ナタリー PowerPush - 大石昌良
飽くなき探究心と豪華コラボが生んだ「極上のJ-POP」
大石昌良が3枚目のオリジナルアルバム「31 マイスクリーム」を1月25日にリリースする。ソロワークを始めて3年目の2011年は彼にとってまた大きな転機となったに違いなく、彼の中に生まれたたくさんの思いが、ひとつはSound Scheduleの復活という形で、そしてもう1つはこのアルバム「31 マイスクリーム」に集約されたと言っていいだろう。
自分の人生を色濃く彩った愛媛県宇和島市の風景を歌にした1stアルバム「あの街この街」。大学生時代を過ごした神戸をモチーフに、バラエティ豊かに、まるで遊園地を思わせるかのごとく自分の中に存在する音楽の可能性をそのまま表現した2ndアルバム「G.D.アトラクション」。大石昌良は優れたボーカリストであり、またアコースティックギターの名手であると同時に、セルフプロデュースで制作過程の全てをコントロールできる優秀なクリエイターである。
その彼が今回選んだコンセプトは「コラボレーション」。作詞を第3者に依頼するという、大石昌良史上初の手法で臨んだ意欲作だ。今回のインタビューではこの「31 マイスクリーム」にかけた思いを彼に語ってもらった。
取材・文 / 金丸優子
極上なJ-POPを作りたい、それが一番の狙い
──アルバムの制作が始まったのはいつ頃ですか?
具体的に動き出したのは2011年に入ってからでした。前作「ダイヤモンド」のときにお世話になった藤井丈司さんをプロデューサーに迎えアルバム制作チームができました。スタッフ全員が「極上のJ-POPをつくりたい」という方向性で一致していて、そのメンバーでどういうアルバムを作るか、どんなコンセプトにするか、どうやってそれを形にするか話し合いを重ねる中で、あるとき「一緒に作品を作るなら誰を思い浮かべるか」という話になって、僕が片山恭一さんの名前を挙げたんです。
──小説「世界の中心で、愛をさけぶ」の作者・片山恭一さんですね。
はい。実は片山さんとは同郷なんです。「世界の中心で、愛をさけぶ」を読んだときに気がついたんですが、自分の知っている場所や風景が盛り込まれていて、小説の中で具体的にそれがどこなのかは書かれていなかったんですが、「多分その辺りに詳しい方なんだろうな」と思ったんです。片山さんのプロフィールを拝見したらやっぱり出身が宇和島だということがわかって、そのときからずっと「いつかご縁があったら一緒に何か作りたい」と心の奥で思っていました。その話をしたら「だったら歌詞を書いていただけないかお願いしてみようよ」という話になって(笑)。
──それが実現したと。
そうなんです。ダメかもしれないと思いつつ、手紙をお送りしたところ快く引き受けてくださって。それが今作のコンセプト「コラボレーション」のベースになった大きな出来事でした。
──コラボレーションとはいえ、シンガーソングライターの大石昌良が作詞を第3者に依頼するというのは全く予想外でした。
確かにこれまで作詞・作曲は全て自分でやってきたので、そのスタイルにこだわっていた部分もありました。反面、それにこだわりすぎてかたくなになってしまったり、意固地になってしまったりするのは良くないと思っていて、自然と流れに乗った感じなんです。チームで制作するプロセスにも興味がありましたし、新しい試みにチャレンジすることに抵抗はなかったですね。新しい発見があることのほうが楽しみでした。「極上のJ-POP」を作るというテーマのもと、片山さんとのお仕事が成就したのをきっかけに他の方々にも作詞をお願いしてみようということになって、コラボレーションがこのアルバムのもう1つのコンセプトになりました。
──極上のJ-POPとは具体的に説明すると?
「一聴しただけでエネルギーが感じられて、みんなの心に届いて、それがしっかり浸透していくのがわかる音楽」みたいな感じかな。今回のアルバムはそれを追い求めて作った曲たちが並んでます。
バンドのボーカルとソロボーカリストの立ち位置について
──2011年はSound Scheduleが5年ぶりに復活し、それも新曲を携えてツアーをするという活動もありました。
ありがたいことです。各会場ともソールドアウトで、お客さんがたくさん集まってくれて正直ホッとしました(笑)。こういうチャンスをもらえてホントにうれしかったです。震災があって日本が大変な状況になったのを受けて、僕はしばらく音楽に向きあうことができない時期がありました。情報を発信することも、曲を作ることもできなくて。無理して動くよりもそのほうがいいという判断をしたんですが、どんどん「何もしない」という状況になってしまっていたときに、今回のサウスケプロジェクトを動かそう!ソロアルバムの制作も予定どおり進めよう!と声をかけてもらって、こうして今を迎えることができています。ホントにありがたいことでした。
──「もっとバンドの活動をしてほしい」という声や、大石昌良がなぜソロワークにこだわるのか聞いてみたい人も多いのではないかと思います。
基本的にバンドだからできること、バンドではできないことがありますからね。もちろんソロも同じです。今回のサウスケプロジェクトで改めて気付かされたことがたくさんありました。応援してくれるファンの皆さんと一緒に盛り上がるのは本当に楽しいですし、もちろんまたチャンスがあるならばやりたいです。でもバンドの場合はそこで自分を表現するというより「3人で1つ」なので、楽曲もアレンジもバンドのものです。その一方で僕自身の全てを表現できるのがソロワークなんですね。僕は「歌い手」でありたい。シンガーとしてのスキルを十分に発揮できるような音作りや曲作りをしていきたいし、自分の中に歌い手としての理想像があってそこに向かって努力をしているつもりです。バンドのボーカルはその一部ではあるけれど、決して全部ではないというか。ソロであれ、バンドであれ、自分を表現できる場所がたくさんあったほうが、きっとこの先僕はずっと熱く燃え続けられるかなと思っているんです(笑)。
──そもそも歌い方が全然違いますよね。
歌い方も声の出し方も違います。バンドの場合はサウンド感に合わせてかなり声を張って出していますが、ソロの場合は肩の力も抜けていて、ピークポイントも少し下げて、なおかつ声のトーンや質で歌を伝えようとしています。僕はそれがシンガーの在り方だと思っているし、そうでありたい。どちらがイイという話ではなく、今作ではもちろんSound Schedule時代から応援してくれている方々にも聴いていただきたいし、同時にソロの大石昌良として初めて出会う方たちにも良質なポップスが届けられたらと思ってがんばっているわけです(笑)。
──両方のプロジェクトが並行して動いていたので、当時はスケジュールが相当大変だったと聞いていましたが。
もうね……、がんばりましたよ。ソロアルバムの制作は僕が中心で動くものなので、サウスケのツアーを回りながら打ち合わせして、レコーディングして、リハーサルが終わってから事務所に戻ってミーティングしたり。時間的にもハードでしたが、同じ音楽とはいえ、成り立ち方が全く違うものを並行して進めていたのでパツンパツンでした(笑)。どちらもこうして完成を迎えてホッとしてます。
CD収録曲
- ストーリー
- されど空の青さを知る
- 海を見ていた ぼくは
- ワンダーランド
- ROCK'N ROLL STAR
- トライアングル
- 東京ループ
- 終わらないララララ
- 手紙唄
- さよなら、もう行かなくちゃ
DVD収録内容
- 海を見ていた ぼくは
- ストーリー
- 東京ループ
32 マイスクリームツアー Acoustic Scream
- 2012年2月4日(土)
愛媛県 松山Monk - 2012年2月5日(日)
香川県 高松SUMUS Cafe - 2012年2月11日(土・祝)
福岡県 福岡ROOMS - 2012年2月12日(日)
広島県 広島LIVE CAFE Jive - 2012年2月18日(土)
北海道 札幌くう - 2012年2月19日(日)
宮城県 仙台FLYING SON - 2012年2月24日(金)
石川県 金沢もっきりや
32 マイスクリームツアー Band Scream
- 2012年3月2日(金)
愛知県 名古屋ell.FITS ALL - 2012年3月3日(土)
大阪府 心斎橋BIG CAT - 2012年3月9日(金)
東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
チケットはこちらから
大石昌良(おおいしまさよし)
愛媛県宇和島市出身のシンガーソングライター。大学の軽音楽部の仲間である川原洋二、沖裕志とともに1999年に結成したスリーピースバンド、Sound Scheduleでボーカル&ギターを担当する。2006年にSound Scheduleが解散してから、2008年にシングル「ほのかてらす」でソロデビュー。2011年にはSound Scheduleの5年ぶりの復活でも話題を呼んだ。2012年1月に通算3作目のソロアルバム「31 マイスクリーム」をリリースする。