大橋彩香「Please, please!」発売記念企画|7つのキーワードでパーソナリティと魅力に迫る (3/3)

キーワード5:ボーカル

──大橋さんはご自身のボーカルに関して、たびたび「説得力を持たせたい」とおっしゃっていますね。

昔は「おっきい声で歌えば上手!」みたいな、よくわからない自信に満ちあふれていたんですけど、それこそ東方神起を聴くようになってから考え方が変わって。それまではバラードというものをちゃんと理解していなかったというか、ロック系のバラードしか聴いてこなかったから、声を張ってエモーショナルに歌うのが正義だと思っていたんです。でも東方神起のバラードを聴いて「あ、ちっちゃい声で歌っていいんだ?」と、ウィスパーボイスで歌うエモさもあるということを実感して。それ以降、ほかのアーティストのバラードも聴くようになったし、カラオケでも、以前は「絶対にバラードは歌わない」というポリシーがあったんですけど、バラードも歌うようになって少しずつ表現の引き出しが増えていった気がします。やっぱり2018年ぐらいを境にだいぶ変わりましたね、うん。

──例えば2枚のアコースティックミニアルバム「Lumière」(2021年12月発売)と「Étoile」(2022年4月発売)は、その「引き出し」のショーケースみたいな側面もあるように思います(参照:大橋彩香「Lumière」インタビュー)。

でも、今思うと別の歌い方もできた曲もいくつかありました。ちょっと寝かすと「ああ! こうすればよかった!」という発見と後悔もあって。

──それは悪いことではないのでは? 自分の中にまだ選択肢があるわけですから。

あー、確かに。じゃあその悔しさは、また次の機会に生かします。やりたい表現はいっぱいあるのに技術が追いつかなくて、自分が想像している声と出てくる声が違っちゃうんですよ。だから「この声を出したいのに、出せない……」みたいな、むずがゆい思いをすることが多くなりましたね。でも、昔はそんなことに気付きもしなかったので、気付けるようになった分、少しは視野が広くなったのかなって。さっきも言ったように、前は「おっきい声で歌えたから満足!」と思っていたんですけど、今は「全部おっきい声で歌って、一本調子じゃん」と落ち込むし、着眼点が変わってきました。うん、もはや一本調子恐怖症ですね、芝居も歌も。

大橋彩香

──ニューシングルの話をすると、表題曲「Please, please!」とカップリング曲「LITTLE・LOVE・GHOST」は、声の出し方も歌い方もまったく違いますね。特に「LITTLE・LOVE・GHOST」は新機軸というか、大橋さんは過去にEDM的な曲は歌ってきましたが、こういうディスコナンバーは初めてでは?

そうかも。数曲ある中から選ばせていただいたんですけど、ちょっとスパイものっぽい雰囲気もあり、こういう曲は歌ったことないなと思って。

──ボーカルも低めのキーで、ややルーズでやさぐれ感もあり、カッコいいです。

わあ、うれしい。曲調に合った声を出したくて、めちゃめちゃラブソングだけれども、ボーカルは若干ロック寄りで、地声に近い感じで歌いました。ちなみに「LITTLE・LOVE・GHOST」の読みは「リルラブゴースト」なんですよ。こちらから言わないとわからないやつなんですが(笑)。表題の「プリプリ」(「Please, please!」)もラブソングなんですけど、方向性が全然違っていて。

──ただ、歌詞には共通点がありますよね。どちらも一途、あるいは余裕がない感じ。

そう、余裕がない。「LITTLE・LOVE・GHOST」はちょっとわがままで強気な女の子が、相手のことを好きすぎて生き霊を飛ばしちゃう曲で。そこそこ重いし、よくよく考えるとゾワっとしますね。生き霊を飛ばすにはすごいエネルギーが必要で、飛ばされた側はもちろん飛ばす側も体調が悪くなるらしいので、代償も大きくて。誰も得しないんですけど、命を燃やして恋愛している歌です。

キーワード6:リベンジ

──このキーワードは「Please, please!」がオープニング主題歌に採用された「政宗くんのリベンジR」に紐付いたものですが、大橋さんがリベンジしたいことはありますか? 英語の「revenge」は「復讐」を意味するわりと物騒な言葉なので、本来の意味とはズレて定着している「再挑戦」でも構いません。

生まれ変わるぐらいの勢いの話なんですけど、もうちょっと早く声優デビューして、もうちょっと長い間、若い状態で活動したいです。

──大橋さんは17歳で声優デビューしているので、十分早いのでは?

そうなんですけど、13歳ぐらいからやりたかったなって。特に女性声優は、オーディションによっては年齢制限がある場合もあって、この歳になるとそういう壁も立ちはだかってくるんですよ。

──声優としてのキャリアをやり直したいとか、そういう意味ではない?

ないです。今のキャリアには、100%満足はしていないけれど、納得はしているので。あ、でも仮に13歳でデビューしたら中高の学校行事に思うように参加できなくて、今度は「学校生活にリベンジしたい」とか言いだすかも。私は修学旅行とか、「行事」と名の付くものはほとんど網羅したので、学校生活は満喫できたんですよ。その経験がお芝居に生かされている部分もあるから、やっぱり早くデビューしなくていいか……。

──別のリベンジにします?

うーん、私は中高一貫の女子校に通っていたので、共学校に行ってみたい……いや、女子校もすごく楽しかったな。誰の視線も気にしなくていいから、普通にスカートの下にジャージを穿いていましたし、ラフな友達付き合いもできたし。でも、学園ラブコメとかのお芝居をやるときにちょっと苦労するんですよね。同じクラスに好きな人がいるとか、恋のライバルが学校内にいるとか、そういうのがあんまりピンとこなくて。

──「政宗くんのリベンジR」も学園ラブコメですね。

そうそう。じゃあ、リベンジは「共学校に進学する」にします。少女マンガを読んでいて、放課後に制服デートしたり、自転車で2人乗りしているシーンが出てくるとうらやましくて。最近はうらやましすぎで読めなくなっちゃったので、学校生活をやり直して克服したいです。

キーワード「リベンジ」に合わせてファイティングポーズを取る大橋彩香。

キーワード「リベンジ」に合わせてファイティングポーズを取る大橋彩香。

──共学校における恋愛のありようがよくわからないとはいえ、「Please, please!」を歌うのに支障をきたしたりは……。

しないですね、特には。恋をしたときの、好きな人のことしか見えなくなっちゃう感じは私もわかるので。もともと私は小学生の頃から、自分にとって大事な人に対して「あなたがいない世界では、生きていけません」と思ってしまうタイプなので、そういう感情を込めさせてもらいました。それに「プリプリ」の歌詞は、アニメで私が演じているヒロインの安達垣愛姫の気持ちに寄り添っていて。もちろん大橋彩香名義の曲は大橋彩香として歌っているんですけど、愛姫を演じている分だけ歌詞の世界に入り込みやすかったというのもあります。

──「Please, please!」は、かつて大橋さんが歌ったアニメ第1期のオープニング主題歌「ワガママMIRROR HEART」(2017年1月発売の5thシングル表題曲)を踏襲するようなアッパーかつセンチメンタルな楽曲です。

はい。また新しいブチ上げ曲が誕生しました。

──ボーカルも頭サビの絞り出すようなファルセットから、先ほど言った余裕のなさや必死さが感じられて、曲調にも歌詞にもフィットしていますね。

やった! まあ、キーが高くて本当に必死だったというのもあると思います。キーチェックのときにちょっと下げて歌ってもみたんですけど、やっぱり高いまま歌うのがエモくていいんじゃないかと思って。それがうまく作用していたのだとしたらうれしいです。

──作曲クレジットにKanata Okajimaさんの名前がありますが、Okajimaさんは数々の大橋彩香楽曲の作詞作曲を手がけてきた方なので、大橋さんのギリギリを知っているのかなと。

うんうん。がんばればいける、本当にギリギリのラインですよね。「ダイスキ。」(2019年8月発売の9thシングル表題曲)もそうだったんですけど、私のギリギリを生かそうとしてくださっているのを歌っていて感じました。あと、最初は「無理!」って思うのに、時間が経つと歌えるようになっているのがいつも不思議なんですよね。

キーワード7:未来

──大橋さんは石橋を叩きに叩くタイプで、以前インタビューで老後の心配などもしていましたが、自分の未来についてどんなことを考えていますか?

未来か……この業界で、生き残ること。それだけですね。いつ自分の名前が「声優名鑑」から消えるのか、その不安に苛まれながら生きていて。

──聞くところによると、「声優名鑑」は事務所が更新を忘れなければ大丈夫みたいですよ。

あ、じゃあこのまま更新を続けていただいて。私は声優としてお墓に入れればもう何も言うことはないので、ずっと声優でいられる未来があったらいいな。もちろんそれは声優業が楽しいからなんですが、昔から一度始めたことはやめたくないという、負けず嫌いなところもあって。いや、習い事とかはホイホイやめちゃうんですけど、仕事として始めたことは最後までやり遂げたい。生涯、声優がいいです。

──アーティストとしての未来については?

これからもいろんなジャンルに手を出していくだろうし、歌い方とかも変わっていくでしょうね。歌はずっと歌っていけるものだけど、自分の年齢に合った歌だったり、ある年齢のときにしか届けられない歌もあると思っていて。ファンのみんながお墓に入るまで寄り添えたら最高ですけど、一時でもみんなと人生をともにできるような歌を歌っていけたらいいですね。

大橋彩香

プロフィール

大橋彩香(オオハシアヤカ)

1994年9月13日生まれの声優アーティスト。2011年開催の「第36回ホリプロタレントスカウトキャラバン~次世代声優アーティストオーディション~」でファイナリストに残ったことをきっかけに声優デビューを果たし、「アイカツ!」「ドキドキ!プリキュア」「アイドルマスター シンデレラガールズ」「BanG Dream!」「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」「THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール」「ウマ娘 プリティーダービー」など人気作でメインキャストを務める。2014年8月には自身がメインヒロイン・園川モモカ役を担当するアニメ「さばげぶっ!」のオープニングテーマ「YES!!」でアーティストデビュー。2020年12月に3rdアルバム「WINGS」をリリースし、2021年5月に本作を携えて千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールで初のアリーナライブを開催した。2021年12月に「Lumière」、2022年4月に「Étoile」と題したアコースティックミニアルバムを連作で発表。さらに4月にテレビアニメ「史上最強の大魔王、村人Aに転生する」のオープニング主題歌「Be My Friend!!!」を表題曲としたシングルをリリースした。2023年7月に自身がヒロイン役を務めるテレビアニメ「政宗くんのリベンジR」のオープニング主題歌「Please, please!」をシングルとしてリリース。パーソナリティを務める番組「大橋彩香のAny Beat!」が文化放送で毎週日曜に放送されている。