ナタリー PowerPush - 大石昌良

飽くなき探究心と豪華コラボが生んだ「極上のJ-POP」

4分18秒の中にあの「セカチュー」の世界が広がっている

──歌詞を依頼するということは、それまでに曲が完成していなければならないということですよね?

そうなんです。フルで完成しているものからカケラのような状態のものまで、締切までに一気に約20曲を提出するという最初の大きな山がありまして(笑)。その中から選曲をして、次に作詞をお願いできるレベルまでその曲を完成させるという状況でした。片山さんにご連絡をしたのは確か7月頃だったんですが、OKのお返事をいただいた手紙の最後に「引き受けさせていただきたいと思っておりますし、大変光栄だと思っておりますが、なにぶん作詞に関しましてはズブの素人ですから夏休みの宿題だと思ってがんばらせていただきます」というひと言があって、ユーモアのセンスも言葉を扱う仕事のプロだなと思ったのと同時に、先生の人柄を感じることができました。

──片山さんにはどういう歌詞を書いてほしいというお願いをしたんですか?

僕のソロデビュー作「ほのかてらす」は宇和島を舞台に書いた曲ですが、その歌詞にある「実はあの小説の舞台にもなったくらい」というフレーズは「世界の中心で、愛をさけぶ」を思って書いているんです。僕と片山先生の原風景は同じなので、「その場所を舞台に恋愛のドラマがあり、海があって灯台があるイメージでお願いします」とお伝えしました。「約4分の中に『世界の中心で、愛をさけぶ』を書いていただけませんか?」みたいなお願いの仕方をしたんです(笑)。

──わかりやすいですが、なかなか無茶なお願いですね(笑)。

ですよね(笑)。でも、最初に歌詞を読ませていただいたとき、同じ風景を見ているはずなのに言葉の使い方はもちろん、当然ながら表現の仕方も全然違っていて、アカデミックで叙情的で本当に小説を読んでいるようでした。僕は「この歌を歌いたい」と素直に思いました。

──歌ってみた感想は?

「この曲は10年くらい前からの自分の持ち歌のような気がする……」という言葉が思わず漏れました。同じ景色を共有しているのはもちろんなんですが、何よりお互いの中に「良い作品を作りたい」という強い思いがあることを感じたからこそ、フィット感もあってシンパシーを感じたんでしょうね。

歌詞の中で光輝く言葉を見つける、それはまるで宝探しのようなもの

──今回コラボレーションした方々はどんなふうに決めたのですか?

僕が憧れている方はもちろんですが、「上質なJ-POPを作る」にふさわしい方を制作チームから推薦してもらったりして、チームで決めていった感じです。プロデューサーの藤井さんと合致したのは、J-POPの王道を知っていて、一時代を築いた人である大江千里さんにはぜひお願いしたいということでした。僕もずっと大江さんの楽曲を聴いて育ってきてますし、憧れはもちろん、こうして音楽に携わるようになってから改めて聴くと、メロディだけでなく、言葉の選び方が本当に素晴らしいんです。すごく勉強させてもらいました。

──大江さんは現在ニューヨーク在住ですよね。

そうなんです。だから打ち合わせはもっぱらSkypeでやりました。まるで音楽の先生の講義を受けているみたいに、僕はずっと大江さんがしゃべっていることをメモってました(笑)。まさに歌詞における言葉のプロフェッショナルです。その言葉が持っているトーン、色彩感をとても理解されていて、そういう言葉探しを突き詰めているんですね。歌詞を書くにあたっての心構えから教えていただいて、今もそのメモを読み返すことがあります。

──どんな内容だったのか、ぜひ教えてください。

例えば「聴き手にパッとインスピレーションが沸くような、奇抜であり、それでいてフィットする言葉を見つけるのは宝探しみたいなもので、自分たちはずっと金貨を探しているんだよ」と。最初は見つけやすいところにあるけれど、たくさん曲を作っていくとそれがどんどん減っていってしまう。でも諦めずにどんどんどんどん深い所を掘って、とにかく掘ってその金貨を探すんだよ、という話を聞いてすごく納得しました。俺まだ10年しかやってないし、もっともっと金貨があるはずだからがんばれるはずだ!みたいな(笑)。素晴らしい経験をさせてもらいました。

──「ROCK'N ROLL STAR」はキリンジの堀込高樹さんが作詞を担当されていますね。

僕自身は直接接点がなかったのですが、共通のスタッフがいたり、元々キリンジさんが大好きで音源はもちろん、ライブにも行かせてもらっていたので名前が挙がったときには「ぜひともお願いしたいです!」と即答しました(笑)。楽曲もちょうどシニカルな雰囲気の音が上がっていたのでピッタリだと思ってお願いしたのですが、ピッタリどころかまさに希望どおりの歌詞を書いていただけました。

──大石昌良らしい“ROCK'N ROLL STAR”になってますね(笑)。

曲ができたときから「ロックンロールスター」という言葉が一緒に出てきていたので、それはお伝えしました。そこからこの曲の世界観を広げていただいたんですが、音楽とともに出てくる言葉のピースってホントに大事なんですね。みんなその言葉の大切さを知っている方たちだから、採用してくれるんです。

ニューアルバム「31 マイスクリーム」 / [CD+DVD] 2012年1月25日発売 / 2800円(税込) / Happy Music Records / CYCL-60022

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CD収録曲
  1. ストーリー
  2. されど空の青さを知る
  3. 海を見ていた ぼくは
  4. ワンダーランド
  5. ROCK'N ROLL STAR
  6. トライアングル
  7. 東京ループ
  8. 終わらないララララ
  9. 手紙唄
  10. さよなら、もう行かなくちゃ
DVD収録内容
  1. 海を見ていた ぼくは
  2. ストーリー
  3. 東京ループ
32 マイスクリームツアー Acoustic Scream
  • 2012年2月4日(土)
    愛媛県 松山Monk
  • 2012年2月5日(日)
    香川県 高松SUMUS Cafe
  • 2012年2月11日(土・祝)
    福岡県 福岡ROOMS
  • 2012年2月12日(日)
    広島県 広島LIVE CAFE Jive
  • 2012年2月18日(土)
    北海道 札幌くう
  • 2012年2月19日(日)
    宮城県 仙台FLYING SON
  • 2012年2月24日(金)
    石川県 金沢もっきりや
32 マイスクリームツアー Band Scream
  • 2012年3月2日(金)
    愛知県 名古屋ell.FITS ALL
  • 2012年3月3日(土)
    大阪府 心斎橋BIG CAT
  • 2012年3月9日(金)
    東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
チケットはこちらから
大石昌良(おおいしまさよし)

アーティスト写真

愛媛県宇和島市出身のシンガーソングライター。大学の軽音楽部の仲間である川原洋二、沖裕志とともに1999年に結成したスリーピースバンド、Sound Scheduleでボーカル&ギターを担当する。2006年にSound Scheduleが解散してから、2008年にシングル「ほのかてらす」でソロデビュー。2011年にはSound Scheduleの5年ぶりの復活でも話題を呼んだ。2012年1月に通算3作目のソロアルバム「31 マイスクリーム」をリリースする。