小倉唯「Tarte」インタビュー|初のセルフプロデュースアルバム完成!フルーツ全部乗せの“欲張りタルト”をお届け (3/3)

やっぱりロックってこういうことだよね

──アルバム後半の「Destiny」(2019年10月発売の10thシングル表題曲)から新曲「Wish」というロックナンバーが続く流れ、とてもいいですね。「Wish」は疾走感のあるエモーショナルなピアノロックで、3分ほどの短い時間の中でイントロからアウトロまで一気に駆け抜けていくような疾走感とグルーヴ感が心地いいです。

自分の本能のままに駆け抜けていくような疾走感がありますよね。明確な理由はわからなくても、とにかく感情を揺さぶられる……そういった魅力をこの曲には感じて。「やっぱりロックってこういうものだよね」と。今の自分が歌うことで、言葉や楽曲に何か深みが出せたらいいなという気持ちが芽生えましたね。歌詞や畳みかけるようなメロディライン、リズム感も決め手となりました。

──作詞・作曲・編曲は鶴﨑輝一さんですが、デモの時点ですでにこの歌詞が入ってたんですか?

はい、そのときから歌詞の内容はほぼ変わっていないです。曲をいただいたときにはライブで歌うような情景も見えましたし、「自分が表現したいな」と強く思う内容でした。

──明日に向かって進んでいくような衝動を感じる歌詞になっていますが、小倉さんの心が重なる部分があったんでしょうか?

全体を通してそう感じますが、特にサビの「強く感情を振り切るくらいにハイに入れたら 響く 旋律を ならせ 声枯らしても良いさ」という潔さ。自分の身を捨ててでも、ギアを入れて覚悟を持っている感じ。揺るがない本能は、自分の思いとも重なるところがあって。だから「Wish」の歌詞は、自分自身も曲と一体となって届けられるのかなと思ったんです。今の自分だったら、きっとこの歌詞に思いをすべてを乗せて表現できる……今歌いたい曲だな、という気持ちが湧き上がりました。

──実は仕上がった順に新曲をお送りいただいて、「Wish」とウィスパーボイスのようなキュートな歌声が印象的なナンバー「CiaoCiao Afternoon」を同時に受け取ったんです。そこでこれはものすごい振り幅のアルバムだと思いまして(笑)。

そうなんです(笑)。

──「CiaoCiao Afternoon」はボカロPのJunkyさんによる提供曲ですが、この曲もデモの時点ですでにこの歌詞が乗っていたんですか?

この曲は、提供していただいたJunkyさんと、どんな曲にしようかというところからご相談しながら作っていきました。この曲をオーダーさせていただいたときに、“ASMR”という1つの裏テーマがあって。

──なるほど。小倉さんはYouTubeでもASMR動画をアップしていましたよね。

はい。ちょっと遊び心のある曲にしたかったのと、SNSで広がっていくような曲になったらいいなという思いがありました。なので、かわいらしい単語をたくさん取り入れてもらっていたり、サビでは「いーね いーね めっちゃいーね」というSNSを意識したフレーズも出てきたり。たくさんかわいい言葉が並んでいるので、少し初心に戻って、とにかくかわいく歌うことを意識しました。

──「CiaoCiao Afternoon」はアフタヌーンティータイムを歌ったかわいい曲でありながら、「いーなぁ どれも全部いーなぁ」「ラッテもチーノも 楽しんじゃえ」という内容が、いいと思った音楽をジャンルにとらわれず楽しんでる近年の小倉さんのモード、そして幅広い楽曲がギュッと詰まったこのアルバムをまさに的確に表している曲なんじゃないかなとも受け取れて。そういう意図は特になかったですか?

それらは、こちらから特にリクエストしたわけじゃなかったんですが、実はJunkyさんがこれまで私の楽曲をいろいろと聴いてくださっていたそうで、そうしたアイデアを発信してくださいました。楽曲に対しての愛情を感じましたね。アフターヌーンティーというフレーズも、実はアルバムテーマのタルトと意図的にリンクさせてくださったみたいで。「これと(これと)あれと(それも)全部(もっと)全部(ちょーだい)」という部分では、“欲張りタルト”というところからJunkyさんがイメージを組み込んでくださったというお話を聞いて、すごく感動しましたね。

──ということは、小倉さんがいつも使っているおなじみのフレーズ「がんばりまめ大福」にちなんで「まめ大福」が歌詞に出てくるのもJunkyさんの粋な計らい?

実は歌詞を作っていただくにあたって、Junkyさんから「小倉さんからかわいいワードをたくさんいただきたいです」というご要望があり、10~20個くらい、かわいいと思う言葉を並べて提出したんです。そのときに、ちょっとした遊び心で「まめ大福」という言葉を入れてみたら、まさかの採用で。「グリッター」や「ソフトフォーカス」なんて冒険的なワードもきれいにはめていただいてうれしかったですね。まさか使われるとは思っていなかったです(笑)。

──「淡くキュートでセクシーにソフトフォーカス」って、小倉さんをワンフレーズで表しているような歌詞だと思いましたけどね。

いやー、本当にすごいですよね! 言葉を並べているときには「『ソフトフォーカス』って、果たしてかわいい言葉なのかな?」と疑問に感じながらピックアップしましたが、こういった形でハマると、すごく素敵だなあって。あのとき、言葉の提出をためらわなくてよかったです(笑)。

人に会える瞬間ってすごく特別なこと

──アルバムのラストを飾る新曲「桜色ラビネス」の作詞は小倉さんが手がけています。アルバムの最後の曲を作詞しようと決めたうえで書いた曲ですか?

実は、曲順までは決めていなかったんです。でも、せっかくのセルフプロデュースということで、何曲かは自分で作詞できたらいいなあとも思っていて。

──デモを聴いてどういうところに心揺さぶられたんでしょうか?

畳みかけるようなポップなメロディを聴き、「早く会いたい!」という思いを描こうと作詞のイメージがパッと浮かんだんです。コロナ禍で、思うように人と会えない日が続いていると思いますが、自分にとって大切な人に会うときって、会うまでの時間すらも楽しいんじゃないかなって。会えてうれしい気持ちや楽しい気持ち、高揚していく感情が、このメロディに重なったんですよね。作詞しているときには、女子会で遊ぶ約束をしていたとき、とにかくみんなに早く会いたくて仕方ない気持ちや、会うまでの時間、会ったときのおしゃべりが止まらないような情景を思い浮かべながら、作詞を進めていきました。

小倉唯

──「桜色ラビネス」というタイトルはどういうところから思い浮かんだんですか?

2月中旬にアルバムを出すということで、この先に待つ春をイメージした曲を作れたらいいなと思ったんです。「桜」だったり、春らしいワードをいくつか考えていったんですけど、ふと自分の中に「ラビネス」という言葉が降りてきて。春の温かくて柔らかい雰囲気、大切な人に会えたときに、うれしくて心がピンクにふわっと染まっていくような情景を思い浮かべて「桜色ラビネス」というタイトルにしました。

──「胸ときドキ」という言葉が面白いと思ったのですが、どういうふうに生まれた言葉なんでしょうか。「ときめき」と「ドキドキ」を掛け合わせたフレーズなのかなと想像したりもしたんですが。

「時々」心が「ドキ」ッとするイメージで「胸ときドキ」というフレーズを考えてみました。作詞している中で突然降りてきた言葉だったので、特に深い意味は考えていませんでしたが、言われてみると確かに独特な表現かもしれないですね(笑)。

──ほかにも「誰よりも ウォーアイニー」や「純心に染まってゆくのがグラデーションみたい」「待ってたんだよ (待ちくたびれた) 桜色ほっぺた」など、印象的なフレーズが多い曲だと感じたのですが、歌詞の書き方で特に意識したことはありますか?

歌詞を書くにあたっては、キャッチーでかわいい響きの言葉を大切に、とにかく純真無垢でピュアな女の子像をイメージして。なので、「純心」や「待ってたんだよ」「誰よりも ウォーアイニー」といったワードが自然と思いつきました。ちなみに、「ウォーアイニー」は、「会いたい」の「アイ」にかけて思いつきました。淡く繊細で健気な心情をポップに描き、聴いてくださる方をキュンキュンさせられたらいいな、という思いがありましたね。

──レコーディングではどういう気持ちを乗せて歌いましたか?

昨年、ひさしぶりに開催できた有観客ライブ「#Re♥LOVEcall」でも感じた、ファンの方に向けての「やっと会えたね! また会いたいね!」という思いだったり、大好きな友達たちに早く会いたくてしょうがないあふれ出る感情、会える当日の心躍るような気持ちを描いて歌いました。コロナ禍での生活を経て、人に会える瞬間って改めてすごく特別なことだなと痛感しています。

──「また会いたい」というフレーズでアルバムが終わるのがいいですね。

ライブやイベントを迎える当日に、会場に向かいながら聴いていただきたい曲ですね。会ったあとにもこの曲を聴きながら「楽しかったな」「いつの日かまた会いたいな」と思い出や余韻、この先への期待感に浸っていただきたいです。

0から1を生み出す作業ってすごく楽しい

──「ハイタッチ☆メモリー」の頃は「作詞は今のところは考えてないです。まだちょっと恥ずかしいので」とおっしゃっていたほどでしたが(参照:小倉唯「ハイタッチ☆メモリー」インタビュー)、それから5年間の変化をご自身でどのように感じていますか? セルフプロデュースというビジョンが見えてきたきっかけや、セルフプロデュースで面白みを感じている部分を教えてください。

スイッチが入ったターニングポイントは、シングル「I・LOVE・YOU!!」です。リリース後、何よりもファンの皆さんからの反応がすごくよくて、本当に驚きました。自分が思い描く理想像とファンの皆さんが私に求めている部分が、120、いや、200%くらい共鳴していたんだと、確信に変わりました(笑)。もともと私は何かを生み出す作業が好きだったこともありますし、向上心が強すぎる性格も相まって、セルフプロデュースの魅力にどっぷりとハマっていきました。個人的には、0から1を生み出す作業ってすごく楽しいんです。大変さよりも、ワクワクや楽しさのほうが勝ってしまうんですよね。自分が思い描いていた世界観が形になったとき、そして何よりも、それらをファンの皆さんが評価してくださったとき。その瞬間に、どんなに大変なことがあっても「報われた!」という感動や達成感を感じます。

──数年前、小倉さんは自身の挑戦やエネルギーの原動力について、がんばってる自分がいないと自分じゃなくなる不安感や、コンプレックスが強いからこそ自分が自信を持つためにいろいろとがんばれるということを挙げていました。しかし最近の小倉さんを見ていると、そういった思いもあるかもしれませんが、同時に音楽活動の楽しさ、作り手としての純粋な喜びが小倉さんを挑戦に駆り立てている印象もあります。作詞やセルフプロデュースなど音楽制作への携わり方が深くなっていく中で、小倉さんの中で音楽作りの楽しさや喜びがより膨らんでいっているような、そういった気持ちの変化はありますか?

確かに長い年月の中で、そうした心情にはかなりの変化がありましたね。今でも心配しいで、常にがんばり続けたいと思う姿勢は変わっていませんが、根本にあるのはそれが楽しいからだということを、本質的に理解して。むしろ楽しまなきゃ損だ、と思えるようになりました。無意識のうちに、「がんばることに追われ続けていた私」から「自ら楽しさを見出してがんばる私」に変化していったのだと思います。心に少し余裕が生まれてきたのかもしれませんね。それは、年齢を重ねた部分での精神的成長や、さまざまなお仕事や現場に触れていく中で獲得していった、価値観や考え方の変化というものが大きいです。

──集大成的なアルバムであり、これまで小倉さんが積み上げてきたものを感じる作品であると同時に、アーティストデビュー10周年以降、小倉さんがどのような音楽を生み出していくのか、さらに楽しみになるような作品でした。今後音楽活動で挑戦してみたいことや展望はありますか?

これからも、声優やアーティストとしての冒険を続け、応援してくださる皆さんをアッと思わせていきたいな。「やっぱり唯ちゃんだよね」と思っていただける存在でいられるように、この先どんな試練が待ち受けようとも、変わらず努力を重ねていきたいです。自分らしさや正義感を大切に。最後には、愛や努力、誠実さが勝つということを自分自身の活動やパフォーマンスを通じて証明し、世界中の皆さんに希望を届けていきたいです。あと、生バンドや生演奏でのステージにはいつかチャレンジしてみたいかな。10周年という長い期間を駆け抜けてきた自分に誇りを持ちつつ、これからもファンの皆さんとともに、この先の活動を楽しんでいきたいです。

小倉唯

プロフィール

小倉唯(オグラユイ)

1995年、群馬県生まれの声優、アーティスト。2009年に14歳で声優デビュー。「HUGっと!プリキュア」輝木ほまれ / キュアエトワール役、「プラチナエンド」ナッセ役など数々の話題作でメインキャラクターを担当する。2012年7月にシングル「Raise」でソロデビュー。2015年3月には初のフルアルバム「Strawberry JAM」をリリースし、7月には神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで初のワンマンライブを開催した。2018年3月リリースのシングル「白く咲く花」のカップリング曲「かけがえのない瞬間」では初めて作詞を手がける。2020年は2月に自身で企画プロデュースから作詞まで行った11thシングル「I・LOVE・YOU‼」、6月に12thシングル「ハピネス*センセーション」、12月に初の配信シングル「Very Merry Happy Christmas」と3作品をリリースした。2021年3月にスマートフォン向けアプリゲーム「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」のテーマソング「Clear Morning」を13thシングルとしてリリース。7月に神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールでライブ「小倉唯 LIVE 2021『#Re♥LOVEcall』」を行い、8月にテレビアニメ「ジャヒー様はくじけない!」のオープニング主題歌「Fightin★Pose」を表題曲とした14thシングルを発表した。2022年2月にセルフプロデュースによる4thアルバム「Tarte」をリリース。