奥田民生が自身のレーベル・ラーメンカレーミュージックレコード(RCMR)より、4年ぶりのアルバム「サボテンミュージアム」を発表した。ユニコーン、サンフジンズ、ソロとさまざまな形で音楽活動を精力的に展開している奥田。完成した待望の新作はバンドサウンドを前面に押し出したロックンロールアルバムに仕上がった。今回のインタビューでは「サボテンミュージアム」のこと、レコーディングのスタンス、五十代の目標などについて聞いた。
取材・文 / 大谷隆之(P1~3) 文 / 中野明子(P4) 撮影 / 平野太呂
ソロ=一番何も考えなくてすむプロジェクト
──4年ぶりのアルバム「サボテンミュージアム」、とってもよかったです。シンプルで、余計な装飾が何ひとつなく、しかも味わい深いロックンロールで。ふと気付けば繰り返し聴いている自分がいました。
おお、そうすか(笑)。ありがとうございます。
──2015年に立ち上げた自身のインディレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」からリリースする、初めてのソロアルバムですよね。前作「O.T.Come Home」(2013年リリース)では民生さんがすべての楽器を1人で演奏されてましたが、今作は自身のバンドであるMTR&Y(奥田民生、小原礼、湊雅史、斎藤有太)によるレコーディングで。
そうですね。ソロに関しては、その前の「OTRL」(2010年リリース)からずっと1人録音が続いていて。これはなかなかしんどかった(笑)。あと、今の4人でバンドを始めてからもうけっこう長くて。ツアーにも定期的に出て、僕的には今、いい感じなんですよね。その“いい感じ”の音を早く録っておいたほうがいいなと思いつつ、この何年か過ごしてたところだったので。順番的に考えても、今回はシンプルなバンドのアルバムがいいかなと。
──直近では2015年にも、MTR&Yでツアーに出ていますね。そうやって日々ライブで出しているサウンドを、そのまま作品にしたかったと?
はい。我ながら、なかなか独特なバンドだと思うので。特にベースとドラムのすごいところが録れればいいなと。
──どういうところが独特なんですか?
強いて言うなら、それぞれの音色ですかね。最近のサウンドって、CDにしてもライブにしても、ガーン!と前に出てくる、言わばわかりやすい音が多いんだけど、MTR&Yはもっと含みがあって、奥に深い音なんですよ。特にベースとドラムがね。もちろん、4人でバンドを始めた当初はうまく噛み合わなかった時期もあったんですけど。それがだんだんと各自の特徴をうまく生かした演奏ができるようになり、それを録音するノウハウや経験も重なってきて。それやこれやを踏まえて、今回のアルバムに至ったと。
──ここ数年、民生さんは「ひとり股旅」のような弾き語りからユニコーン、サンフジンズまで、いろんなプロジェクトを並行して進めてこられました。中でもMTR&Yは、ホームグラウンド的な存在だったりするんでしょうか?
うーん……もはや自分のホームグラウンドがどこなのか、わからなくなりつつあるんですけど。まあ、このソロのバンドについては協調性を重んじて何かを作ると言うよりは、各自の人柄ありきというか(笑)。そっち方向にどんどん持っていきたいとは考えていて。その意味では僕のやってることも自然だし、一番何も考えなくてすむプロジェクトだとは言えるかもしれませんね。
──2008年の「Fantastic OT9」もMTR&Yによるレコーディングでしたが、9年前と比べると何か違いはありました?
やってることは基本同じかな。ただ、すべてがよりシンプルになったとは思います。ギター、キーボード、ベース、ドラムの音がはっきり聞こえるように、曲の作りもなるべく簡単にしてますし。ダビングで音を重ねる作業も、今回はほとんどやっていません。逆に言うと、そういう最小限の要素で成り立つ曲を作って、それでもショボく聞こえない演奏をしなきゃいけなかった。テーマがあったとすれば、その心意気くらいじゃないですかね。
──心意気、なるほど。
バンドの音さえしっかり録れたら、今回はもうそれでOK。極端な話、歌詞なんかはどんな内容で、何を歌っててもいいんじゃないかと(笑)。そんなふうにはずっと思ってました。それで逆に、何を書けばいいのか迷ってしまうという、別の苦労はありましたけど。でもまあ、何度も言うように、ベースとドラムさえうまく録れれば万事うまくいくはずだと。
──民生さんの中では今回、それがとっても重要だったんですね。
うん。それがすごく重要でした。
スタジオに入る直前にペペッと書いた曲が多い
──レコーディングは2015年9月、2016年8月、2017年3月。ほぼ1年ごとに3回行われています。その間はマイペースで曲を書き溜めていたんですか?
いや、むしろ4人のスケジュールを合わせて、スタジオに入る直前にペペッと書いた曲が多かったと思います(笑)。今回、凝ったメロディやアレンジはさして重要ではなかったので。あえて、その場その場で書いていった感じもありますね。まあ、そうじゃない曲も、あるにはありますけど。
──全11曲が収録されていて、熟練の演奏はもちろん、サウンドの空気感とか奥行き感もとても印象的でした。マイク選びやセッティングなど、具体的なレコーディング過程で試行錯誤されたりは?
それもなかったです。もう長年やっていて、レコーディングも初めてじゃないですからね。もちろんエンジニアは毎回苦労していて、作業の途中で「ここはもうちょっと、こんな感じで……」というやり取りは当然ある。ただ、出た音を素直に録るという基本の方針は変わらないですし。もし今回のアルバムの音が違って聞こえるとしたら、それはやっぱり曲作りの部分が大きいと思う。
──それこそ“ペペッと書いた”ようなシンプルな曲のほうが、よりライブ演奏に近い感覚が出せたと。
うん、そうですね。その意味では今回、よりバンドの持ち味を出せる曲をそろえることができた。それによって自分の中にあった音のイメージに、より近付けたとは思いますね。
──収録時間が40分足らずと短いのも、すごく気持ちよかったです。たくさんレコーディングして削ぎ落としていったんですか?
いや、そこまでは計算してない(笑)。この尺にしたのは、要はアナログ盤を出したかったから。CD時代はいくらでも曲を入れられたけど、レコードの場合は曲が多すぎると、溝が狭くなって音質が落ちちゃうので。まあ、これくらいがちょうどいいかなと。1つひとつの曲をわざと短くしたわけではない。
──やっぱりアナログ盤で聴いたほうが、民生さんがイメージするバンドの音に近いんですか?
いやあ、そうとも限らないですね。アナログ盤の音は耳に優しくて、僕は個人的に好きだけど、じゃあCDの音が悪いかというと、決してそんなことはないし。懐かしさも多分にあると思う。そもそもレコードにカッティングした時点で、自分たちがスタジオで出していた音とはもう違ってますから。
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特別何か言いたいことがあるわけじゃない
- 奥田民生「サボテンミュージアム」
- 2017年9月6日発売 / ラーメンカレーミュージックレコード
-
[CD]
3240円 / RCMR-0007 -
[アナログ]
3780円 / RCMR-4002
- 収録曲
-
- MTRY
- いどみたいぜ
- サケとブルース
- エンジン
- ミュージアム
- 俺のギター
- 白から黒
- 歩くサボテン
- ゼンブレンタルジャーニー
- 明日はどっちかな
- ヘイ上位
- 「奥田民生になりたいボーイに贈るプレイリスト」
- 2017年9月13日発売 / Ki/oon Music
-
[CD]
2916円 / KSCL-2967
- 収録曲
-
- 息子
- 愛のために
- 674
- ハネムーン
- 海へと
- 近未来
- スカイウォーカー
- ギブミークッキー
- チューイチューイトレイン
- 花になる
- マシマロ
- The STANDARD
- 御免ライダー
- 月を超えろ
- CUSTOM
- MTRY TOUR 2018
-
- 2018年4月14日(土)埼玉県 三郷市文化会館 大ホール
- 2018年4月19日(木)千葉県 市川市文化会館 大ホール
- 2018年4月21日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2018年4月22日(日)福島県 いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
- 2018年4月28日(土)福岡県 福岡サンパレス
- 2018年4月29日(日・祝)宮崎県 都城市総合文化ホールMJ 大ホール
- 2018年5月11日(金)神奈川県 川崎市スポーツ・文化総合センター
- 2018年5月12日(土)神奈川県 川崎市スポーツ・文化総合センター
- 2018年5月19日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
- 2018年5月26日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2018年5月27日(日)岡山県 岡山市民会館
- 2018年6月2日(土)北海道 わくわくホリデーホール
- 2018年6月8日(金)東京都 中野サンプラザホール
- 2018年6月9日(土)東京都 中野サンプラザホール
- 2018年6月12日(火)大阪府 フェスティバルホール
- 2018年6月16日(土)滋賀県 滋賀県立文化産業交流会館 イベントホール
- 2018年6月17日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
- 2018年6月23日(土)長野県 長野市芸術館 メインホール
- 2018年6月24日(日)石川県 本多の森ホール
- 2018年6月30日(土)沖縄県 ミュージックタウン音市場
- 関連特集
- 奥田民生(オクダタミオ)
- 1965年広島生まれ。1987年にユニコーンでメジャーデビューする。1994年にシングル「愛のために」でソロ活動を本格的にスタートさせ、「イージュー★ライダー」「さすらい」などヒットを飛ばす。また井上陽水とコラボ作品を発表したり、PUFFYや木村カエラのプロデュースを手がけたりと幅広く活躍。弾き語りスタイルによるライブ「ひとり股旅」や、レコーディングライブ「ひとりカンタビレ」を行うなど活動形態も多岐にわたる。さらに世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらが参加するThe Verbs、岸田繁(くるり)と伊藤大地と共に結成したサンフジンズのメンバーとしても活躍している。2015年に50歳を迎え、レーベル・ラーメンカレーミュージックレコード(RCMR)を立ち上げた。2017年9月に約4年ぶりとなるオリジナルフルアルバム「サボテンミュージアム」を発表。
2017年9月13日更新