音楽ナタリー Power Push - 京都岡崎音楽祭「OKAZAKI LOOPS」
ディレクター・高木正勝が見せるもの
「大山咲み」に思いを凝縮
──そういう思いがあったんですね。
ただ、「OKAZAKI LOOPS」自体は関わる人がとても多いので、全体のテーマや出演者のセレクトなど、自分の思いだけを押し通すのは違うと思いました。でも、やはり僕なりに「新しくフェスティバルを開くならこういうテーマで臨みたい」というのがあって、「こういうことをやりたかった」「こういう人を呼びたかった」っていう気持ちを「大山咲み」に込めようと切り替えたんですね。ほかのディレクターの作品は当日にならないと観れないので、どういうことをやられるのかは分かっていないのですが、おそらく僕と同じく、ディレクターとして考えられてきたことをご自身の演目に詰めていかれるのだと思っています。
──高木さんは「山咲み」というコンサートを続けていて、9月9日にそのライブDVDとCDをセットでリリースします。
そうですね、昨年2015年秋のコンサートを記録したアルバムになります。
──「OKAZAKI LOOPS」ではその「山咲み」を「大山咲み」として披露するわけですが、どんな違いがあるんですか?
「大山咲み」では、「OKAZAKI LOOPS」に呼びたかったけれど叶わなかった人たちを呼べるだけ呼んで、出演していただこうと。「山咲み」のもともとのメンバーと一緒に演奏してもらったり、もしくは演奏の合間にぽっかりと特別な時間を空けて、その中で普段されていることをそのままやってもらったり。そういうことを考えています。「山咲み」は自分を含めて8人で演奏していたんですけど、京都では総勢20名近くが舞台に上がる予定です。踊り手に舞ってもらったり、鼓童という佐渡島の太鼓集団から前田剛史さんに来ていただいたり、パーカッショニストの土取さん、アイヌ民謡の唄い手の郷右近富貴子さんにも新たに加わっていただきます。東野健一さんっていう、インドの紙芝居をやられている方にも……。
──インドの紙芝居ですか。
そう。巻物に絵が描かれていて、それをちょっとずつ手繰りながらパフォーマンスしていくんですけど、声と身体を使った面白くて温かい紙芝居で。大道芸のようなパフォーマンスなんです。東野さんは余命宣告を受けておられて、宣告された余命の期間がもう過ぎてしまっていて……だから、その日元気でおられるならぜひご一緒させてくださいと。
──どのように「山咲み」の世界観に融合させていくのか気になります。
僕もまだどうなるのか想像できていないんです。ただ「山咲み」ってやんわりと起承転結があって、映画のような舞台になっていますから、その流れの中でしっくり合いそうな場面で出てきてもらうような形になるのかな。
自分の曲だと思って演奏してほしい
──そもそも「山咲み」は、ミュージシャンにとって自由度の高い演目なのですか?
そうですね。自由度は高いと思います。これまで4公演やっていますが、3公演目からは僕が演奏家に注意されるくらいになってきて。「高木さん、そんなオシャレなコードは合わないんじゃないですか」とか(笑)。アイヌの歌い手の床絵美さんなんかはですね、みんなで一緒に舞台で演奏していたんですけれど「あれ? 次、出番のはずなんだけど舞台から去って行った……おお、どうにかするか……」って(笑)。そういうふうに好き勝手にみんなが考えて演奏するようになったので、こっちが「ここはこうやってください」っていうのがどんどんなくなってきました。
──自由すぎるような気がしますが(笑)。でも「山咲み」が持つ多様性というか、あの独特な雰囲気はそれくらいじゃなければ出ないかもしれません。
僕もいろいろとほかのアーティストの舞台や作品に演奏で参加させてもらったことがあるんですけど、やっぱりそのアーティストのやりたいこと……「どういうことをしたいのか」っていうことを、当たり前ですけれど、けっこう気にしなきゃいけないんですね。自分なりに解釈していいわけじゃないことも多くて。
──完全に譜面通りの形を求めるアーティストはいるでしょうね。
だから、「自分が演奏者だったら、どう頼まれたらうれしいかな?」と考えてお願いするように努めてます。僕、「ドレミ」を「ミファソ」と弾かれようが「ソドミ」と弾こうが本人がよいと感じるならそれでいいと思っているところがあって。みんなに自分の曲だと思ってやってほしいんですね。最初のお題は出しますけれど、舞台での演奏は自由にやってほしくて、その中でそれぞれが発見したものをそれぞれ持ち帰るくらいが祭りみたいでいいなと。普段それぞれがやっていることを「山咲み」にそのまま持って来てほしいというのが、一番の思いなんです。たまたま集まった演奏家が、それぞれよいと思う音を出して、その結果「合っているな、1つの大きな塊を生み出せているな」ときちんと思い合えるのが一番です。もちろんあまり好き勝手になると崩壊することもありますが、それをなんとか立て直そうとするのも面白いんですよ。
──崩壊することもあるんですね。
ありますあります。あとはそれぞれ演奏する人のその日の気分とか、家庭の事情とか、人生がすべて反映されます(笑)。楽しかったとか悲しかったとか、そういうものがストレートに出てきます。だから当日集まってみないとわからない。笑顔でみんなが来てくれる日なのか、何かに怒っている日なのか。
──怒っていたら怒っていたなりの演奏になっていって。
そうですね。人生、いつでもなんでも1度きりですから。
──そういう偶然性を楽しめるのも、自由度が高いからこそなのかもしれません。
あと演奏って、「間違ったあとに何をするか」っていうのが面白いんですよね。例えば楽譜通りに弾き切るっていうのもスリリングなことなんですけれど、楽譜に書いていないことをその場の思い付きでやるのが「山咲み」の基本になっていて、だから演奏するたびに少しずつ変わってくるんですね。そうすると、何が正しくて間違いなのか誰もわからなくなっていきそうなんですけれど、逆に大正解みたいなのが、ぼんやり見えてきたりもするんです。そこに向かっていくときに、誰かがつまずいたり、「この人が調子に乗ってくれさえすればうまくいく」みたいな気配を感じると、ほかのみんなは一生懸命なんとかしようとする。僕はそこからが好きなんです。
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2016年9月3日(土)・4日(日)
京都・岡崎エリアの各施設(ロームシアター京都 / 平安神宮 / みやこめっせ / 岡崎公園 / 京都国立近代美術館 / 京都市美術館)で開催。
OKAZAKI LOOPS前夜祭 SYMPHONIC EVOLUTION SPECIAL YEN TOWN BAND ORCHESTRA
2016年9月2日(金)京都府 ロームシアター京都 メインホール
DISC 1(CD)
- いのり
- あまみず
- 風花
- Nijiko
- サーエ ~ サルキウシナイ ~ かぜこぎ
- aqua
- おおはる
- うるて
- 充たされた子ども
- 夏空の少年たち
- きときと – 四本足の踊り
- I am Water
- やわらかいまなざし
- 紡ぎ風
- 風は飛んだ
DISC 2(CD)
- うたがき
- マクナレラ ~ ヤイサマ
- 山咲き唄
- かみしゃま
- おやま
- Girls
- Rama
- Wave of Light – 音頭
- Grace ~ あげは
- 風花 ~ カピウ・ウポポ
DISC 3(DVD)
- いのり
- あまみず
- 風花
- Nijiko
- サーエ ~ サルキウシナイ ~ かぜこぎ
- aqua
- おおはる
- うるて
- 充たされた子ども
- 夏空の少年たち
- きときと – 四本足の踊り
- I am Water
- やわらかいまなざし
- 紡ぎ風
- 風は飛んだ
- うたがき
- マクナレラ ~ ヤイサマ
- 山咲き唄
- かみしゃま
- おやま
- Girls
- Rama
- Wave of Light – 音頭
- Grace ~ あげは
- 風花 ~ カピウ・ウポポ
高木正勝(タカギマサカツ)
1979年生まれ、京都府出身の音楽家、映像作家。2001年にCDとCD-ROMからなる1stアルバム「pia」をCarpark Recordsよりリリースしてデビュー。翌2002年には細野晴臣のレーベルdaisyworld discsよりアルバム「JOURNAL FOR PEOPLE」を発表し、ピアノと電子音を融合させたサウンドで注目を集めた。以降、コンスタントにオリジナル音源を発表しながら、CM音楽や映画音楽の制作、個展の開催などを行っている。代表作はデヴィッド・シルヴィアンとのコラボ曲を収録した2004年の「COIEDA」や、さまざまなミュージシャンが参加した2007年ライブアルバム「Private / Public」など。映画音楽としては、細田守監督作品「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」などのサウンドトラックを担当。現在は長年拠点としてきた京都を離れ、兵庫県の山村で創作活動を行っている。