音楽ナタリー Power Push - 京都岡崎音楽祭「OKAZAKI LOOPS」

ディレクター・高木正勝が見せるもの

9月3、4日に京都・京都市岡崎のロームシアター京都で音楽フェスティバル「OKAZAKI LOOPS」が開催される。このフェスティバルには高木正勝、首藤康之、名和晃平、広上淳一、細尾真孝がプログラムディレクターとして参加しており、それぞれが音楽、美術、舞台芸術などの演目を監修した。

音楽ナタリーでは、個性的な内容で注目を集める「OKAZAKI LOOPS」について、音楽ジャンルのディレクターである高木正勝にインタビューをする機会を得た。彼のイベントへの関わり方から自身が出演するコンサート「大山咲み」についてなどを聞いた。

取材・文 / 加藤一陽 ライブ撮影 / 三田村亮 兵庫写真提供 / 高木正勝

京都の文化施設が集まる街

──岡崎ってどんな街なんですか?

高木正勝コンサート「山咲み」の様子。

京都市の東の山のふもとにある、平安神宮、美術館、コンサートホール、動物園などが集まる文化地区です。河原町という京都の繁華街から歩いて15分くらいで、気楽に行ける場所ですね。すぐそこに山が大きくあるので開放感がありますよ。昔は閑静な住宅地だったのですが、ここ5~10年で開発が進んで新しい雰囲気に変わってきました。

──「OKAZAKI LOOPS」の会場のロームシアター京都というのは?

前は京都会館というホールだったんですけど、最近リニューアルされて装い新たになりました。蔦屋書店が入ったりスターバックスコーヒーが入ったりして華やかになりました。

──文化的なイベントが行われることに違和感がなさそうな街ですね。

うーん、京都の人からしたら、岡崎でフェスティバルをやるっていうのは新しい感覚かもしれません。文化施設が集まっている地区ではありますが、特に夜になると静かなところですから。「OKAZAKI LOOPS」が開催されることで、岡崎地区の新しい側面が見えてくれば面白いですね。

──ちなみに高木さんはずっと住んでいた京都を離れ、兵庫の村に移られたんですよね。

そうですね、引っ越して3年になります。

高木正勝が暮らす兵庫の山村の様子。

──そこではどんな生活を?

家が17軒くらいしかない小さな村で、僕自身は以前と変わらず家で音楽などを作っています。あとは畑をしたり、おじいさんやおばあさんに遊んでもらったり、町内会に出たり、神社を掃除したり、みんなで草刈りして、祭りをやって……しょっちゅう用事があるんです。僕の住んでいる村には、例えば田舎に来た人が「いいところだ」って思うようなまろやかな風景がありますが、人の手が入らないとあっという間に近づけない感じになっていきます。夏は特に気を抜くとすぐに風景が雑然としていくというか。だから忙しいですよ(笑)。

──“地域に根ざした”というとざっくりとしてしまいますけど、まさにそういう生活。

村や周りの自然を含めて素晴らしいなと思っているので、「自分の家だけどうこうしよう」という感覚がなくなっていくんですね。住んでいる地区ごと自分の家のような、そんな不思議な感覚。だから村の用事も参加させてもらって楽しいです。自分の家では、例えば畑の作業とかでも、プラスチックとか、そういう土地と馴染まないものはあまり使いたくないなあとか、考えながら生活していますね。

──プラスチックは使いたくないというのは?

高木正勝が暮らす兵庫の山村の様子。

安くて強くて便利なものですが、もし自分がパッといなくなったらずっとそこに残っていきますよね。それが汚い感じがするというか。例えば山の中にそういう物がずっと残っていると、本当に汚くなっていくんですよ。自然に還っていく物は脆くて儚いですけれど、やっぱり美しいと思います。だからちょっとした柵を拵えるにしても、極力周りから採ってきた木とか竹とかで作りたいなと。手間はかかりますけど、そのほうが見た目も美しいし、何より楽しいんですね。

──そうなんですね。

そういうふうに、日常の中で時間と手間をかけていろいろやっていくことを少しずつ学んでいる最中です。

「OKAZAKI LOOPS」でやりたかったこと

──音楽系のプログラムはすべて高木さんがディレクションしたものだと考えていいのでしょうか?

高木正勝コンサート「山咲み」の様子。

いや、そういうものだけではないんです。もちろんいろいろ意見は出しましたけれど、今回はディレクターが複数人いますし、プロデューサーたちと何度も話し合いながら進んできたこともあり、出させてもらった案で最終的に残ったのは一部でした。自分が出演する「大山咲み」のほかは、2日目の土取利行さんとミルフォード・グレイヴスさんの公演、そして真鍋(大度)さんたちの「2045」。土取さんたちの身体が沸き立つような、古代に連なるようなパーカッション演奏と「2045」のような近未来的な表現が同じ日に味わえるという……どんなフェスティバルになるのでしょうね(笑)。

──それぞれの演目に注目が集まっています。

最終的に並んだラインナップを見ると、それぞれのディレクターやプロデューサーが出し合った案がバランスよく散りばめられていて、1人では思い付かないような幅広い組み合わせが実現できたと思います。先日、妹からひさしぶりに連絡があったんですけど、僕の「大山咲み」を観に来るのかなと思ったら「前夜祭のYEN TOWN BANDのチケット取っておいて」と言われました(笑)。

──「いろいろアイデアがあった中で、最終的に残ったのはその一部」とのことですが、高木さんが「OKAZAKI LOOPS」で一番やりたかったことは?

僕が本当にやりたかったのはですね…… 僕の「大山咲み」もそうですけど、大きなテーマとして、“引き継ぐ”。世代の離れた人たちが5分でもいいから一緒に舞台に立つようなものができないかと考えていました。そういう出会いの場になればいいなと。土取さんの公演もそういう思いを込めていて、今コンピュータとかでリズムを打ち込んで音楽を作っている人とかに観てほしいなって思っています。よい気付きがたくさん得られると思いますので。

高木正勝が暮らす兵庫の山村の様子。

──“引き継ぐ”ということに着目したきっかけは?

村で暮らす中で、80歳、90歳を超えた方々が見ている世界と、下の世代が見ている世界は全然違うって気付いたんです。暮らし方や価値観が全然違う。それで若い人たちもそういう世界観に触れる機会があって、お互いに混じり会える時間が持てれば、もっと面白いことが広がっていくのになあと思いました。僕が暮らす村1つを取ってみても、これからの20年で、様子が大きく変わっていくと思います。昔ながらの暮らしを知っていて、知恵を持っておられる方がどんどんいなくなっていく。村で暮らしていると毎日が貴重な1日1日で、些細なことや、人とのなんでもない関わりがとてもうれしいんですね。

京都岡崎音楽祭 OKAZAKI LOOPS

2016年9月3日(土)・4日(日)
京都・岡崎エリアの各施設(ロームシアター京都 / 平安神宮 / みやこめっせ / 岡崎公園 / 京都国立近代美術館 / 京都市美術館)で開催。

OKAZAKI LOOPS前夜祭 SYMPHONIC EVOLUTION SPECIAL YEN TOWN BAND ORCHESTRA
2016年9月2日(金)京都府 ロームシアター京都 メインホール

高木正勝 ライブCD+ライブDVD「山咲み」
「山咲み」
DISC 1(CD)
  1. いのり
  2. あまみず
  3. 風花
  4. Nijiko
  5. サーエ ~ サルキウシナイ ~ かぜこぎ
  6. aqua
  7. おおはる
  8. うるて
  9. 充たされた子ども
  10. 夏空の少年たち
  11. きときと – 四本足の踊り
  12. I am Water
  13. やわらかいまなざし
  14. 紡ぎ風
  15. 風は飛んだ
DISC 2(CD)
  1. うたがき
  2. マクナレラ ~ ヤイサマ
  3. 山咲き唄
  4. かみしゃま
  5. おやま
  6. Girls
  7. Rama
  8. Wave of Light – 音頭
  9. Grace ~ あげは
  10. 風花 ~ カピウ・ウポポ
DISC 3(DVD)
  1. いのり
  2. あまみず
  3. 風花
  4. Nijiko
  5. サーエ ~ サルキウシナイ ~ かぜこぎ
  6. aqua
  7. おおはる
  8. うるて
  9. 充たされた子ども
  10. 夏空の少年たち
  11. きときと – 四本足の踊り
  12. I am Water
  13. やわらかいまなざし
  1. 紡ぎ風
  2. 風は飛んだ
  3. うたがき
  4. マクナレラ ~ ヤイサマ
  5. 山咲き唄
  6. かみしゃま
  7. おやま
  8. Girls
  9. Rama
  10. Wave of Light – 音頭
  11. Grace ~ あげは
  12. 風花 ~ カピウ・ウポポ
高木正勝(タカギマサカツ)
高木正勝

1979年生まれ、京都府出身の音楽家、映像作家。2001年にCDとCD-ROMからなる1stアルバム「pia」をCarpark Recordsよりリリースしてデビュー。翌2002年には細野晴臣のレーベルdaisyworld discsよりアルバム「JOURNAL FOR PEOPLE」を発表し、ピアノと電子音を融合させたサウンドで注目を集めた。以降、コンスタントにオリジナル音源を発表しながら、CM音楽や映画音楽の制作、個展の開催などを行っている。代表作はデヴィッド・シルヴィアンとのコラボ曲を収録した2004年の「COIEDA」や、さまざまなミュージシャンが参加した2007年ライブアルバム「Private / Public」など。映画音楽としては、細田守監督作品「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」などのサウンドトラックを担当。現在は長年拠点としてきた京都を離れ、兵庫県の山村で創作活動を行っている。