岡田奈々の2ndアルバム「Contrust」がリリースされた。
11年間在籍したAKB48を昨年4月に卒業し、同じ年の11月に1stアルバム「Asymmetry」をリリースしてソロデビューを果たした岡田。同作品で自身の“二面性”を表現した彼女は、今作でも“明暗比”をイメージしたタイトルを掲げ、自らの内面をさらけ出している。しかし前作では赤裸々な思い、鮮烈なメッセージをつづった重いテーマの歌詞が収録曲の多くを占めていたのに対し、今作は「Con(ともに)」と「trust(信じる)」を掛け合わせた造語を冠していることからもわかる通り、“影となる弱い自分を受け止め、光に向かって前進する”という前向きな思いが込められている。
音楽ナタリーでは前作に続き、アルバム全曲の作詞を自ら手がけた岡田にインタビュー。歌と詞で自身の内面を表現することへの思い、そして2ndアルバム「Contrust」の収録曲について話を聞いた。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 笹原清明
ダークな歌のほうが無理なく表現できる
──岡田さんはソロとしては音楽ナタリーの特集初登場ということなので、改めて、ソロで歌手活動をすることになった経緯を教えてください。
え! 初登場でしたっけ! AKB48時代からとてもお世話になっているので、全然そんな気がしないです(笑)。私はもともと歌に対する思いが強かったんです。ちっちゃい頃から歌うことが大好きで、AKB48のオーディションを受けたときも「将来の夢は歌手です」と書類に書いていましたから。まあ建前なんですけど(笑)、グループ活動の中でも「特に歌をがんばりたい」という思いがやっぱり強くて。「AKB48グループ歌唱力No.1決定戦」というTBSさんのイベントにも毎回出ていたぐらい。
──岡田さんは、2022年に行われた第4回大会で見事1位に輝いていますね。
はい。具体的に「ソロアーティストとしてデビューする」という話が動き出したのは、事務所の移籍が直接のきっかけでした。エイベックス・アスナロ・カンパニーに入ってから、本格的に作詞活動も始めさせてもらって……。
──その「歌うだけではなく、作るほうも」という思いは、どこから生まれたんですか?
いや、もともとは自分が作詞をする側になるなんて考えてもみなかったことで。マネージャーさんから「作詞に挑戦してみたら?」と言われたことがきっかけなんですけど、それまでまったく発想になかったので、自分でもびっくりしています。
──例えば、学生時代などに音楽を聴いていて「この歌詞すごい! 自分もこんなふうに書いてみたい!」と思ったような経験もなく?
まったく思ったことなかったです。自分で書くようになってからですね、歌詞を意識してほかのアーティストさんの曲を聴くようになったのは。今思うと、秋元(康)先生ってすごかったんだなって。天才ですよ、あの人。どんなテイストの歌詞も書けちゃうんで、そのすごさがようやくわかりました。ただ、秋元先生やほかのアーティストの方の歌詞を見て「あんなふうに書いてみたい」と思うことはないですね。意識的に参考にしないようにしています。真似になっちゃうのがどうしても嫌で、もうちょっと自分の言葉で、自分の中から出てくるボキャブラリーだけでがんばりたい。そこはちょっと気を付けています。
──では、歌に関してはどうですか? ボーカリストとして憧れた人とか。
それはいました! 幼稚園の頃は後藤真希さんに憧れていましたし、大きくなってからは相川七瀬さんのようなロックでカッコいい女性アーティストになれたらいいな、なんて漠然と思ったりしていました。
──実際、岡田奈々ソロの音楽性としては相川七瀬直系とも言えるギターサウンドが中心になっています。デビューにあたって、音の方向性については明確なイメージを持っていたということですね。
ボーカロイドの楽曲とかもすごく好きなんですよ。でも、ロックな曲とかダークな曲が中学生くらいの頃から大好きだったので、自分もそっちの路線でいけたらいいなとは思っていました。
──なぜその系統に惹かれるんだと思いますか?
いやもう、生まれ持った性質でしょうね。ちょっと根暗で病み気質だったんですよ、中学生の頃から。文字通りの中二病だったんです。だから歌詞もリアリティのあるもの、ダークサイドに落ちている感じのものが自分の感覚に自然と馴染むんだと思います。歌うときもそういうもののほうが無理なく表現できるし、より自分の心が支えられる感じがしますね。
──ということは、グループ時代に歌っていたような明るく前向きな恋愛ソングなどは、実は岡田さんにとっては難度の高いものだった?
はい、大変でした(笑)。だから私、秋元先生の書く“病みソング”が大好きなんですよ。AKB48時代にその病みソングだけでソロコンのセットリストを組んだことがあるぐらい。
──筋金入りですね。それだけ表現したいものが明確に偏っているとなると、本当になるべくしてソロアーティストになった人なんだなと納得できます。
そう言っていただけるとうれしいです!
今は“人間・岡田奈々”でいられる
──そういう意味では、自分のやりたいことだけを詰め込めた1stアルバム「Asymmetry」には相当な手応えがあったんじゃないでしょうか。
ちょっと独りよがりな作品にはなってしまったんですけど。それでも、全12曲を書き上げることができたという達成感はありましたね。ありがたいことに、すごくたくさんの方が聴いてくださったという手応えもあって。ただ、あまりにも暗いアルバムだったから「応援歌とか、希望に満ちた曲も聴きたいよ」という声はけっこういただきました。
──でも、そこは難しいところですよね。自分の本来やりたいことと求められるものが食い違っている場合、落としどころをどうするべきかという。
そうなんです! 自分が書きたい詞と求められる詞は違うから、「Contrust」ではそこのバランスをうまく取らないといけないなと思って制作に臨みました。
──その両軸がまさに“コントラスト”を形成しているという。
はい。前作ではその対比を「Asymmetry」、つまり“左右非対称”という言葉で表現したんですけど、今回は“明暗”を表す言葉になりました。どうしても二面性をテーマにしがちで。たぶん今後もそうなると思います(笑)。毎年毎年、いろんな切り口で二面性を打ち出していく感じになりそう。
──それはやはり、岡田さんのこれまでの人生が影響しているということですよね。求められる自分と本来の自分とのギャップを感じる機会が、僕ら一般人よりも桁違いに多かったでしょうし。
多かったですね。アイドル時代は優等生としての姿を求められていたので、「本来の自分は全然そんなんじゃない、真面目じゃない一面もあるのに」という葛藤は常にありました。今はソロになったことで、その葛藤も含めて全部をさらけ出せる環境をやっと手に入れた感覚が強いです。
──ということは、今はかなりの充実感があるのでは?
充実してます! もう自分を偽る必要もないですし、ありのままの“人間・岡田奈々”としてやらせてもらっているので。
──作る音楽が生き方に直結しているってことですよね。その意味で、岡田さんはものすごくロックなミュージシャンだなと思います。
わあ、ありがとうございます……!
──これは単なる個人的な定義なんですが、ざっくりと「その人以外が歌ったら意味をなさない音楽」をロックだと思っていまして。それに対して「誰が歌っても素晴らしいもの」がポップスだと考えているんです。
なるほど、いい定義ですね! 確かに私は自分にしか歌えない、自分の人生だからこそ生み出せる曲を作りたいなと常々思っています。
歌詞でデトックスしている
──2ndアルバムの制作はどんなふうに始まったんでしょうか。
今年の頭に体調を崩してしまって、半年ほど休養をいただいていたんです。その間、休みながらもデモ音源だけはいただいていたので、春頃にはもう制作を始めていました。
──その休養期間に感じた思いなども作品に反映されている?
されていますね。8曲目の「UNMEI」はまさに休養中に起こった能登半島地震がきっかけで書いた楽曲で、自分の苦しかった時期と重なったこともあって、かなり思い入れの強い曲になっています。今回のアルバムの中では、一番外向きの強いメッセージがこもった楽曲なんじゃないかな。
──能登に限らず、いろんな困難を抱えている人のための歌という感じがします。
そう。災害に見舞われていなかったとしても、日常の中でつらいことや苦しいことはきっと皆さんあると思うので、そういう方の心情に重なるところがあったらいいなと思います。
──アルバムを通して聴かせていただいてまず思ったのが、前半と後半でまったく色合いが違いますよね。まさにコントラストの強いアルバムになっている。
そうなんです。さっきもお話ししたように、前作がかなり本音を赤裸々に語る一辺倒の作品になってしまったので、今回はもっと光を見出して前に進んでいくアルバムにしようと思って。なので曲順を決めるときに、ダークなやつを前半に持ってきて、後半に季節感のある落ち着いたバラードを並べたらそれをうまく表現できるんじゃないかなと考えました。
──前半は、自分を罰したがる人の歌が多いですよね。
その通りですね(笑)。自分に厳しく、なかなか自分を好きになれない人間の曲が多いです。
──特に3曲目の「moratorism」は、聴いていて「そんなに自分を責めないで!」と思わずにはいられないような歌で。
責めちゃうんですよねえ……これは「Asymmetry」を作っていた時期にあった曲なので、だいぶそのときのムードを引きずってますね。ただ、「自分のことが嫌い」というところから抜け出せないのはある意味、私ならではの特性ではあると思うので、自分自身でも受け入れなければいけないものだなと思っています。
──Bメロにある「生まれてきて ごめんなさい」というフレーズなんて、ほとんど太宰治です。
太宰になっちゃった(笑)。いやもう、そうですね。文豪と同じようなメンタリティということで、もう仕方がないものなんだと思ってください。
──そういう感情をアウトプットするのって苦しくないのかな?とシンプルに思っちゃうんですけど……。
苦しいけど、そうやって歌詞にして表現として出すことで楽になれる部分もあるんですよ。自分のダメな部分を全部書き出すことで、逃げ場を作っているような感じです。
──ある種のデトックスのような。
(得意げに)デトックスしてますよー! 歌詞で。
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“やったった感”を感じたことは一度もない