“やったった感”を感じたことは一度もない
──4曲目の「共犯カメラ」は、まさに先ほどの話でいうところの“求められる自分と本来の自分”を描いたコントラストの歌ですね。岡田さんからしか出てこないであろう世界観というか。
これはもう完全に自分自身の二面性について書いたものなので、“ザ・岡田奈々”って感じの曲だと思います。それに加えて、レコーディングでは「そんなヒトを募集します」という部分のファルセットがすごく難しくて、そういう音楽的な面でのチャレンジもある曲でしたね。
──個人的には、まさにその「募集」というワードがすごく印象的でした。
あ、そうですか?
──あまり歌詞っぽくない言葉じゃないですか。それをキメのフレーズとしてうまく使えているので、書き手としては“やったった感”があったんじゃないかなと。
確かに歌詞っぽくはないですよね。でも、歌詞を書いていて“やったった感”みたいな手応えを感じたことは今まで一度もないかもしれない。
──それは意外です。「どや、これ書いたったで!」みたいな思いは歌にも乗るものだと思いますし、作詞のモチベーションにもつながるものなんじゃないかと。
ああー、確かに。今後はちょっと意識してみますね、“やったった感”。
──2曲目の「5月にふたりは嘘をつく」のラストフレーズ「僕が出逢った女性の中で一番の人」も同じように感じました。「女性」というワードもなかなか歌詞では使いづらいのではと。
使わないですか? けっこう私、「女性」はよく使っちゃうワードかもしれないですね。特に「5月にふたりは嘘をつく」は自分の実体験をもとに書いた歌詞なので、ごく自然に出てきたものでしかなくて。
──自覚的ではないところでフックを生んでしまうというのは逆にすごいことだと思います。
ありがとうございます。“書いてやったぜ感”、次からは出すようにします(笑)。
勝手に深くなっていくのが岡田奈々なんです
──6曲目の「空白と高鳴り」は、明らかにほかの曲と発声が違いますよね。
声のキャラクターを意図的に変えました。どの曲でも常に「どういうキャラクターで歌おう?」というのは考えるんですけど、この曲の主人公はかなり愛が重い女の子なので、ピュアでキュルキュルとした甘い声で歌うべきなんじゃないかなと思って。
──イントロがなく歌から始まるので、より印象的なんですよね。これはこの歌い方を生かすためのアレンジということですか?
たまたまです。完全にただの偶然ですね。
──なるほど。やっぱり作為のないところでも、いろいろと深読みさせてしまうアーティストなんですね。
そうなんです。全部後付けみたいな感じで、勝手に深くなっていくのが岡田奈々なんです(笑)。
──曲によって声色を変える、というのは声優っぽいアプローチですよね。それで言うと、1曲目の「残響Alive」が個人的にすごくアニソンっぽい曲だなと感じまして。
ホントですか! いや、そのご感想はうれしいです。なんなら「アニメのタイアップ取りに行こうぜ」って話をしながら作った曲だったので。
──曲名もそうですし、曲調にしても歌詞にしても、ダークな雰囲気のアニメ作品で流れてきそうな曲だなと。
ええー、うれしい。もともとアニソンは大好きなんですよ。ロック系、ボカロ系というジャンルのほか、「アニソン系も歌いたいです」ということも前々からスタッフさんにもお伝えしていて。
──ボカロテイストの曲はすでに多いですよね。アルバムの前半は特に。
そうですね。5曲目の「神様はまだ僕を死なせてくれないから」もそうだし、7曲目の「好きの魔法」も……個人的にはこの「好きの魔法」が今作イチの推し曲なんです。これ、最初は恋の魔法から抜け出せないダメな女の子の歌として書き始めたんですけど、なぜか書いてる途中で怒りが湧いてきちゃって(笑)。「恋愛ごときで弱っていくとは何事だ!」みたいな気持ちになってきて、Dメロくらいから急に言葉が強くなるんですよ。で、最終的には「私が強くなるから!」って宣言の歌になるという。歌詞を書いている途中で主人公の性格が豹変するパターンは珍しかったので、すごく印象に残ってますね。
寒い冬からちゃんと春になりましたよ
──10曲目の「12.24」は、今作で唯一J-POPとして響く曲のように感じました。
お! J-POPっぽいですか?
──最初の定義の話で言うと、これは岡田さん以外の人が歌っても成立はする“ポップス”だと思うので。
そう! そうなんですよ! これは別に私の実体験でもないし、誰にでも当てはまる、みんながクリスマスに歌える曲として書きました。
──そういう普遍的な歌を歌いたい気持ちも岡田さんの中にはあったということですか?
いや、正直なかったです(笑)。なかったんですけど、制作チームの中で「季節感のある曲も作っていきたいよね」という話になって。「この季節といえばこの曲、みたいな定番ソングができるといいよね」というスタッフさんたちの理想もあったりして、その思いには応えたいなと。それは私も思っていて、今後は私ならではの季節の定番ソングも作っていきたいですね。今回は初めての試みだから、まず王道を攻めてみました。「12.24」はクリスマスソングで、その次の「桜色の君を想う」は桜ソングになっています。
──アルバム後半で僕が最もグッと来た曲が、その「桜色の君を想う」でした。ジャンル的にはロックではないと思うんですけど、これは僕が思うロックだなと。
あー、定義としてのロックですね。
──岡田さんの意図とは違いそうな気もするんですけど、一見「君」と「僕」の別れの歌のようで、捉えようによっては“自分の中の制御できないもう1人の自分”に対しての歌にも思えるんです。「手に負えないから別れるけど、本当は一緒にいたいよ」みたいな。
わあ、なるほど! そうか、そういう解釈もあるんですね。
──己を罰することなく、別れゆく「君」への思いを肯定している歌のようでいて、実はめちゃめちゃ罰しているんだとしたら逆にカッコいいなと。仮にそうだとすると、このアルバムのラストナンバーとしてあまりにも美しすぎる……と勝手な解釈で勝手に感動したっていう(笑)。
いやいや、いいと思います。やっぱりそういう、いろんな解釈のできる曲が書きたい気持ちはずっと持っているので、その人なりの捉え方をしていただけるのはすごくうれしいです。この曲をラストに置いたのはすごくシンプルな理由で、曲順的に「赤い夜が満ちるまで」が秋ソング、「12.24」が冬ソングなので、季節を順に追ったら自然とこれが最後になった感じですね。「寒い冬からちゃんと春になりましたよ」って、希望を残すための終わり方になっています。
暗い感情は永遠になくならない
──アルバム2作にわたってさまざまな手法でデトックスをしてきた岡田さんですが、その作業はまだ必要ですか?
まだまだ必要ですね。やっぱり生きている以上、暗い感情って永遠になくなることはないと思うんですよ。1つ消してもまた次が来る。なので、これからもアシンメトリー、コントラスト、二面性というものを表現し続けていくことになると思います。自分の中のネガティブな部分を吐き出していって、同じように感じている人が仲間になってくれたらうれしい。仲間を増やしたいですね。
──アーティストとしての理想の立ち位置みたいなものは、何か思い描いていたりしますか?
手の届かないスターじゃなくて、近い存在でありたいとは思います。以前、写真集を出したときに秋元先生が「飾らない宝石」というタイトルを付けてくれたんですね。宝石のように輝いているんだけど、触れられないわけじゃなくて、むしろ触れることで価値を持つ存在というか。そういう特別な人になりたいと思います。
──石ころのような身近さではなく、あくまで宝石であることが重要なんですね。
重要です。
──なるほど。ちょっと難しい聞き方をしますが、その理想に対する達成度は今どのくらいですか?
達成度ですか!? 全然まだまだですよ! ソロアーティストとしてはまだ始まったばかりですし、何事も長い目で見なければいけないと思うので……行ってて3割ぐらいじゃないですかね。まだまだやれること、やるべきことはたくさんあります。
──ということは、見ている側としてはまだまだ何が出てくるかを楽しみにしていていい?
そうです。来年も楽しみにしていてください(笑)。
プロフィール
岡田奈々(オカダナナ)
1997年大阪府生まれ、神奈川県出身。2012年に行われたAKB48第14期生オーディションに合格。2017年から2022年までは姉妹グループのSTU48のメンバーとしても活動した。2021年9月発売のAKB48の58thシングル「根も葉もRumor」で表題曲のセンターを務め、2022年1月には「第4回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦」で優勝。2021年7月にエイベックス・アスナロ・カンパニーに移籍し、歌を中心とした朗読劇、ミュージカル、ソロコンサートなどの活動を本格的に開始した。2023年4月にAKB48を卒業し、同年11月に1stアルバム「Asymmetry」を発表。2024年11月に2ndアルバム「Contrust」をリリースした。