おかもとえみ|等身大の自分表現したアルバムにポップも闇も詰め込んで

誰かにお願いするなら絶対に堀込さんがいいと思った

おかもとえみ

──さっきBONNIE PINKさんの名前が出ましたけど、もともと最初に歌いたいと思ったきっかけはなんだったんですか?

最初は小学生の頃にSPEEDに憧れてダンスボーカルグループに入りたかったんですよね。ダンスも習っていたし。そこから軽音楽部に入ってバンドを好きになって。バンドに興味を持ってからはEvanescenceのエイミー(・リー)さんに憧れるようになって。

──Evanescence、懐かしいですね。

Zepp Tokyoでの来日公演をお母さんと観に行ったりしました。彼女の力強いボーカルに憧れて。そこからBONNIE PINKさんやフィッシュマンズさんを聴くようになって抜けのあるボーカルのよさを知ったんですね。そういう要素が混ざり合ってるのが今の私になったんだと思います。

──ソロではそこに陰影を際立たせることで色気がより浮かび上がってると思います。

そうですね。もともと息遣いが聴こえる歌い方が好きなんですけど、そういうのって楽器が多かったり音の要素が多いとなかなか聴こえづらいじゃないですか。なので、トラックならではの歌い方があるなと思っていて。そこが色気と言っていただけるところにつながってるのかもしれない。今回のレコーディングはわりとマイクと近い距離で歌ったので。喉の調子が自分的には万全ではなくて、声帯がちょっと腫れてる時期だったんですけど、高音がかすれちゃってる感じとかも「これはこれでいいな」と思って。「僕らtruth」もそんな感じになっています。

おかもとえみ

──「僕らtruth」は唯一、作詞作曲をほかの作家に預けていて。しかもそれが堀込泰行さんで、トラックプロデュースがKan Sanoさんという。

ぜいたくですよね。光栄です。「誰かが書いた曲も入れてみたら?」とディレクターさんが提案してくれて。でも、ソロで誰かに曲を書いてもらうイメージがなかなか湧かなくて……いろいろ考えてみて曲を誰かにお願いするなら絶対に泰行さんがいいと思ったんです。むしろ泰行さんしか浮かばなかった。夢の夢だったし、「そんなこと本当に実現できるかな?」と思ったんですけど、どうしても泰行さんしか浮かばなかったし、泰行さんでなければやらなくていいかなと思ったくらいで。

──キリンジ時代からファンだった?

はい。もう、キリンジが超好きで。キリンジは20歳くらいのとき……THEラブ人間に在籍していた頃に人から教えてもらったんです。それからすごくハマって。それからさらに泰行さんのソロプロジェクト・馬の骨も聴くようになったんです。それで馬の骨の「Red light, Blue light, Yellow light」という曲にドハマリして。メロウだし、夜に合う感じがすごく好きで。その感じが自分のソロともマッチするのかなと思ったんですよね。

──「僕らtruth」もイントロから堀込節全開という感じですよね。

うんうん。私には思い付かないコード進行だったり、どうやって押さえるのかわからないコードもいっぱいあって。Kan Sanoさんの存在は最初は友達から教えてもらって、そのあとディレクターさんからも推薦してもらったんです。泰行さんとKan Sanoさんなら自分じゃ想像できない、いい化学反応が起きそうだと思いました。私のボーカルと泰行さんの曲のよさをさらに引き出しつつも、Kan Sanoさんもご自身の色を入れてくれて3色パンになったという(笑)。

ドープなビート×1990年代のJ-POP=おかもとえみ

──ラスト2曲、TSUBAMEさんプロデュースの「TWO LOVE」と赤い靴プロデュースの「remind」はトラップのニュアンスがあったり、このアルバムは全体的にすごく同時代性に富んだビートミュージックの要素が盛り込まれていて。さっきの話のように、普段はビートミュージックやクラブミュージック側のシーンにそこまで明るくないえみそんが、こういう音を求めているのがこのアルバムの面白さにもつながってると思うんですよね。

もともとベーシストというのもあると思うんですけど、クラブミュージックを聴いてるというよりは、リズムの面白い音楽が好きという感覚で聴いてるんですよね。ループしているんだけど、ちょっともたっていたり。そういうリズムの妙というんですかね? そこに面白みを感じる。今回、赤い靴にお願いしたのも、私がベースサポートの現場で神谷(洵平)さんとご一緒させてもらったときに「なんて素晴らしいドラマーなんだろう!」と思って、それで赤い靴を聴いて「Let it die!」という曲に衝撃を受けたんです。リズムも面白いし、鍵盤のフレーズも面白くて。それで、「面白いリズムを」とリクエストしたら「remind」が生まれたという。

──プロデューサー陣にはどれくらい「こういう曲にしてほしい」というリクエストをしてるんですか?

うーん、私はけっこう作り込んだデモをお渡しするので、それをどう変えてくるかはその人次第ですね。でも、illmoreくんからはまったく違うテイストでトラックが返ってきて「こんなアプローチもあるんだ!?」って驚きました。自分が考えていたニュアンスとは違ったけれどillmoreくんのよさが詰まっていたから「ちょっとコード感だけ相談しましょう」と言って調整したくらいで。それぞれの個性が好きでオファーさせてもらっているから、その個性を思う存分、私の曲の中で表現してもらえたらいいなと思ったんですよね。パーゴルにも何も言わずデモを渡してるし。

おかもとえみ

──で、えみそんが作る歌メロは本当にポピュラリティが高いからどんなにビートがドープでも、歌詞の陰影が色濃くても、最終的にはポップな像を描いているという。これも大きなポイントだと思います。

確かにドープなビートが好きなんだけど、歌のメロディは1990年代のJ-POPっぽい感じが自分の中に染み付いちゃっているので、自然とポップなメロディが生まれてくるんですよね。自分の好きなもののいいところ取りをしているという感じです(笑)。ムラマサっぽいビートも好きだけど、SPEEDっぽいメロディも好きなので。

──そのビートと歌は、えみそんの声が乗るとナチュラルに融合する。

そうだったらうれしいですね。Opus Innさんプロデュースの「PURE」は、もともと自分でトラックを作っていて「ストライク!」の特典にしていたんですよ。自分のトラックに自信がないから特典にして。

──自信がないというのはビートに?

ビートもそうだし、全体の音のバランスもそうだし。ベースしかちゃんと弾けないから「これでいいかな?」という不安があって。プロデューサーの皆さんの音源を聴いてると「超カッコいい!」と思うから、「PURE」にもっと輝きを与えてもらえるんじゃないかと思って。それでOpus Innさんにお願いしたらやっぱりいいトラックができあがりました。