音楽ナタリー Power Push - 沖野俊太郎×小山田圭吾
「またバンドやろう」盟友2人の語らい
マイブラに勇気をもらった
──その後、小山田さんはCornelius、沖野さんはIndian Ropeと、それぞれソロユニットを始動し……現在も音楽を続けていると。そして沖野さんの15年ぶりのソロアルバム「F-A-R」がリリースされるわけですが、どのような経緯で制作することになったのですか?
沖野 曲はずっと作ってたし、単発でアニメの曲を作ったり、ちょいちょいヴィナぺの再結成とかもあったりしたけど、ちゃんとしたレコード会社と契約はない状態だったんだよね。そうすると締め切りがないし、家で作ってても終わりがないんだよね。自分のアルバムとしてまとめられなくて。アルバムを完成させて自主で出すか、どこかに持っていくしかないなって思ってたから。それをずっとやってたら15年経っちゃったって感じで(笑)。だから曲だけは何十曲とあった。そうこうしてたら、アルバム出せる機会をもらえたので、曲のストックから選んでアルバムとしてまとめようって。
小山田 このタイミングでまとめて録音したの?
沖野 いや、家で作ったものをベースに何曲かドラムやベースを差し替えた。で、何曲かはエンジニアさんにミックスしてもらって、そのほかは俺がミックスをしてます。
──アルバムの中で、軸になった曲はありますか。
沖野 「Welcome To My World」って、ちょっとシューゲイザーみたいな曲。My Bloody Valentineが2013年に22年ぶりに「m b v」ってアルバムを出したじゃない? みんな音が悪いとかいろいろ言ってたけど、俺はけっこう好きだったのね。ケヴィン(・シールズ)もさ、「m b v」作るまでにいろんな葛藤があったと思うんだよ。それで出したのが、そんなにコンセプチュアルじゃないものだけど、曲自体はすごくよくてさ。これだけ待たせて、ああいう形で出されたっていうのが俺には勇気になったんだよね。
──なるほど。
沖野 俺もずっとリリースが空いちゃって、やっぱりどこかでリスナーにがっかりされたくないっていう思いがあったのね。だけど、ずっと1人でやってたから何がいいのかわからなくなっちゃって。で、マイブラのアルバムを聴いて、「いろいろ考えてもしょうがない、とにかく出さなきゃとダメだ」って。それですぐ作った曲が「Welcome To My World」。それをSoundCloudに上げたら、反応がよくてうれしくなって。自分としても気に入った曲だから、そこから勢い付いて「やれるかな」って思えたんです。
沖野くんはいつも膝抱えて隅っこの方でがっかりしてた
──アルバムには、グルーヴィかつ明るいムードの「声はパワー [koe wa power]」、エレポップ感のある「We Are Stories」、ニューウェイブファンク的な「The Love Sick」などいろんなタイプの曲が入ってますよね。
沖野 そうだね。長い時間かけて作ったから、そのときどきの流行りの音を意識して作った曲もあったんだけど、そういうのは外して、わりと自分のルーツになったものがアルバムに残った。今回は作り終えても、「あそこをああすればよかった」っていう後悔があまりなくて。もちろん、細かいところではあるけど、自分の曲を表現できたという点では気持ち的にすっきりしてる。あと、Indian Ropeの頃は「誰もやってないことをやりたい」って気持ちがすごくあったけど、そういうのがなくなったんだよね。
──自分の持ってるもので、作りたいものを作るって感覚ですか?
沖野 そうだね。そこに落ち着いた感じ。長所を生かそうみたいな。
──歌詞も希望が感じられたり、前を向いてるような雰囲気が出てますね。
沖野 そうなんだよ。やっぱ俺すごい変わったのよ。変わったでしょ?
小山田 うーん、そうかな(笑)。
沖野 あんまり伝わってないか(笑)。まあ歌詞に関しては、アルバムが出せることになってから書いたものが多いから、前向きなんだと思う。ヴィナぺの頃は、俺の書く詞は喪失感が強いって言われたことがあるけど、当時は確かにそうだったんだよね。
小山田 ヴィナぺのときにさ、ライブがよくてめちゃめちゃ盛り上がってたから楽屋行って「ライブよかったよ」って言っても、沖野くんはいつも膝抱えて隅っこの方でがっかりしてたのを覚えてる(笑)。
沖野 なんかね、そういうところがあったんだよね。理想が高すぎたのかも。でも、今思えば、周りのせいにしちゃっててさ。大人になって、自分の力不足に気付いたの。あと、自分が音楽をやる上で、パートナーに恵まれないっていうのもずっとあったんだよね。「これだ!」っていうメンバーに出会ったことがなくてさ。小山田くんは恵まれている印象があったからうらやましかったけどね。
小山田 Corneliusはメンバーいないけどね(笑)。
沖野 いや、フリッパーズのときは小沢くんがいたし、Corneliusはエンジニアの美島(豊明)さんとか、よき理解者がいるじゃない。
小山田 まあね。
──とはいえ今作は沖野さんは1人で作ったわけではなく、PLECTRUMの高田泰介さんがサブプロデューサーで参加していますし、いい化学反応があったのでは?
沖野 そうだね。高田くんとの出会いは大きかった。アルバムのゲストミュージシャンも彼の人脈で選んでもらって、それが見事に当たったというか。自分の作品を任せられるくらいの、いい感覚があったんだよね。
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収録曲
- 声はパワー [koe wa power]
- The Light
- この夜にさよなら[kono yoru ni sayonara]
- We Are Stories
- The Love Sick (album edit)
- Swayed
- Summer Rain
- Welcome To My World
- CPU Song
- Daydream Of You
- Moon River No.1
- I'm Alright, Are You Okay
- When Tomorrow Ends
- Mood Two
アルバム「F-A-R」発売記念企画
11月11~26日の期間限定で、アルバム「F-A-R」の収録曲「この夜にさよなら[kono yoru ni sayonara]」の小山田圭吾リミックスバージョンが聴けるTwitterキャンペーンを実施中。
- 期間限定Twitterアカウント「@FAR_OKISHUN」をフォロー。
- 「@FAR_OKISHUN」のつぶやきをRTする。
- 後日、RTした方全員に、「@FAR_OKISHUN」から「この夜にさよなら[kono yoru ni sayonara]」のリミックスバージョンが聴ける試聴URLがTwitterのダイレクトメッセージで届きます。
沖野俊太郎(オキノシュンタロウ)
1967年東京生まれ。学生時代からバンド活動を始め、1988年に小山田圭吾とvelludoを結成する。レコードデビューを果たすも、沖野が渡米したためバンドは解散。その後ロンドンに滞在したのち、1990年にVenus Peterに加入しボーカル兼ギターとして活躍する。1994年にVenus Peterが解散したあとはソロに転向し、2000年よりソロユニットIndianRope名義での活動も展開。ほかのアーティストへの楽曲提供や、アニメのテーマ曲や挿入歌も手がける。2005年に1年限定でVenus Peterを再結成し、2006年9月にアルバム「Crystalized」を発表している。多角的な活動を行う中、2015年11月にソロとしては約15年ぶりとなるアルバム「F-A-R」をリリース。
- okinoshuntaro.com 沖野俊太郎オフィシャルサイト
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- Shuntaro Okino/沖野俊太郎(@okinoshuntaro) | Twitter
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- 沖野俊太郎の記事まとめ
Cornelius(コーネリアス)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のフリッパーズ・ギター解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンドThe Cornelius Groupを率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。2015年8月には、近年手がけた楽曲を自身のセレクトで厳選収録した編集盤「Constellations Of Music」をリリース。