正直に言うと、友達が欲しい

──続いてニューシングル「Be My Friend!!!」について伺います。表題曲はかつてないほどヘビーでメタリックなロックナンバーで、今お話をお聞きした「Étoile」とのギャップがすさまじいですね。しかも歌詞の内容は「友達になってください」というもので、そこでもサウンドとのギャップが……。

かなりありますね。もう歌詞とMVはネタに振ったというか、MVが公開される直前に自分のラジオで音源をワンコーラスだけ流したんですけど、みんな「カッコいい！」と盛り上がってくれて。でも、そのあとMVが公開されたら「あれ？」みたいな。友達を作るためにお寺で修行するというMVなんですけど、「ラジオで聴いたときと印象が変わってしまった」と言われるぐらいインパクトのある仕上がりになりました。

──MVで、飲み会に参加した大橋さんが場に馴染めず作り笑いを浮かべるしかなくなっているシーンがありましたが、あそこは胸が痛くなりました。僕もああいう感じになりがちなので。

もうね、できあがったコミュニティに入っていくことほど怖いものはない。お仕事でも、例えば途中から登場するキャラクターを演じる場合、アフレコも途中から参加するのですでに現場ができているんですよ。だから、慣れるまで片隅でポツンとしていることがあります。

──大橋さん自身は友達が欲しいんですか？

欲しいです。やっぱり、いるに越したことはないですよね。私はひねくれ者だから、普段は「いやいや、私は“狭く深く”タイプだし、友達はたくさんはいらないかな」みたいなスタンスを貫いているけれど、正直に言うと欲しい。

──大人になると友達という関係がよくわからなくなってきません？ 学生時代からの友達は「友達」と言い切れますけど。

そうそう。作りづらいし、相手が私のことを友達だと思ってくれているのかもわからないので。私は友達だと思っていても、相手から「え？ “知り合い”じゃないの？」なんて言われたら変な汗かいちゃう。非常にデリケートなテーマですね。

──ちなみに「Be My Friend!!!」はアニメ「史上最強の大魔王、村人Aに転生する」のオープニング主題歌ですが、アニメも友達を作る話なんですか？

タイトルの通り異世界転生モノで、主人公が大魔王なんですけど、彼が転生を決意するきっかけが友達を作りたくなったからで。だからうっかり転生じゃなくて、確固たる意志を持って転生するんです。大魔王なので、どうしても周りの人たちからは一線を引かれてしまうし、お城も広くて寂しいし……みたいな。ただ、転生してからはわりと人に囲まれているので、作品の入り口にフォーカスした楽曲になっております（笑）。

“HASSY”がなかったら撃沈していた

──「Be My Friend!!!」の作詞・作曲・編曲は、先の「Étoile」を手がけたKanata OkajimaさんとMEGさんのコンビに、Hayato Yamamotoさんが加わった形です。繰り返しになりますがヘビーな曲ですね。

私はタイアップ曲に関してはあまり意見しないので、作品側の「オープニングは激しい曲で」という意向に沿った形なんですけど、普段からお世話になっているKanataさんとMEGさんが携わってくださるというので「これは安心でしょう！」と。その予想通りというか、予想を超えてめちゃめちゃ好みの楽曲が上がってきました。

──もともと大橋さんはメタルに馴染みがあったんですよね。お母さんがMötley Crüeをお好きなんでしたっけ？

そうです。KanataさんとMEGさんはBABYMETALの曲も作っていらして、「Be My Friend!!!」もベビメタみがあってテンションが上がりましたし、歌いやすかったです。あ、訂正します。ラップパート以外は歌いやすかったです。

──ラップ、カッコよかったですよ。去年、“大橋彩香 a.k.a HASSY”としてラッパーデビューした経験が生きたのでは？（参照：大橋彩香「#HASHTAG ME」インタビュー）

それは本当にそうで、もしHASSYを経由せずにいきなりこれだったら撃沈していたと思いますね。それでもラップはめちゃめちゃ難しくて、仮歌を歌ってくださったKanataさんに手取り足取り教えてもらいながらレコーディングしました。Kanataさんはラップもお上手なんですけど、「ラップパートの歌詞は全部アルファベットだと思って歌おう」とアドバイスしてくださって。例えば「『一瞬で打ち解ける』の『ける』は『cale』だから」とか。

──面白いディレクションですね。

だから英語をしゃべっているような感覚でラップしましたし、ラップは日本語の発音にとらわれないほうがいいんだなと気付きました。同時に、リズムに乗るという点に関しては、ドラムをやっていて本当によかったなと思いましたね、うん。

──ボーカルスタイルに関しては、例えば先の「ロンリーサンシャイン」のようなキレ気味な歌唱もハマりそうですが、そうではなくわりとカラッとしていますね。それでいてヘビーなサウンドに負けていない。大橋さんらしいバランス感覚だと思いました。

確かに、そんなにやさぐれなかったですね。たぶん、歌詞がやさぐれていないからかもしれないです。主人公然とした感じで、「友達を作りたい」という強い意志に貫かれているので。あと、この曲はもともとラスサビは転調しない予定だったんですけど、私が「転調してもいいですか？」とリクエストしたらこうなっちゃいました（笑）。

「カップリングは絶交の歌がいい」と言った

──そしてカップリングの「Nobody Knows」がですね、表題が「友達を作りたい」という曲だったのに……。

ええ、「Nobody Knows」は友との決別の歌です。

──こちらも作詞・作曲・編曲はKanata OkajimaさんとMEGさんのコンビですが、タイアップがないこともあり、躊躇なく大橋さんのダークサイドに迫っているのかなと。

ちょうど「#HASHTAG ME」のレコーディングをしたあとに「『Be My Friend!!!』のカップリングどうします？」という話になり……あ、タイアップ曲は進行が早いので「Be My Friend!!!」はかなり前に録っていて。そのとき私が「カップリングは絶交の歌がいい」と言ったら、スタッフさんたちはけっこうざわついたんですけど、最終的に「いいよ！」と。それをKanataさんがだいぶオブラートに包んで歌詞に落とし込んでくださいました。

──オブラートに包んでいますかね？ 2番の「元に戻っただけ いつもの暗闇に」などは「Okajimaさん、なんてこと書くの……」と思いましたけど。

そうですね（笑）。確かに深く読むと「うっ……」ってなるんですけど、パッと見ではきれいな言葉が並んでいるというか。楽曲の展開も「序盤はすごく静かで、1番のサビ終わりでパッと盛り上がるのがいい」と私が言ったのを取り入れてくださって。ラスサビも最初はフェイクがなかったのが、さっきもお話ししたように「フェイク入れてください」とお願いした結果がこちらになります。歌詞の最後に「Nobody Knows」という言葉が4つ並んでいるんですけど、それを全部違うニュアンスで歌いたかったんですよ。

──「Étoile」収録の「バカだなぁ」と「NOT YET」の延長で聴ける悲しくも美しいバラードで、大橋さんのバラード表現に磨きがかかっているのを感じます。

本当ですか？ まあ、たった27年ですけど、そこは人生経験を重ねた結果でしょうかね。でも、もともとネガティブな感情を歌うのもすごく好きです。

──以前、「喜怒哀楽でいえば怒と哀に感情移入しやすい」「負の感情のほうが、気持ち的には楽しくてノリノリになれる」とおっしゃっていましたね（参照：大橋彩香「WINGS」インタビュー）。

あー、そうだ。ステージパフォーマンスでは“喜”と“楽”が得意なんですけど、お客さんに姿を見せないレコーディングでは“怒”と“”哀”のほうが歌っていて楽しいですね。なので「Nobody Knows」のレコーディングも、悲しい曲なのに「わーい！ これだよこれ！」みたいなテンションでした。

──歌詞も曲調もボーカルスタイルも対照的な2曲で、極端だがしかし妙にバランスのよいシングルになったのではないかと。

最初に私が「カップリングは絶交の歌がいい」と言ったときは、1枚のシングルで出会いと別れを描きたいとかそういう意図はまったくなく、単に自分のやりたいことが自然と出てきただけだったんですよね。でも振り返ってみると、なんかこう、別れをテーマにしたかった時期だったんだろうなと思いました（笑）。みんなもこれを聴いて一度、人間関係について考えてほしいな。