大橋トリオのデビュー10周年を記念した配信シングル3カ月連続リリース企画を締めくくる「鳥のように」は、10月1日にリニューアルしたTBSテレビ系「世界遺産」の新しいテーマソングだ。この曲は「ファミリー感」「明るく色彩ある楽器編成」「ポップさ」という番組側からのオーダーを受け、大橋が「やさしく楽しい」をテーマに作った作品。音楽ナタリーでは今回、この配信シングルに関するインタビューを大橋に実施。新曲についてのみならず、彼が出演した公開中の映画「AMY SAID エイミー・セッド」のことや、衝撃的な音楽体験、ユニークな音楽性の理由など、話題は多岐に及んだ。

取材・文 / 高岡洋詞

「ポップスで」って言われて「あ、そっちか！」って

──「世界遺産」はご覧になっていましたか？

初期、夜遅い時間にやっていたときはよく観ていました。大学生ぐらいのときだったと思うんですよね、始まったのが（1996年放送開始）。その頃は「いつかこの番組のテーマ曲を作れる日が来ないかな」と思っていましたね。

──お話が来たときは感慨深いものがあったのでは？

ありました。だから当時の印象で、最初は荘厳なインストを作っていたんですけど、あとから「大橋トリオらしいポップスを」というオファーだったことを知って作り直したんですよ。「そうじゃなくて、ポップスで」って言われて「あ、そっちか！」って。ワールドミュージック感は何かしら出したいなって思って作りました。

──タブラやシタールの音が入っていますね。

マンドリンとかジャンベも入れました。さりげなくですけど。ほかにもアフリカ系の鳴り物をいろいろ入れたので、よく聴くと変わった音が随所に入っていると思います。

──歌詞は作詞家のmiccaさんにお任せですか？

そうです。人々がいて、その上に歴史があって……みたいな僕のイメージを言葉にするのは難しかったと思いますけどね。そのイメージを“旅”っていうテーマに着地させたんだと思います。たぶん曲調の影響もあるんじゃないかな。

音楽を作るのはものすごいことだって再認識しないと

──大橋さんは世界遺産に行かれたことは？

海外はモロッコのマラケシュ旧市街とヴォルビリスの遺跡ぐらいですね。国内だと厳島神社や原爆ドーム、もちろん京都にも行ってます。歴史ってだいたいが血塗られているじゃないですか。そのせいか、歴史的な場所に行くと血の気配を感じることが多いです。戦跡も多いし。今は、海外はともかく国内に関して言えば平和ですけどね。

──平和と言えば、番組からのオーダーについて「『音楽で世界を平和にしたい』という私の大テーマと共通する」っておっしゃっていますよね（参照：大橋トリオがTBS「世界遺産」テーマ曲を担当）。

「音楽で世界を平和にしたい」って、昔よく言っていたんですよ。音楽は世界共通だし、言葉とか行動よりも速く伝わるだろうからって。メロディとかコードで人の心を変えることができるはずだって思っていたんです。最近はその思いが薄れてきてしまって、だんだんと「平和に～」とは言わなくなっていたんですけど、昔は会う人、会う人に言っていましたね。このコメントに関しては、世界遺産という大きなテーマがあるので「そう言えば……」と昔の話をしたのがクローズアップされちゃって（笑）。

──音楽で世界平和、素敵じゃないですか。どうして思いが薄れていたんですか？

世界が平和にならない理由はもっと根が深くて、そんなに簡単なことじゃないという現実を目の当たりにしたからです。それでしばらくそういう考えを封印しようと思ったんですけど、心のどこかにはずっとあって、これを機に思いを復活させようかなって気にはなっています。

──すばらしい。まさにおっしゃった通り、音楽は感覚や官能に訴えるものだから、話をするよりも早く伝わりますからね。よくも悪くも。

そうなんですよ。しかも目に見えないものじゃないですか。空気の振動だから。絵画や彫刻もアートだけど、実体がある。目に見えない、触れないアートって音楽だけだよな、と思うと、自分がやっていることって、ものすごいことのはずなんですよ。それを再認識しないとな、と。