ナタリー PowerPush - 奥華子
一歩前進するための「good-bye」
奥華子が通算6枚目となるニューアルバム「good-bye」をリリースした。昨年は東日本大震災という大きな出来事をきっかけに、全国各地でのフリーライブやチャリティアルバムのリリースを行った彼女。その経験は大きな心の転機へとつながり、新たな気持ちで制作に臨むことができたのだという。結果、これまでにないほどのカラフルさをまとった楽曲をたっぷりと詰め込みつつ、同時に彼女自身の本質をより浮き彫りとする作品に仕上がった。
デビュー以来のトレードマークであった赤メガネとカーゴパンツを封印し、ビジュアル的にも心機一転。黒メガネにガーリーなロングスカートという出で立ちの奥華子に話を訊いた。
取材・文 / もりひでゆき インタビュー撮影 / 中西求
初めて「自分の歌を広めたい」っていうことではない気持ちで歌った
──昨年の奥華子さんは、3月に起きた東日本大震災を受けて5月から全国各地で「スマイルライブ」と題したフリーライブを行っていました。さらに6月には「笑顔になれる」をテーマとする、既発曲に新曲を加えたコンセプトアルバム「君の笑顔 -smile selection-」をリリースしました。まずは、そんな2011年を振り返ってもらおうと思うのですが。
はい。昨年の3月12日と13日に前回のツアーファイナルが大阪であったんですね。で、その前日にあの震災が起こってしまったんですけど、予定どおりやらせてもらったんです。その後、本当だったらちょっと休んで制作期間に入る予定だったんですが、私はキーボードひとつでどこでも歌えるというフットワークの軽さがあるので、だったら知名度も大きな力もないけれど、できることとして支援金を募りながらのフリーライブをやろうと思ったんです。
──行動を起こすのがものすごく早かった印象がありました。
ツアーが終わって時間があったっていうのが大きな理由でもあるんですけど、もうひとつのきっかけは4月に被災地で歌う機会があったことなんですよ。「歌のニーズはありますか?」と訊いたらあるということだったので、石巻や南三陸の避難所で歌わせていただいて。そこで、私にも皆さんの笑顔のきっかけになることができるんだったら、それはぜひやりたいなと思ったんです。ちょっと言い方が難しいんですけど、初めて「奥華子を知ってほしい」「自分の歌を広めたい」っていうことではない気持ちで歌ったんですよね。
──ひとりの人間として駆り立てられるものがあったということなんでしょうね。
そうですね。東北では今までに何回もライブをやっているし、震災があった直後もmixiとかブログとかを通して被災地にいるファンの子からメッセージが届いたりもしたんですよ。そういう部分では、親戚がいるみたいな感覚だったというか。だからこそ自分に何かできることはないかなってすごく思ったんです。
「君の笑顔」の2コーラス以降は震災後に書いた
──「君の笑顔 -smile selection-」というアルバムをリリースされたのもそういう思いから?
はい。本当は昨年の6月にシングルとして「シンデレラ」(今年1月に改めてリリースされた)を出す予定だったんですけど、あんなに大きな悲しい出来事があったのに、何もなかったかのように計画が進んでいくことにどこか違和感があったんです。自信を持って「この曲を聴いてください」って今は言えないなって。で、そのときに「君の笑顔」っていう曲が1コーラス目だけできていたのでそれを完成させて、今までの曲と一緒にまとめてチャリティアルバムを作ろうと思ったんです。私がやりたいって言ったことをやらせてもらえたことにはすごく感謝していますね。環境的にすごく恵まれてたなって思います。
──チャリティ活動を行っている間に曲作りはしていたんですか?
ほとんどしてなかったですね。時間的にも難しかったし、気持ちの上でもできなかったというか。だから震災後、初めて作ったのが「君の笑顔」でした。
──では、あの曲の2コーラス以降には震災後の気持ちが詰め込まれたわけですね。
元々は誰かへの応援歌みたいな感じで作り始めた曲なんですけど、2コーラス以降は無我夢中で曲にしていったっていうことしか覚えてないんですよね。テレビから流れてくる、いろんなことに立ち向かっている人たちの姿を目の当たりにしたことで、そこから感じたものを書いていった感じで。
──湧き上がる感情がそのまま詰め込まれている印象ですもんね。
そうですね。1コーラスだけできていて、そことは全く違った気持ちで2コーラス以降を付け足していくっていう作り方自体、初めてだったんですよ。普段は結構作り込んでいくほうなので。本当に今までにない感じでしたね、この曲は。
CD収録曲
- ロスタイム
- 年上の彼
- 二人記念日
- シンデレラ
- サヨナラは言わないまま
- 春色の空
- 君の笑顔 (album ver.)
- TAKOYAKI
- 君にありがとう
- 愛してた
- 卒業の時 (弾き語り ver.)
- GOOD BYE!
- 悲しみだけで生きないで
- 足跡
奥華子(おくはなこ)
メガネがトレードマークの、キーボード弾き語りシンガーソングライター。2004年2月にスタートした駅前路上ライブで1年間に2万枚のCDを手売りするなどの驚異的な集客力が話題となり、2005年7月にシングル「やさしい花」でメジャーデビュー。2006年には劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌に「ガーネット」、挿入歌に「変わらないもの」が起用されスマッシュヒットとなる。2010年3月発売のシングル「初恋」は自身初のオリコンウィークリーチャート初登場10位を記録。CMソングも多く手がけており、その飾らない歌声は幅広い層からの支持を集めている。2011年4月には東日本大震災を受け制作された新曲「君の笑顔」をデジタル配信。この楽曲の収益全額は被災者および被災地の復興支援、そして今後必要とされる活動のために寄付された。2012年1月には1年半ぶりのシングル「シンデレラ」、2月には通算6枚目のオリジナルアルバム「good-bye」を立て続けにリリース。