自分にとって大事なのは音しかないんだな

──公開中の映画「AMY SAID エイミー・セッド」に、テーマソング「AMY SAID」を提供するのみならず出演もされていますね。どんな映画なんでしょうか？

うちの事務所の設立25周年記念企画で、簡単に言うと群像心理劇です。学生時代の仲間たちが20年後に同窓会を開くんですけど、在学中に自殺してしまった1人の女の子のことをきっかけに、それぞれの過去と向き合うという。僕は本人役で、大橋トリオでありながら吉祥寺のサムタイムっていうジャズクラブのオーナーでもあるんです。ブルーノートで誰かのライブにゲスト出演していて同窓会には出席していないんですけど、あとから店に戻って、ピアノを弾きながら歌うシーンがあります。

──映画の中で演奏するというのはどんな経験でしたか？

2004年に「この世の外へ クラブ進駐軍」という映画に出て村上淳さんにピアノを指導したのがプロミュージシャンになるきっかけだったので、映画出演は初めてじゃないし、MVや特典DVDのショートフィルムでも、小芝居は経験しているんです（笑）。でも今回の撮影は、周りはプロの役者さんばかりで、僕はいち音楽家でしかないなって改めて痛感しました。役者さんはすごいなって思います。たぶん向こうも「音楽家はすごいな」って思っているんでしょうけど。

──もともと映画音楽をやりたくて音楽家を志したそうですし、最近のインタビューでも映画音楽への興味を語っていますよね。

映画音楽は何度かやらせてもらったんですよ、本名の大橋好規として。ただ本当にやりたいのは、誰の指図もなく自分が思うように作ることなんです。指示を受けながらだと、どうしても作るもののパターンが決まってしまうので。最近海外ドラマをよく観ますけど、やっぱりお金と時間のかけ方がすごいですよね。圧倒されます。

──ガイドになるものがあったほうが曲を書きやすい、みたいなことはありませんか？

それはあります。映画音楽で慣れているから、とかじゃなくて……いや、それもあるのかもしれないな。僕は「曲を聴いていると映像が浮かぶ」って言われることがよくあるんですけど、無意識でそうなるようにしているのかもしれない。

──作曲するときにビジュアルのイメージが浮かんでくることは？

あまりないですね。僕はあくまでも音楽を作る人なので、音で感動したいんですよ。自分が感動する、高揚するものを作りたい。それは映像とはつながっていなくて。歌詞も書かないし、自分にとって大事なものは音しかないんだなって思います。

ルーファス・ウェインライトのライブは人生で一番の衝撃

──音のどういう部分に感動し、高揚しますか？

メロディ、コード、グルーヴ。あと音質ですね。音質がよければ、案外ダメな曲でもカッコよくなる（笑）。なので自分の作品でもそこにはこだわっています。限界はありますけど、できる範囲で。ありふれたJ-POPの音からは一線を引きたいと常に思っています。

──「あれはすごかったな」と思い出すような音楽体験ってありますか？

コンサートで言うと、2008年の1月に東京国際フォーラムのホールCで見たルーファス・ウェインライトがすごかったですね。何も前情報がなくて、「チケット余っているけど」って誘われて暇だったから行ったんですけど、人生一のライブだったって言えるくらいすばらしかった。自分もこれを目指そうと思いました。けっこうな大所帯で、本人のピアノとドラム、ベース、ギターは2人いたかな。あと3人のホーン隊。ホルンとトランペットと、あとサックスやクラリネットなどの木管担当ですね。全員いろんな楽器ができるんですよ。さっきまでギターを弾いていた人がピアノを弾き始めたらめちゃくちゃうまかったり、ホーン隊がみんなでコーラスするんですけど、それもすごくうまくて。日本のアーティストでそこまでできる人って、いないんですよね。僕はいろんな楽器をやるようにしていて、マルチプレイヤーって言っていますけど、サポートメンバーにもそうあってほしいんです。ルーファスのバンドメンバーを見ちゃっているから、「目指すならそこでしょ」と。今集めているメンバーは、やれることの幅がなるべく広い人で固めるようにしています。

──アメリカのミュージシャンっていろんな楽器ができて、何をやらせてもうまい人がたくさんいますよね。日本とは何が違うんでしょうか。

底辺が広いんでしょうね。人数が多いから、厳選すればうまい人ばっかりになる。あとたぶん、いろんな楽器ができて当たり前の文化と言うか、楽器と親しんでいるんですよね。ブルーグラスのミュージシャンって全部の楽器ができる人がほとんどなんですよ。ギターがめちゃくちゃうまい人がマンドリンに持ち替えたらそれもめちゃくちゃうまくて、フィドルも弾くし、ドブロもバンジョーもうまいし、歌もものすごくうまい。そんな人ばっかりですから。