大橋彩香「Please, please!」発売記念企画|7つのキーワードでパーソナリティと魅力に迫る (2/3)

キーワード3:ソロアーティスト

──キャラソンに苦労したとのことですが、それを経て2014年にアーティストデビューした際は「これで自分らしく歌える!」という感じだったんですか?

いや、最初は「わ、どうしよう!?」という感じでした。歌は好きなんですけど、人前で歌うのがそんなに好きじゃなくて。だからカラオケも1人で行っていたんです。そのうえ「自分の歌は、人様からお金を取るに値するものなのか?」と萎縮していた部分もあったんですけど、「PROGRESS」(2018年5月発売の2ndアルバム)あたりから心持ちが変わって、すごく前向きに活動できるようになりました。

──けっこう長い期間、悩んでいたんですね。「PROGRESS」前後で何か吹っ切れるきっかけがあったんですか?

たぶん、東方神起と三浦大知さんが好きになったことが大きいと思います。私、影響されやすいから(笑)。それまではライブの演出とか、どういう曲を歌いたいかということについて自分から特に何も言っていなかったんですけど、この2組のパフォーマンスに憧れるようになってから、急にいろいろ意見を言うようになって。例えば「もっとダンスをがんばりたい」と言ってダンス曲を作ったり。東方神起の映像作品もチェックしていて、メイキング映像でお二人のプロ意識の高さや人柄のよさに感化されて「私もがんばろう!」という気持ちになりました。

──大橋さんはデビューから一貫して“明るく元気”というスタイルで活動していますが、それはもともと目指していたアーティスト像だったんですか?

いや、どうだろう? やっぱりヘビーめなロックを聴いて育ったこともあり、最初はわりとカッコいい系の楽曲に興味があったんです。でも、スカウトキャラバン(2011年に開催された「第36回ホリプロタレントスカウトキャラバン~次世代声優アーティストオーディション~」)で歌った曲が麻生夏子さんの「Perfect-area complete!」で。そのときの明るく元気な感じのアプローチが、ソロアーティストとしての私のイメージに合っていると判断されたんでしょうね。そもそも私、スカウトキャラバンではFaylan(当時は飛蘭)さんの曲を歌う予定だったんですけど、「彩香はカッコいい系よりも、笑顔が映える曲のほうが似合うから」と人から助言されて、麻生さんの曲に変更したんですよ。

──へええ。

だからアーティストデビューした当初は若干、自分がやりたかった方向性とは違うと感じていたんですけど、今考えるとそれでよかったなって。実際にやってみて、私は“カッコいい”よりも“明るい”を体現するほうが得意だと気付いたし、ファンレターで「大橋さんの曲を聴いて元気が出ました」「ちょっと嫌なことあったけど、乗り越えられました」とか「受験に合格しました」「就職できました」というメッセージをもらって、私も「みんなのためになってよかったな」と思えたんです。そういうのも積み重なって、自分なりにアーティスト活動をやる意味を見つけられたというか……いや、今でも自分は歌がうまいとは思っていないんですよ。でも努力はしているし、がんばって歌った歌で聴いてくれた人の心をほんのちょっとでも動かすことができたのがすごくうれしかったんですよね。

デビューシングル「YES!!」を手に取る大橋彩香。

デビューシングル「YES!!」を手に取る大橋彩香。

──“明るく元気”というのは、当初はレーベルが敷いたレールではあったけれども。

当時はまだ19歳で右も左もわからなかったので、むしろ最初にレールを敷いてもらって正解だったと思いますね。その後、さっき言ったように「PROGRESS」あたりから私も自己主張するようになり、少しは“アーティスト”に近付けたかもしれない。その頃から音楽的にもいろんなジャンルに挑戦するようになったんですけど、根幹にあるのは変わらず“明るく元気”なんですよ。どんな形であれ、みんなに笑顔になってほしいから。

キーワード4:変化

──今おっしゃった通り「PROGRESS」あたりから、さまざまなタイプの楽曲を歌うようになりましたね。

年齢を重ねて、自分のやりたかったジャンルに身の丈が合うようになってきたんだと思います。例えば19歳でいきなり暗い曲を歌っても説得力が出せなかったと思うんですけど、ようやく人生経験が追いついてきて。「PROGRESS」のときはめちゃくちゃK-POPを聴いてましたし、そのときハマっていた音楽の影響が、特にアルバムには色濃く出ていますね。

──ジャンル的なところでいうと、「Be My Friend!!!」(2022年4月発売の11thシングル表題曲)は大橋さんのルーツに通じるゴリゴリのメタルでした(参照:大橋彩香「Étoile」「Be My Friend!!!」インタビュー)。その一方で「#HASHTAG ME」(2021年8月発売の配信限定シングル)ではラップにも挑戦していて(参照:大橋彩香 a.k.a HASSY「#HASHTAG ME」インタビュー)。

うんうん。でもラップは、以前の自分だったら絶対にやらなかったであろうジャンルで。K-POPを聴くようになってから徐々にラップも好きになっていったんですけど、それまではLinkin Parkのラップしかちゃんと聴いたことがなかったし、J-POPだとラップパートがある曲は避けていたぐらいで。なぜなら、カラオケで歌えないから。自分が歌えない曲は聴かないという謎のポリシーがあったんです。「私はラップができないから、ラップは聴かない」みたいな。いまだにカラオケでは、ラップパートがある曲も歌うけれど、ラップパートが始まったらスッと座って、終わるのを待ってから何事もなかったようにまた歌いだすっていう。

──1人カラオケで、誰も聴いていないのに?

誰も聴いていないのに、ちょっと不発な感じのラップをするのが恥ずかしいんですよ(笑)。しかも私、基本的にメンズの曲しか歌わないから、私がメンズのラップをやると軽くなっちゃうんですよね。今は「ヒプノシスマイク」とかも流行っているので、もし女子ラップコンテンツが出てきたら「はい! 私、ラップできます!」と手を挙げられるようにしておきたいんですけど。

──大橋さんは「#HASHTAG ME」のインタビューで「デビュー当初の“明るく元気”から30歳の“明るく元気”にシフトさせていく必要がある」というお話もされていましたね。

ああ、そうですね。デビュー当初はちょっとアイドルっぽい路線だったんですけど、私はそれを30歳までやれる自信がないので、自分の年齢に合ったエールの送り方を考えていかなきゃいけない。そういう意味では「START DASH」(2020年12月発売の3rdアルバム「WINGS」リード曲)でいい感じにシフトできたという手応えがあって(参照:大橋彩香「WINGS」特集)。それ以前はわりと学生気分というか、チアリーダーがポンポンを振りながら「がんばれ! がんばれ!」と応援しているイメージだったのが、今はもっと本質的な部分に寄り添えるようになってきかも。社会に出ると、本当につらいことがいっぱいあるじゃないですか。

──ありますね。「がんばれ!」と言われることが必ずしも応援にならないつらさも。

そうそう。そういう、つらさの種類に応じた応援ができている気がしますね。だから、私は暗い曲も歌うようになりましたけど、それも応援歌になっていると自分では思っていて。メンタルの状態によって聴きたい曲も変わるし、「今は、明るい曲を聴くと逆につらくなる」というタイミングもあるはずなので、そういうときには暗い曲で応援できたらうれしいなって。まあ、私も今年で29歳なので、実際に30歳を迎えてからどうなっていくのか、見守っていてほしいですね。