音楽ナタリー Power Push - 京都岡崎音楽祭「OKAZAKI LOOPS」
ディレクター・高木正勝が見せるもの
コンサートアルバムが僕の主流
──最後に、最近の高木さんの制作スタンスについて教えてください。スタジオ録音の作品には取り組まれないんですか?
スタジオ録音アルバムですか? そうですね、今のところないですね。レコード会社と契約をして「何年以内に1枚」とか、僕にはそういうのもないですし……ねえ(笑)。
──あまり興味が湧かない?
外からいただくお話ということで、映画音楽やCM音楽は作っていますけど……この10年くらい、自発的に「作りたい」って思うものってコンサートになってしまっていて。コンサートを想定して、「こういう曲が必要だな」って作っていっているんです。でも世間的にはライブ盤みたいなものって、メインではないサブ的な扱いになっていますよね。確かにスタジオレコーディングの作品よりも録音のクオリティを保つのは難しくなるし、演奏の間違いもあるし……それも理解できるんですけど。
──“オリジナルアルバム”的な扱いにはなりませんよね。
けれど演奏している自分からしたら、むしろコンサートのほうがすごくいいテンションで、すごくいい集中力で、“我がなくなっていく”ような演奏ができているんです。スタジオレコーディングというのは、パズルや積み木みたいに部品部品で録音していくことが多いですし、完成形がわからないまま演奏していることもあるんですね。「さっきから繰り返しのフレーズを弾いているけれど、最終的にここに歌が乗る……のだろうか?」という感じで。それに比べたら、コンサートの録音のほうが全体があって、時間が流れていて、音楽だなあって思うんです。お客さんの存在も大きくて、ある場所のある時間がそのまま記録されているのが好きです。僕はいつもコンサートの録音をきちんとまとめられたときに「ようやく新しいのを出せるぞ」って気分になります。コンサートアルバムが、僕の主流なんです。
「ちゃんとしてるなあ」って思うだけ
──音を構築して音楽を作っていくことに興味が湧かなくなっているのでしょうか。
それはそれで面白いですし、日々やっていますけどね。例えば、今日はいい日だなあ、ピアノが弾きたいなあとなったときに妻にiPhoneでバーッと演奏を撮ってもらうことがあるんです。演奏はいっぱい間違うし、思い付いたばかりの曲を弾くから自分でも「グチャグチャだなあ」と思うんですけれど、いい瞬間が撮れたと本当に思っていて。
──高木さんはそれらの動画をYouTubeにアップしていますよね。
ええ。iPhoneで撮っているし、それをYouTubeに上げているので音のクオリティは低いですけれど、表現する、発表するという点ではもう満足。「ちゃんと録音できてないけれどこれがよかった。曲が“やって来た”瞬間が残せた」って自分の中で完結しているんです。「とりあえず、これは1つの最上の形やん」って。だから「いつでもYouTubeで聴けるから、これはこれでいいやん」って、僕は思っていまして……。
──演奏時のテンションはもちろん、画質や音質を含めてのあの雰囲気ですからね。
そうなんです。レコーディングし直してみたこともあったんですけど、やっぱり何か違ってくる。「ちゃんとしてるなあ」って思うだけっていうか……もっと時間が経って、新たな気持ちで演奏して録音できればいいんでしょうけれど、家で自分だけでやっていると中々そうはならないんですね。コンサートの最中は録音していることなんてまったく考えていませんから、舞台の上ではそれどころじゃないですね。そういうのもあって、コンサートの録音は、自分で聴いても無理がなくて自然でいいなと思えます。これは自分の録音だけじゃなくて、誰かの録音でも、コンサート録音だったり、演奏そのままというほうが僕は楽しいし感動します。
──そうなんですね。
なんというか、80、90歳のおばあちゃんたちと暮らしているからか、こういうのが当たり前の感覚になっていってるんですよ。すっごく整えてちゃんと録音したところで「どうなんだろう?」って。「本当にそれを残したいの?」と考えてしまう……それよりも、ある場所、ある時間をきちんと味わったり残したりというのに興味が向いてしまうんです。
──お話を聞いていると、「OKAZAKI LOOPS」で演奏される「大山咲み」が高木さんの最新作ということになりそうです。
“今生まれている”と感じられるものになるといいですね。みんなで思いっきりやり切ります。僕たちの「大山咲み」をはじめ、「OKAZAKI LOOPS」で行われる演目の1つひとつ、どれも岡崎でしか体験できない素晴らしいものになると思います。ぜひ、お越しください。
次のページ » 京都岡崎音楽祭「OKAZAKI LOOPS」主なプログラム
2016年9月3日(土)・4日(日)
京都・岡崎エリアの各施設(ロームシアター京都 / 平安神宮 / みやこめっせ / 岡崎公園 / 京都国立近代美術館 / 京都市美術館)で開催。
OKAZAKI LOOPS前夜祭 SYMPHONIC EVOLUTION SPECIAL YEN TOWN BAND ORCHESTRA
2016年9月2日(金)京都府 ロームシアター京都 メインホール
DISC 1(CD)
- いのり
- あまみず
- 風花
- Nijiko
- サーエ ~ サルキウシナイ ~ かぜこぎ
- aqua
- おおはる
- うるて
- 充たされた子ども
- 夏空の少年たち
- きときと – 四本足の踊り
- I am Water
- やわらかいまなざし
- 紡ぎ風
- 風は飛んだ
DISC 2(CD)
- うたがき
- マクナレラ ~ ヤイサマ
- 山咲き唄
- かみしゃま
- おやま
- Girls
- Rama
- Wave of Light – 音頭
- Grace ~ あげは
- 風花 ~ カピウ・ウポポ
DISC 3(DVD)
- いのり
- あまみず
- 風花
- Nijiko
- サーエ ~ サルキウシナイ ~ かぜこぎ
- aqua
- おおはる
- うるて
- 充たされた子ども
- 夏空の少年たち
- きときと – 四本足の踊り
- I am Water
- やわらかいまなざし
- 紡ぎ風
- 風は飛んだ
- うたがき
- マクナレラ ~ ヤイサマ
- 山咲き唄
- かみしゃま
- おやま
- Girls
- Rama
- Wave of Light – 音頭
- Grace ~ あげは
- 風花 ~ カピウ・ウポポ
高木正勝(タカギマサカツ)
1979年生まれ、京都府出身の音楽家、映像作家。2001年にCDとCD-ROMからなる1stアルバム「pia」をCarpark Recordsよりリリースしてデビュー。翌2002年には細野晴臣のレーベルdaisyworld discsよりアルバム「JOURNAL FOR PEOPLE」を発表し、ピアノと電子音を融合させたサウンドで注目を集めた。以降、コンスタントにオリジナル音源を発表しながら、CM音楽や映画音楽の制作、個展の開催などを行っている。代表作はデヴィッド・シルヴィアンとのコラボ曲を収録した2004年の「COIEDA」や、さまざまなミュージシャンが参加した2007年ライブアルバム「Private / Public」など。映画音楽としては、細田守監督作品「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」などのサウンドトラックを担当。現在は長年拠点としてきた京都を離れ、兵庫県の山村で創作活動を行っている。