大橋彩香「Étoile」「Be My Friend!!!」インタビュー|アコースティックとメタル、対照的な2作品で見せる魅力

大橋彩香が4月27日にアコースティックミニアルバム「Étoile」とシングル「Be My Friend!!!」を同時リリースした。

大橋は昨年12月にアコースティックミニアルバム第1弾「Lumière」をリリースしている。この第1弾のテーマは“光”で、大橋がこれまで発表してきた元気で明るい楽曲にアコースティックアレンジが施されていた。その対となる第2弾作品のテーマは“星”。「ハイライト」「ロンリーサンシャイン」「Break My Jail」「Winding Road」「バカだなぁ」「NOT YET」といったカッコいい曲やクールな曲のアコースティックバージョンに、新曲「Étoile」を加えた全7曲が収録されている。

シングル「Be My Friend!!!」の表題曲は、TOKYO MXほかで放送中のテレビアニメ「史上最強の大魔王、村人Aに転生する」のオープニング主題歌。メタルサウンドに乗せて「友達になってください」という切なる思いを歌う、インパクトの強いナンバーとなっている。

音楽ナタリーではアコースティック曲からメタル曲まで見事に歌いこなす大橋に2作品について話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 塚原孝顕スタイリスト / 眞壁祐子ヘア&メイクアップ / 大橋美沙子

やさぐれ慣れました

──昨年12月にリリースしたアコースティックミニアルバム「Lumière」は“光”をテーマに明るく元気な楽曲をセレクトした作品でした(参照:大橋彩香「Lumière」インタビュー)。

はい。

──対して、今回の「Étoile」は“星”をテーマにダークでカッコいい楽曲をセレクトした作品で、収録曲は1曲目の「ハイライト」(2018年11月発売の8thシングル表題曲)以外はすべてシングルのカップリング曲とアルバム曲という、裏ベスト的な選曲になりましたね。

私の場合、そもそもカッコいい曲がカップリングかアルバムにしかなくて、A面でカッコいい曲はニューシングルの「Be My Friend!!!」が初めてなんですよね。「ハイライト」にしても“明るく元気”枠かなとも思ったんですけど、実は“カッコいい”も同居している曲なので、唯一のA面曲として収録しました。

──「ハイライト」のアコースティックアレンジは、「Lumière」では「ダイスキ。」(2019年8月発売の9thシングル表題曲)を担当されたmonologさんです。ハーモニカをフィーチャーしたラテンジャズ風のアレンジで、一般的な管楽器ではこの柔らかいムードは出ないでしょうね。

うんうん。のどかな感じですよね。

──大橋さんのロングトーンも原曲以上に伸びやかで清々しいです。

このアレンジはすごく歌いやすくて、ライブで「ハイライト」をたくさん歌ってきたからか、原曲を録った当時よりも上手に歌えた気がします。「Lumière」でmonologさんがアレンジしてくださった「ダイスキ。」はめちゃくちゃ難しかったんですけど、「ハイライト」は原曲とあんまりノリが変わらなかったし、テンポも一緒だったので。

──テンポ、同じなんですね。だいぶ印象が違いました。

ですよね。かなりゆったり感じるというか、たぶんそれもあって気持ちよく歌えました。

──「Lumière」のインタビューで、アコースティックバージョンは「感情が表に出やすい」という話題が出ましたが、「Étoile」でそれをより強く感じました。

おお、本当ですか?

──本当です。アルバムを通して感情のグラデーションが美しくて。穏やかな「ハイライト」から、2曲目の「ロンリーサンシャイン」(2017年1月発売の5thシングル「ワガママMIRROR HEART」カップリング曲)以降、喜怒哀楽でいうと“怒”と“哀”にシフトしていくというか。

うんうん。「ロンリーサンシャイン」はアレンジ的にも一番激しいですよね。

──ちなみに各曲のアレンジに関しては、今回も大橋さんからアイデアを出されたんですか?

収録曲を決めた最初の会議で、大橋チームで「どんなアレンジがハマるかな?」みたいな話はしていて。そのとき「『ロンリーサンシャイン』はアコギジャカジャカ系で」とか「『NOT YET』(2020年12月発売の3rdアルバム「WINGS」収録曲)はストリングス系で」とか、本当にざっくりなんですけど、そういう方向性については意見を出しました。

──おっしゃる通り「ロンリーサンシャイン」と、続く「Break My Jail」(2017年8月発売の6thシングル「ユー&アイ」カップリング曲)、「Winding Road」(アルバム「WINGS」収録曲)の3曲はアコースティックギターがメインですね。ただ、「ロンリーサンシャイン」はパーカッションがコンガ、「Break My Jail」はカホンで、「Winding Road」はパーカッションなしのアコギ1本と、リズムで変化を付けています。

そうなんですよ。同じアコギジャカジャカ系でも全然違って聞こえて面白いですよね。

──その中で特に、中村タイチさんがアレンジした「ロンリーサンシャイン」は先ほども言ったように“怒”の色が濃い。

「ロンリーサンシャイン」は、原曲よりもリズムの後ろにアクセントが付いているのでノリを意識してレコーディングしたんですけど、ニュアンス的な部分はあんまり原曲と変えてなくて。ただ、この曲は大橋彩香が初めて歌った攻撃的な楽曲なんですよ。だから、当時はまだそういう曲を歌い慣れていない感じがあったんですけど、それから数々のやさぐれ曲を歌ってきてからの再録だったので、よりやさぐれ感が強くなっている気がします。うん、やさぐれ慣れましたね。

大橋彩香

カッコいい曲がカッコいいまま、別のものに生まれ変わっている

──「ロンリーサンシャイン」の感情が“怒”だとしたら、続く「Break My Jail」は“怒”と“哀”が入り混じっていて、さらに次の「Winding Road」でグッと“哀”に寄っているように感じました。

おお、うれしい。曲順を決めるときに、それぞれの曲の感情がグラデーションになるといいなと思って。レコーディング前からそれを意図していたわけではなくて、録り終わってみたら結果的にグラデーションが付いていたんですけど、そこを意識して並べたらこうなったというか。スタッフさんに「曲順どうしますか?」と聞かれてから、5分ぐらいでできました。

──そんなに短時間で。

いつも曲順はあんまり深く考えないで、そのときのノリで並べちゃうんですよ。「Étoile」は自分でもいい並びにできたと自信を持って提出したんですけど、どこにも手直しが入らなくて。「100点だったんだ!」と思いました。

──このアコギジャカジャカ系の3曲は、アレンジだけでなく歌詞のテーマも通底しているというか。大雑把にいうと、ままならなさみたいなものが滲んでいて、統一感のあるブロックになっていますね。

確かに、特に「ロンリーサンシャイン」と「Break My Jail」はリリース時期も近いので、この流れは自然と固まりましたね。

──「Break My Jail」のアレンジは渡辺キョータさんで、原曲のリズミックな要素が生かされていると思いました。

そう、すごく疾走感が出ていますよね。渡辺キョータさんは普段ワンマンライブでギター弾いてくださっている方で、今までずっとライブではお世話になってきたんですけど、今回がっつり音源のほうにも参加してくださって、めちゃくちゃうれしかったです。

──「ロンリーサンシャイン」も「Break My Jail」も、ほぼアコギとパーカッションのみの演奏にもかかわらず非常にアグレッシブに聞こえますよね。

うんうん。「Lumière」のときは、明るい曲がしっとりしたアレンジになって、けっこう属性がチェンジした感じがあったんですよね。それに対して「Étoile」は、カッコいい曲がカッコいいまま、でもしっかり別のものに生まれ変わっていて、すごいなって思います。

──少し先回りすると、僕は特に6曲目に収録された「NOT YET」にそれを感じました。

おっ! 「NOT YET」は私の最推し曲なんですよ。

──いいですよね。それについてはのちほど伺うとして、アコギゾーン最後の「Winding Road」も見事に生まれ変わっています。ビッグルーム系のEDMとラウドロックのミクスチャー的な原曲を、アコギ1本でミディアムバラードのように仕上げていて。アレンジは「Lumière」で「明日の風よ」(2014年8月発売の1stシングル「YES!!」カップリング曲)を担当されたSAMOYEDさんですね。

大橋彩香

「Winding Road」が一番、アレンジの振り幅が大きかったんじゃないかな。ラインナップに「Winding Road」を入れた時点で「この曲は苦戦するだろうな……」と思ったんですけど、実際にそうなりまして。もともとダンスナンバーだった曲をアコースティックにすること自体が大変なことだと思いますし、しかもこの曲はサビのボーカルの割合がけっこう少ないんですよ。こう、歌の休憩時間が多い?

──休憩時間(笑)。

ライブだとそこは踊っている時間で、だから音源だと持て余しちゃいそうだし、テンポもゆっくりで演奏もアコギ1本だけになると……もう、最初にアレンジをいただいた時点でSAMOYEDさんから挑戦状を叩き付けられたというか、暗に「ボーカルめちゃくちゃがんばれよ!」と言われているような気がしましたね。

──その挑戦状にしっかり応えているのでは? フォークソング的な枯れた味わいもありつつ、盛り上げるところはしっかり盛り上げていて。

わあ、よかった。一歩間違えるとベタベタベタベターって、のっぺりした歌になっちゃいそうだったので、そこにすごく気を付けました。まあ、当初はしっとり歌おうとしたんですけど、結局盛り上がっちゃって。私には盛り上がりグセがあるので、つい。でも、結果的に1曲の中でいい感じに波ができたんじゃないかなと。