大橋彩香「Lumière」インタビュー|初のアコースティックアルバムで見せた、新たな表情 (2/2)

しんどさマシマシになったクリスマスソング

──4曲目の「ワガママMIRROR HEART」はピアノトリオの演奏によるリリカルな仕上がりで、リラックスしていた前2曲から空気が変わります。アレンジは村山☆潤さんですね。

「ミラハ」もわりと最近、とある番組でアコースティックアレンジで歌ってはいるんですけど、そのときはリズムがカホンだったので、ここではバンド編成に。シンプルなドラムセットで、ちょっとヒップホップ的というか、タメのあるリズムで原曲とは違う疾走感を出していただきました。この「ミラハ」のアレンジはすごく私好みで、「バンドでやるとこんなふうになるんだ!?」という驚きもありましたし、今言ったリズムにしても、特にサビの後半で変化するあたりがたまらないですね。私はドラムをやっているからリズムばっかり気になっちゃうんですけど。

──原曲はアッパーでありながらセンチメンタルという、面白いバランスの曲でしたが、アコースティックバージョンはセンチメンタル成分多めといいますか。今おっしゃったタメがある分、より気持ちが乗っているように思います。

自分でも気持ちを乗せて歌うことを意識したので、その感想はとてもうれしいです。余裕を出すためにキーも2つくらい下げたんですよ。それを言ったら「ダイスキ。」でもキーを下げているんですけど、アコースティックであんまりキーが高いとギャンギャンしちゃうかなとも思って。あと、「ミラハ」に関しては歌詞がけっこう叙情的だったりするので、気持ち的にはこのアレンジがマッチしている気がしますね。もちろん原曲のはっちゃけたノリも大好きなんですけど。

──次の曲「キミがいないクリスマスなんて」(3rdアルバム「WINGS」収録曲)は、今の時期にぴったりなクリスマスソングですね。

「WINGS」のリリースが12月だったので、その時期に合わせて「クリスマスソングを作らない?」と提案されたんですけど、それに対して私が「イエーイ! ハッピーメリークリスマス! という感じの曲じゃなかったらいいです」と言ってできた、“おひとり様クリスマス”の歌です。

──この歌詞、最高ですよね。「どこもかしこもイルミネーションで 辛過ぎるよ!」「なんで私一人きりなの?」と、作詞のKanata Okajimaさんに何かあったんだろうかと少々心配になってしまいますが。

私のネチネチした気持ちをオブラートに包んで表現してくださいました(笑)。いつもKanataさんは私の刺々しい感情を素敵な歌詞に仕立て上げてくださるので、すごく助かります。

──そんな曲のアコースティックアレンジは、新曲「Esprit De Lumière」のアレンジもなさっている本間昭光さんです。楽器はほぼピアノとマラカスのみので、コーラスが厚めに入っていることもありホーリー感が増していますね。

この曲のオケは本来こうあるべきだったのかもしれないと思うぐらい、うまくハマっていますよね。オケが歌詞に寄ってきたと言ってもいいかもしれません。原曲は「パリピみたいな曲だな」とずっと思っていて、わりと楽しく歌ってもいたんですけど、アコースティックアレンジにするとこうもどんよりするのかと。なのでボーカルも、原曲ではちょっと怒りを発散しているところがあったのが、自ずと内向きに、寂しく切ない感じになっていますね。

──ホーリー感が増した分、つらさも増すという。

しんどさマシマシですね。なので、今年のクリスマスは気分に合わせてお好きなアレンジのほうを聴いていただいて(笑)。

大橋彩香

大橋彩香

本当に星になってしまいそうだ!

──6曲目「流星タンバリン」のアレンジはHitoshi Harukawaさんです。ストリングスとアコースティックギターを軸に、タンバリンはもちろんトイピアノやスライドホイッスルといったトイ楽器も組み入れた優雅かつにぎやかなアレンジですね。

なんでもあり的な楽しさもありつつきらびやかで、「流星タンバリン」のアレンジが一番びっくりしました。「おおー、本当に星になってしまいそうだ!」みたいな。これだけ壮大にしてくださったので、この曲はラストに持ってこようか迷ったんですよね。でも、新曲の「Esprit De Lumière」も余韻がすごくさわやかなので、この曲順になりました。私の中では「流星タンバリン」でライブ本編が終了して、「Esprit De Lumière」はアンコール的な位置付けです。

──「流星タンバリン」は1stアルバムの収録曲なので初期の曲と言えますが、ボーカルは原曲の明るく元気なテンションを踏襲していますね。

そうですね。明確に何かを変えなきゃいけないとはあまり思っていなくて。極端な話、アコースティックアレンジって、ボーカルを新録しなくても成立させられるじゃないですか。オケを差し替えてミックスを変えればいいので。そうじゃなくてあえて歌い直すということで、新しいアレンジから感じ取ったものを素直に声に出していくように歌わせてもらいました。でも、この「流星タンバリン」は睡魔と戦いながらレコーディングした記憶がありますね。

──睡魔?

これは全然悪い意味じゃないですし、自分でも「なんなんだろう?」と思っているんですけど、最近、私はゆったりした曲を歌っていると安らかな気持ちになってすぐ眠くなっちゃうんですよね。こないだも「アイドルマスター シンデレラガールズ」のライブで「ラララー」って歌いながら手を振る曲があったんですけど、うとうとして何度も持っていかれそうになったという事案があったりして。浄化されているのかな?

──自分が歌えばすぐ入眠できるって、便利でいいですね。僕はわりと寝付きが悪いほうなので。

そうなんです。「歌えば寝られるんだ?」という発見がありましたね。この「流星タンバリン」も、おやすみ前に聴くとよく眠れるんじゃないかな。

希望に満ちあふれた曲

──そしてアルバムラストに収録された新曲「Esprit De Lumière」は作詞・作曲がTAKUYAさん、編曲が本間昭光さんですね。タイトルは、そのまま訳せば「光の精神」となりましょうか。

素敵ですよね。私だったら「CAFÉ de CRIÉ」ぐらいしか出てこない。

──(笑)。

フランス語のタイトルもそうですけど、とても不思議な世界観で、今までの大橋彩香にはなかったタイプの楽曲じゃないかなと思いますね。歌詞も、最初に見たときはTAKUYAさんの言葉選びが独特すぎて「すごいな。全然わからん」みたいになっちゃったんですけど(笑)。でも、よくよく読むとファンの皆さんと楽しくどこまでも飛んでいけるような、皆さんと一緒ならなんでもできそうな希望に満ちあふれた歌詞であり、私も自信をもらえたような気がしています。

──先ほどクリスマスに対して後ろ向きになっていましたが、やはり大橋さんには“光”のイメージが合うように思います。

パブリックイメージ的には、たぶんそうですね。でも本当の私には“闇”があるので、それは「Étoile」のほうで濃くなっているかもしれません。だから実は、私は「“光”と“星”じゃなくて、“光”と“闇”がいいです」と言ったんですけど、却下されました(笑)。

──これまでも「裏の顔がある」というお話をされていましたしね。

「WINGS」でもその片鱗が見えていると思うんですけど、デビューから8年も経っているし、そろそろいいかなと(笑)。

──「Esprit De Lumière」は「不思議な世界観」とおっしゃいましたが、かなりの難曲ですよね。

めっちゃ難しかったです。すごくきれいで耳に心地よいメロディラインなのに、何回聴いてもうまく覚えられなくて。こんなに曲を覚えられないこともなかなかなかったですし、息を吸うのも難しいんですよ。私は普段は楽譜とかに書き込みをしないんですけど、この曲では初めてブレスの位置をめちゃくちゃ書き込みました。どこで息をするか決めておかないとパニックになると思って。

──確かに、歌詞も曲も切れ目がないというか。

そう。つながったまま、滑らかに上昇し続けていく感じがすごくあって。キーもだんだん上がっていって、ずっと上のほうをキープするようなメロディラインにもなっているので、改めて「TAKUYAさんの楽曲って、激ムズなんだな」と思い知らされましたね。

──でも、それをしっかり歌いこなしていて。大橋さんの持ち味の1つである高音域のロングトーンも気持ちいいです。

本当ですか? 私としては、もっと余裕な感じで優しく歌おうかなと思っていたんですけど、そんな余裕が全然なくて(笑)。特にサビは声を張らないと歌えなくて、普段のレコーディングと同じように「うおおお!」みたいになって、当初の思惑に反してパワフルになっちゃいました。でも、これも私らしくていいかなと思っています。

音楽的な原点に立ち返れた

──ここまでのお話の中でもちょいちょい言及されてはいますが、既存曲をアコースティックアレンジにすることで、何か発見などはありましたか?

今回は「明るく元気な曲」という縛りで選曲したんですけど、それをアコースティックに落とし込んだことで、ただ明るく元気なだけの曲じゃなくなるというか。なんなら暗くもなりますし、アプローチ次第でいろんな表情を見せられるんだなと。だから「編曲家さんはすごいな!」と思いましたし、もともと私は編曲に興味があったので、自分の曲を改めていじってもらえて面白かったです。

──編曲家にはもっとスポットが当てられるべきだと僕も思います。

本当にそうですよね。「Esprit De Lumière」も、デモの段階ではTAKUYAさんがアコギ1本で弾いてくださっていて「これぞアコースティック!」という感じで。それもすごく素敵だったんですけど、本間さんの編曲でスケール感が一気に増して、そのギャップにもびっくりしました。

──サビはハウスっぽいビートになっていますしね。今お話をお聞きしてアコギバージョンも聴いてみたくなりました。

アコースティックに限らず普段のリリースでも、コンペで選んだデモが編曲家さんの手に渡ってからまた戻ってくると「こんなに変わるんだ!?」といちいち騒いでいますね。あと、発見とはちょっと違うんですけど、私自身が最近はリスナーとしてアコースティックな曲にハマっているので、自分でもそれがやれて楽しかったですね。

──アコースティックのどんなところがお好きなんですか?

感情が表に出やすいというか、例えば「THE FIRST TAKE」とかでアコースティックアレンジで歌われているアーティストさんの歌を聴くと「原曲以上に好きかも」と思っちゃうんですよ。皆さんエモーショナルに歌い上げているので。あとは単純に、ボーカルが聴きやすい。せっかくいい歌なのに、時としてバックの演奏に埋もれてしまっていることもあるじゃないですか。でも、アコースティックなら音数も少ないので、より繊細な表現が聴けるんですよね。

──それは、そのままこのアルバムにも当てはまることですね。

確かに、私の曲はけっこう音数が多くてごちゃごちゃした曲が多いので。

──いや、重要なのは「感情が表に出やすい」や「より繊細な表現が聴ける」という部分で。おそらくファンの皆さんもそう感じると思います。少なくとも僕はそう感じました。

わあ、ありがとうございます。アニソンに限らず、年々テンポが速くてキーが高くて音数が多い曲が増えてきている気がしていて。もちろんそういう曲も好きだし私も歌ってきているんですけど、ここで一旦落ち着かせるというか、音楽的な原点に立ち返れたのも自分にとっていい機会だったと思いますね。「Étoile」のほうもすでに収録曲は決まっていて、「Esprit De Lumière」とは正反対のダークな新曲も1曲入る予定なので、そちらも楽しみにしていてください。

プロフィール

大橋彩香(オオハシアヤカ)

1994年9月13日生まれの声優アーティスト。2011年開催の「第36回ホリプロタレントスカウトキャラバン~次世代声優アーティストオーディション~」でファイナリストに残ったことをきっかけに声優デビューを果たし、「アイカツ!シリーズ」「ドキドキ!プリキュア」「アイドルマスター シンデレラガールズ」「BanG Dream!」「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」「THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール」「ウマ娘 プリティーダービー」など人気作でメインキャストを務める。2014年8月には自身がメインヒロイン・園川モモカ役を担当するアニメ「さばげぶっ!」のオープニングテーマ「YES!!」でアーティストデビュー。2016年5月に1stアルバム「起動 ~Start Up!~」をリリースする。2019年9月にはアーティストデビュー5周年記念ライブ「大橋彩香 5th Anniversary Live ~ Give Me Five!!!!! ~」を神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで開催。2020年12月にアーティストデビュー5周年を締めくくる3rdアルバム「WINGS」をリリースした。2021年5月にアルバムを携えて千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールで初のアリーナライブ「大橋彩香ワンマンライブ 2021~Our WINGS~」を開催。8月に“大橋彩香 a.k.a HASSY”名義で配信シングル「#HASHTAG ME」をリリースした。12月に「Lumière」、来春に「Étoile」と題されたアコースティックミニアルバムを連作でリリースする。