岡村靖幸と斉藤和義。2人はともに作詞作曲やアレンジまで手がけるシンガーソングライターであり、多彩な楽器を操るマルチプレイヤーでもある。そんな彼らがこのたび完全共作ユニット「岡村和義」を始動させた。
彼らは現時点で5カ月連続リリースと銘打って「I miss your fire」「春、白濁」の2曲を発表しており、5月からは全8会場12公演におよぶ全国ツアーも開催するなど、アグレッシブな活動予定を掲げている。
30年以上のキャリアを持つ2人が今、新たなユニットを組んだ理由とは? どんなやり方でどんな音楽を作ろうとしているのか? インタビューを通して、それぞれの個性が生み出す化学反応の源に迫ってみたい。
取材・文 / 大山卓也撮影 / 岡田貴之
もともと友達だった
──2020年に放送された岡村さんのラジオ番組に斉藤さんがゲスト出演して、番組の企画で「春、白濁」を作ったのが「岡村和義」誕生のきっかけだそうですね。
岡村靖幸 2人で真面目に1曲作ったのはそれが最初ですね。
斉藤和義 それまでも、うちのスタジオで2人酔っ払いながらセッションして遊んだりみたいのはよくやってたんですよ。そんな中、番組の企画で曲を作ってみようってことになって、そしたらサクッと1曲できたんだけど、それが面白くて。その後もまた2人で飲んでるうちに数曲できたんで、これはガッツリやってみようという流れです。
岡村 やっぱり僕らがもともと友達だったのがデカかったんですよね。最初に会ったのは10年ちょっと前ですけど、それからいろんな夜やいろんな朝を2人で重ねてきて、2人で作った思い出もたくさんある。僕は斉藤さんのこと本当の親友だと思ってるんです。それくらい仲良しじゃないと顔を突き合わせて曲を作るなんてできないですから。
──バンドメンバー募集の張り紙をして作るバンドと友達同士で組むバンドがあるとしたら、今回は後者ということですね。
斉藤 最初はただ飲んでただけだったんですけどね。あるとき飲み屋に置いてあった楽器でセッションみたいなことを始めたら2人でずっと遊んでいられて。俺はフリーでジャムセッションしてそこから曲の形にしていくのが昔から好きなんですけど、そういう人は意外と多くなくて、特に歌を歌って詞も書いてみたいな人はあんまりそういうことをしない。でも岡村ちゃんと出会って「一緒にやれる人がいた!」という喜びがあって、そこからさらに仲よくなっていって。それが7、8年前ですかね。
仲が悪かったらあれは撮れない
──作詞・作曲・編曲のクレジットはすべて「岡村和義」名義になっています。実際の制作はどのように行っているんですか?
岡村 けっこう本当に半々で作ってます。僕がAメロを作って斉藤さんがサビを作ったり、歌詞も2人で顔を突き合わせながら書いたりとか。2人で往復書簡みたいにして作るときもありますし。
斉藤 普段1人でやってるとやっぱり手癖というかね、「メロディの傾向としてこっちにいっちゃうよな」とか「この続き全然浮かばねえな」みたいなことがあるんですけど、今は相手に「次の展開ないかな?」と投げてみると「おお、その発想はなかったな」ってことになる。思ってた以上のものが返ってくるのが面白いんですよね。
──お互いを信頼してるからこそできるスタイルですね。
斉藤 あの岡村靖幸だからなんの心配もないぞ!みたいなところはありますね。多いときは週に2、3回スタジオで飲みながら、馬鹿話もしながら、ああだこうだと朝6時、7時までいろいろ録ったり、それを持ち帰って楽器足したり整えたり、次に会ったら別のアイデアが生まれたり。そんなことをゆるゆるやってたら何曲もできて、それをこの1年半くらいずっとやってた感じですね。
──それはすごく楽しそうですね。
岡村 うん、すごく楽しいです(笑)。「I miss your fire」のミュージックビデオでも「2人が楽しそう」っていう感想を見かけましたけど、仲が悪かったらあれは撮れないですから。
斉藤 2人で作ってると「なんだ、曲作り簡単じゃん」なんて気にもなったりしてね(笑)。
──じゃあどんどん曲ができていく?
岡村 歌詞さえ書けちゃえばたぶんできるんで、やっぱ歌詞をどこまで真面目にやるかですね。「春、白濁」のときは放送中に1曲作るっていう時間制限があったので、2人で殴り書きのように言葉を並べていく形でやったんですけど。
斉藤 でも歌詞も1人で書くときよりは全然、意外といい感じになったりしますよ。なんてことないテーマでもとりあえず歌ってみようとか、それくらいの軽い感じ、肩の力を抜いてやってみるのが面白いのかなって。
「ザ・ビートルズ:Get Back」で大盛り上がり
──これまでお二人はDJ、ラッパー、ドラマーなどさまざまなタイプのミュージシャンとコラボしてきましたが、今回はお互いにシンガーソングライター兼マルチプレイヤーということで、役割分担という意味では完全に被っています。制作中にぶつかることはなかったんでしょうか?
岡村 あの、普通ならぶつかる可能性もあったと思うんですが、やっぱりそこも我々が仲良しだったのが大きくて。以前2人でThe Beatlesの「Get Back」ってドキュメンタリーを観て大盛り上がりしたんです。
斉藤 酒飲みながらね。
岡村 それを観て生演奏でバンドっぽいものをやりたい気持ちが高まった。ジョンとポールが顔を突き合わせてやってる姿にも刺激受けたし、2人で「どう?」「いいね!」とか言いながら作るのは楽しそうだなって。
斉藤 自分はバンドができなかったなっていう敗北感にも近い思いがずっとあったんです(笑)。まあ1人は1人で楽しいからやってきたんですけど、特に初期のビートルズやストーンズみたいに、ポールとジョン、ミックとキースがあれこれ言い合いながらやってる姿にはやっぱり憧れがあって。
岡村 そう、お互い1人でやるのが好きなのは本当で、だからソロミュージシャンとして活動してきたわけですけど、でもなんかね、やりたくなったんですよね。いいものを作れそうなムードがムンムンしてたんで。
斉藤 それにお互いいろんな楽器をやるけどタイプは全然違いますからね。ギターにしても俺は岡村ちゃんみたいなカッティングはできないし、ベースもあんなファンキーなのは弾けない。だから同じ楽器でも食い合わない。
岡村 斉藤さんのギターは本当に素晴らしいんですよ。これから発表される曲もギターソロが入ってる曲が多いんで楽しみにしてほしい。最近はギターソロいらないみたいな世論もあるけど「いいからこれを聴け!」って気持ちはあります。
斉藤 それで言うと岡村ちゃんのギターはコード使いが独特で「どう押さえたらその音になるの?」みたいな驚きがある(笑)。ベースもすごいんですよ。「春、白濁」のミックスのときベースをガッツリ上げて聴いてみて「何これ、どうなってんのこのベース?」ってびっくりしました。
岡村 お互いのプレイの味みたいのはすごく出てると思いますね。生演奏にこだわって、やりながらノッてる熱い部分を採用していく感じ。「それいい! いただき!」みたいな。そうやって即興的に作っていく部分もあるし、持ち帰って練りに練りまくって作る部分もあるし、それがどっちも面白いんですよね。
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