです。一応キーボードでも録ってみたんですけど、聴き心地がやっぱり違っていたので。

被災者とのやり取りから生まれた「悲しみだけで生きないで」

──弾き語り曲で言うと、「悲しみだけで生きないで」は震災後の感情が一番強く投影されていますね。

これは昨年5月に避難所で出会った女の子とやり取りする中でできた曲なんです。「復興とかがんばれとか歌った応援歌がたくさんあるけど、実際はなかなかがんばりたくてもがんばれないんです。そう思っている人たちの心に寄り添うような曲を作ってくれませんか」っていうメールをもらったことから作り始めたんですよね。ただ、私自身は震災を直接経験したわけじゃないので、「あなたが今感じていることを教えてください」ってこちらからもメールして、その返事を受けて自分なりに曲にしていったんです。そこにもやっぱり、自分にできることがあるんであればやろうと思った気持ちが大きくありましたね。

──「生きる」ということの尊さがズシリと心に響いてきました。

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その子とのメールのやりとりがきっかけでできた曲ではあるんですけど、自分自身に対して歌っている曲でもあるんですよね。「被災地の方の悲しみや痛みを本当の意味で私は知ることができない。その人の代わりに生きることもできない。でもそんなこと言ってたら何も始まらないな」って思ったんです。だからこそ、みんな自分自身を一生懸命生きるしかないんじゃないかなって。で、それが結果、誰かのためになるかもしれない、誰かとつながることができるのかもしれない。そう思ったんですよね。

──そういう思いに至ったからこそ、今回のアルバムは奥華子としてのありのまま、そして新しい奥華子をも感じさせるものになったんでしょうね。余計なリミットが取っ払われた感じがしますから。

うんうん。そうですね。結果的にそういう曲たちになったし、そういうアルバムになったと思いますね。いろんなことにグッバイして、もう一歩先に進みたいっていう思いが出ちゃったんですよね(笑)。

グッバイしないと始められないんだな

──アルバムタイトルにはネガティブではない「good-bye」という気持ちが込められているんですね。

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13曲できたときにタイトルを決めたんですよ。なんとなく別れの曲が多いし、いろんなことにさよならの曲が多い。でも後ろ向きじゃないなって思ったんです。全部がそこから始まるなって。ってことは、グッバイしないと始められないんだなって自分で納得するところもあったんですよね。私自身もこのアルバムと、3月からのツアーで改めて自分がどうしていきたいかっていう方向をちゃんと定めたいなって思っている時期でもあるし。で、最後に「GOOD BYE!」っていう曲を作ったんです。

──まさにそういった気持ちが凝縮した1曲になってますね。サウンドもすごく楽しげですし。

ほんと「まさに」な1曲ですよね(笑)。

──3月5日からは奥華子さんにとって過去最長となる5回目の弾き語りツアーも始まります。

今回のアルバムを持って、というツアーではあるんですけど、5回目の全国ツアーということもあって集大成的な意味合いとして、オフィシャルサイト上で聴きたい曲のリクエストを募ってるんですよ。なので新曲だけではない盛りだくさんなツアーにしたいなって思ってます。

──これだけの本数回ることに関してはどうですか?

不安です。そして、お客さんもスタッフさんもいるけど、ステージ上では孤独です!(笑) でもライブができることは本当に幸せなので、そういう気持ちでがんばりたいと思います。

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CD収録曲
  1. ロスタイム
  2. 年上の彼
  3. 二人記念日
  4. シンデレラ
  5. サヨナラは言わないまま
  6. 春色の空
  7. 君の笑顔 (album ver.)
  8. TAKOYAKI
  9. 君にありがとう
  10. 愛してた
  11. 卒業の時 (弾き語り ver.)
  12. GOOD BYE!
  13. 悲しみだけで生きないで
  14. 足跡
奥華子(おくはなこ)

メガネがトレードマークの、キーボード弾き語りシンガーソングライター。2004年2月にスタートした駅前路上ライブで1年間に2万枚のCDを手売りするなどの驚異的な集客力が話題となり、2005年7月にシングル「やさしい花」でメジャーデビュー。2006年には劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌に「ガーネット」、挿入歌に「変わらないもの」が起用されスマッシュヒットとなる。2010年3月発売のシングル「初恋」は自身初のオリコンウィークリーチャート初登場10位を記録。CMソングも多く手がけており、その飾らない歌声は幅広い層からの支持を集めている。2011年4月には東日本大震災を受け制作された新曲「君の笑顔」をデジタル配信。この楽曲の収益全額は被災者および被災地の復興支援、そして今後必要とされる活動のために寄付された。2012年1月には1年半ぶりのシングル「シンデレラ」、2月には通算6枚目のオリジナルアルバム「good-bye」を立て続けにリリース。